表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラドゥガ王室恋愛譚  作者: ばいおれんじ
紅薔薇姫と銀の蜂
11/15

退路は茨で塞がれた

忠誠ガンギマリ騎士×次女

二人の関係が過ちの一夜に見せかけた一方的な攻防戦によって、三段飛ばしぐらいステップアップする話

※不健全なネタが多めです。

 いよいよ王女様達の物語も終盤にさしかかってきましたね。

 今度の舞台の主役は第二王女様となります。


 王女様には幼い頃より自分の護衛騎士に心を寄せておりました。

 そして騎士もまた王女様へ恋情を向けている、と相思相愛の関係であります。


 ですが王女様は彼が身分差を理由に拒むであろうことを恐れ、騎士は己の立場を弁えて想いを口にすることができずにいたのです。

 ただどうやら、その関係にも転機が訪れたようですね。


 ではでは、いつも通り始めるといたしましょう。

 さて姫君と騎士がいかにして結ばれるのでしょうか、どうぞご覧くださいませ。



 俺ことロンは男爵家の三男坊という限りなく微妙な立場に産まれた。

 家の規模的にスペアにはなれず、両親が望んでいた女の子でもなく。また俺のすぐ後に妹が誕生したことによって、虐待こそされていなかったが、両親はまったく俺に関心がなかった。

 これでとびきり顔が良いとか、素晴らしい魔法の使い手とか、優れた知能を持ってるとかなら話は違ったんだろうけど。顔も頭脳も突出したところはないし、魔術師の家系にもかかわらず兄妹達と違って魔力も人並み以下。


 そんな俺が一族の恥、お荷物、不良債権と勘当され、王宮騎士団に放り込まれたのは齢十の時だった。

 いくら使えないとしても無能なだけで特に大きな問題を抱えているわけではない上、正妻の子であり、未成年の俺を放逐するのはさすがに体裁に悪い。

 あとは単純に嫌がらせかな。ラドゥガの王宮騎士団は厳しいことで有名だったから。

 実家が憧れている魔術棟は才能を見出された者しか入れないが、騎士団は入団条件が年齢程度と門戸が広い為だろう。

 とはいえ十才は入団が許される最低年齢なので、よほど困窮してるか他に何か事情でもない限り、貴族の子息は成人までは家で学んでから入団するんだけど。そうじゃなきゃ環境や鍛錬の過酷さに耐えられないのだ。


 だが不幸中の幸いと言うべきか。

 俺には剣の才能があった。不遇な扱いに慣れていたせいで精神面や環境への耐性もできている。ついでに家に居るのが嫌だったのと放任されていたことから、しょっちゅう近所の領民と一日中遊んだり農業を手伝っていたおかげで体力もあった。

 基礎を叩き込んでもらった俺はひたすら鍛錬にのめり込み、気付けば団長に目を掛けられるほどの腕前を得ていた。


 となると別の問題が湧いてくるもので。

 元々の貴族としても下から数えた方が早い爵位なのだが、完全に家から絶縁されてる以上、俺の立場は平民となる。

 にも関わらず、どんどん出世していくのだ。おかげで周囲のお貴族の坊ちゃん方々からはそれはそれはやっかまれた。顔も頭も金も権力もない、つまり本当に剣の腕だけでのし上がったという事実がいっそう許せないのだろう。

 だから奴らは日常的にしょうもない嫌がらせをしてきた。ベッドの上に虫の死骸を置くとか、シャワーの途中で熱源魔法の石を抜くとか。

 俺をライバル視はしても正面から挑んでくる、まっとうな一部の貴族はそいつらを止めてくれてたみたいだが……徒党を組んで気が大きくなってるせいか、まったく聞き入れなかったらしい。

 俺の方が強いのは至って当然のことなのに。俺は入団早かったし、起きてる間はほぼ鍛錬に費やしている。他の奴は訓練や業務がない時、遊んだり休んだりしてるけど、その分も俺は鍛えているのだ。そんな簡単に追いつかれてたまるか。

