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第14話 歪んだ領地

 その日のうちに、指示は出された。


 徴税の再編。

 流通の優先順位の再設定。

 水路整備の再開。

 そして、倉庫の在庫の再分配。


 すべてが、明確だった。


 無駄がなく、迷いがなく、そして容赦がなかった。


「……これで、回ります」


 エレノアは言った。


 執務室の空気は重い。


 代官をはじめ、数名の役人がその場に立っている。


 全員が、その指示の意味を理解していた。


「三日以内に、最低限の流通は回復します」


 淡々と続ける。


「ただし」


 一瞬だけ間を置く。


「従わない者は、排除します」


 その言葉に、空気が凍る。


 誰も反論しない。


 できない。


 それが最も早い方法だと、全員が分かっているからだ。


 だが――


「……それで、本当に」


 代官が、恐る恐る口を開いた。


「うまくいくのでしょうか」


 その問いは、疑問ではない。


 不安だ。


 エレノアは、まっすぐに彼を見た。


「うまくいかせます」


 即答だった。


 迷いのない声。


 だが――


 その言葉に、以前ほどの“絶対性”はなかった。


 ほんのわずかに。


 揺らぎがある。


 誰もそれを言葉にはしない。


 だが、感じていた。


「……では」


 代官は頭を下げた。


「すぐに実行を」


 役人たちが動き出す。


 指示は伝わる。


 命令は下りる。


 そして――


 数刻後。


「……何だと?」


 最初の報告が入った。


 エレノアは顔を上げる。


「北区の商人が、徴税の再開を拒否しています」


 文官が言った。


「理由は」


「“もう従う理由がない”と」


 沈黙。


 代官の顔が青くなる。


「そんな……」


「他にも」


 文官は続ける。


「水路整備のための労働者が、半数以上集まりません」


「なぜだ」


「賃金が安いと」


 当然の反応だった。


 これまで抑えられていた不満が、表に出ている。


「……倉庫は」


 エレノアが問う。


「在庫の再分配は?」


「一部で衝突が発生しています」


 短い報告。


「“なぜこちらが後回しなのか”と」


 沈黙。


 すべて、予想通り。


 そして――


 すべて、想定以上。


「……遅い」


 小さく呟く。


 代官が顔を上げる。


「え?」


「反発が、遅すぎる」


 静かな声。


「もっと早く出るべきでした」


 その言葉の意味を、誰も理解できなかった。


 だがエレノアの中では、明確だった。


 これは“溜まっていた”反発だ。


 今まで押さえつけられていたものが、一気に出ている。


 つまり――


 限界を超えていた。


「……指示を変更します」


 エレノアが言った。


 空気が張り詰める。


「徴税は、一部を延期」


「え……?」


 代官が驚く。


「しかし、それでは収入が――」


「短期的には落ちます」


 遮る。


「ですが、拒否が広がる方が損失は大きい」


 合理的な判断。


 だが――


 それは“後手”だった。


「水路整備は、賃金を上げます」


「予算が……」


「他を削ります」


 迷いなく言う。


「どこを」


 一瞬だけ、間があった。


 ほんのわずか。


 だが、確かに。


 そして。


「……医療」


 その一言に、空気が凍った。


 代官が息を呑む。


「そ、それは……」


「優先順位です」


 冷たい声。


 だが――


 その奥に、何かがあった。


 以前とは違う何かが。


「……承知、いたしました」


 代官は、絞り出すように言った。


 それしか言えなかった。


 エレノアは、窓の外を見た。


 人々がいる。


 生活している。


 そして――


 不満を抱えている。


「……」


 静かに、目を閉じる。


 一瞬だけ。


 だが。


 その間に浮かんだのは――


 王都の光景だった。


 パンを買えなかった子供。


 泣いていた母親。


 そして。


 何もできなかった少女。


「……」


 目を開ける。


 何も言わない。


 ただ。


 前を見る。


「……回す」


 小さく呟く。


 自分に言い聞かせるように。


 だが。


 その声には、初めて。


 わずかな焦りが混じっていた。

 第2章が本格的に動き出しました。


 今回は王都とは違い、

 エレノアの指示が“そのまま通らない”状況です。


 そしてついに――

 彼女が「選ぶ側」である苦しさが、

 再び浮き上がってきました。


 次話では、

 さらに状況が悪化し、

 “エレノアでも想定できなかったズレ”が発生します。


 ここから一気に面白くなるパートです。


 ぜひブックマークして続きを追ってください。

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