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ラドゥガ王室恋愛譚  作者: ばいおれんじ
疵の王が向日葵の隣で仰ぐまで
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防人砦の亡霊について

 早速なんだが、防人砦の亡霊ことオレについて語らせてもらおう。

 といってもありがちな悲劇だし、ちょっくら背景的なものを知っておかねーとちんぷんかんぷんだから退屈な話になるけど。

 ま、付き合えそうなら適当に聞いててくれ。……よし、話すぞ。


 この世界において起こる戦の殆どは他種と共存するだけの知性を持ち合わせていない魔族……魔獣と称される生物か、あるいは異界からの渡り人が原因だ。

 古からこの世界に根付いている現地人が興した国同士で争うことはないと言っていい。どの種族もラドゥガ初代王に力尽く(物理)で平和をもたらされたのがトラウマになってるんだよ。

 とはいえ人間は過ちをくり返す生き物だ。大昔のことだと極稀にやらかす奴も現われるが、ちょっと調子に乗ったところでその代のラドゥガ王にボコられて大人しくなる。基本的にラドゥガは中立だけど、大国だけあって思わぬところに庇護下の奴がいるんだよな。で、気付かず手を出して……以下略。

 ただ亡国となったオレの祖国はラドゥガ王ではなく、オーガ族の唯一の生き残りボルケノによって滅ぼされた。


 オレが六歳の時、大規模な魔法事故が起こった。

 それによりオレ、兄、父、他にも城内の高魔力保持者はこの世界に飛ばされた。そうオレの祖国の者は皆、異界の民である。

 また厄介なことに元の世界では人間は魔族と敵対していたのだが、よりにもよってこの魔族が中心となる土地へと飛ばされたのだ。

 ただ聡明な父は早々に現状を把握し、この世界に順応した。周囲の集落の族長達へと足を運び、真摯に頭を下げ、民の保護を願ったのだ。

 この世界の魔族は皆、元の世界とは違って温厚かつ心優しい存在で。不幸にも元の世界へ戻れなくなったオレ達にひどく同情的だった。

 だから彼らは魔族達の共有財産だった防人砦をオレ達に譲渡し、父はそこで砦の国を興した。


 住民の殆どが魔族たるこの土地は魔力濃度が高く、魔力耐性が強い者しか過ごすことはできない。

 だが防人砦が囲う最奥には魔族すら踏み入れれば心身に異常をきたすとされる、魔力濃度が一際強い森があった。

 通称魔の森と呼ばれるそこからはひっきりなしに魔獣が生まれ、砦へと向かってくる。砦を越えられないよう、森と砦の間で食い止めるのが防人の役目だ。

 この地の集落は自慢の戦士達を砦へと送り込み、皆で協力して魔獣の襲来を対応していた。

 砦を頂き、魔族に対して強い対抗手段を持っていた為にオレ達が魔獣退治の中心となったものの、その仕組みは変わらず。

 オレとて砦の国の民である以上、王族だろうと魔獣退治に出るのは当然で。

 そうしてオレはオーガ族の戦士ボルケノに出会ったのだ。


 眼光鋭く厳つい顔かつ、淡々と魔獣を葬っていき、返り血まみれのアイツは最初見た時こそ「コワ、近寄らんとこ……」と思っていた。

 だがアイツはオレがトチって魔獣に殺されかけた際、身を挺して助けてくれたのだ。名も知らない他人であるオレを、ただ戦いを共にしたというだけで守ってくれた。

 それをきっかけにオレはアイツと話すようになり、親友となるまでに親交を深めていた。


 砦の任期から外れている間はアイツの集落へ遊びに行くようになって、そのうちオレはボルケノの妹ミネアと恋仲になった。

 ちょうど同時期にオレが国を継ぐことに決まった。元の世界での価値観を変えられず、魔族に敵対心を持つ兄では到底治められないと父が判断した結果だ。オレに王の証である黄金の腕輪を譲り、父は天に召された。

 数十年に一度やってくる、魔獣の発生が一月程度収まる静寂期。近くに控えたその時を迎えたらオレはミネアを妻に迎える予定だった。


 ――純粋で心優しい魔族とばかり交流していたオレは忘れていたのだ、人間の醜悪さを。

 静寂期が訪れる直前、オレは兄によって殺された。

 そして気付けばオレの死体を抱え慟哭するボルケノの前にゴーストとして蘇っていた。

 なんの因果でそうなったのか、わからない。オレの姿は誰にも見えない。誰にも聞こえない。この砦から出られない。せいぜい砦の中を彷徨って住人達の会話を集めるぐらいしかできることはない。


 ボルケノの悲劇を聞きつけた先代ラドゥガ王によって、当時はまだ未成年だったものの移動魔法が使えた今のラドゥガ王が送り込まれ、厳しい教育の末、ボルケノは砦の国の新たな王に任命された。

 オレが死んだ後のことだから、砦にいる者の話から推理しただけだが、ボルケノは何もかも失って。

 毎晩のように魘されながら謝る彼へお前は悪くないと伝えてもオレの声は届かない。

 オレはただボルケノが死んだように生きていくのを眺めることしかできなかった。


 ……でもあの子と文通を始めてから、アイツの中で何かが変わり始めてる。

 アイツさ、オレが死んでから一回も笑わなかったんだぜ。でも傍のオレが数十年かけてできなかったことを、離れた場所から彼女は取り戻している。とんだヤベエ女だ、そしてきっとアイツにとって光になれるたった一人なんだろう。

 聞こえるはずもないけどさ。なあセシェルイーズ様。頼む、どうか、オレの大切な親友を救ってやってくれ。

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