 だって俺には剣しかない。剣は俺にとっては生きる術であり、生きる理由なのだから。


 なので自分より下に見てる奴が偉くなったのが腹立たしく思うのは自由だけど行動に移しちゃだめだろ。どうせやり返される覚悟なんて決めてねえんだから。

 というわけで件のお坊ちゃん達は即座に日々の模擬試合で徹底的にボコった。私は○○家の子息だぞ、わかってるのか!と叫ばれても伯爵家や侯爵家だろうが容赦なくボコボコにした。そのうち謝って泣き言を言い出すが、団長か副団長が止めに来るまでは続けた。てめえが始めた喧嘩だろうが。

 いくら俺が上官とはいえ、自分が高位貴族だから忖度してもらえるなんて甘い考えが二度としないように。ま、剣は握れるよう手加減してるから問題ないだろ。

 なんせ王宮騎士団は実力主義だ。元の身分は何の意味も持たない。そうじゃなくても泣き寝入りとかするわけないけど。おかげでどうも相手の家を通じて、一応実家である男爵家にクレームがいったらしいが知らね。

 そんな感じで舐めた真似をする奴らを完膚なきまでに締め上げる姿を陛下に見初められ、十三の時、俺は第二王女様の護衛役に選ばれることになったのだ。



「わたくしがヴィアンクルージュよ。といっても一々こんな長い名呼ぶのも手間でしょう。だからビアンカでいいわ……ロン、聞いてる?」


 人は心を揺さぶられすぎると呼吸すらも忘れてしまうものらしい。

 それほどまでに彼女の存在は衝撃的だったのだ。

 息もおろそかにするほど見惚れていたせいで記念すべき初対面の場で何を喋ったのかまったく覚えてない。あの時の俺は頭の中身が髪色以上に真っ白けだった。


『ラドゥガの紅薔薇姫』

 舞踏会の次の日になると団員達がこぞって口にしていたので、俺もその名称だけは知っていた。

 いかんせん俺は平民なので舞踏会になんて参加できるわけないし、当時の彼女はまだそこ以外で公の場に出ることはなかった。だから俺はそれまで彼女の姿を見たことがなくて。

 とはいえ、あの副団長の妹さんだし、あんな風に呼ばれてるぐらいだから美人なんだろうなあとめちゃくちゃ期待していた。

 が、その理想を彼女は軽々と越えてきたわけだ。


 年は俺の一つ下だけあって、薔薇色の頬や目鼻立ちにはまだやわらかな幼さを感じる。

 だが彼女の女王然とした美貌はもうこの時、既に冴え渡っていた。

 陶器のように滑らかな白い肌によって、腰まで伸びた深紅の髪が引き立つ。同じ色の睫は影を落とすほど長く、ぱっちりとした深緑の瞳は彼女が持つ凜々しさに輝いていた。

 男ならばすべからく彼女に傅き、普通の人生を歩めぬような、それほどまでに彼女は美しかった。完璧という言葉は彼女の為にあるとすら思った。


 そんな感じで即行心奪われてしまった俺だが、彼女が見た目通りの女王様気質なら、わりとすぐに醒めていただろう。

 一緒に過ごした期間は短いにも関わらず、親に倣って舐め腐った態度を取っていた妹のせいで、俺は年下の高飛車な女が苦手なので。それだったらあーはいはいワガママ姫様には困ったもんだな~~とか今頃くさくさしてたに違いない。

 でも中身もめちゃくちゃ好みだったんだよなあ……。

 態度こそ威圧的だけど、まあ立場からすればそうなるだろうなと許容範囲。清廉で愛情深い、その気高さすらとびきり可愛いまである。

 しかも護衛になってからも俺が剣馬鹿なの見越して「腕がにぶらないように」という名目で定期的に騎士団の訓練させてくれたり、見下すどころか気遣ってくれるときた。

 たぶん、いや絶対ビアンカ様の護衛になれた時点で全ての運を使い果たした気がする。


 最初から意識していたから至って説得力はないが、これでも彼女に対しては主として仰ぐだけのつもりだった。

 けれど言う間でもなく今や俺は彼女にぞっこんなわけだが、この恋が叶うなんて欠片も考えたことはない。

 彼女はこの大国ラドゥガのお姫様、ましてや王位を継ぐであろうお方だ。諸事情から高位貴族の婿は取らないと仰っていたけれど、だからといって俺が手を伸ばすなんてことできるはずがない。

 ただ、命に代えても守ってほしい――その願いをビアンカ様と彼女を幸せにするであろう男に対して貫く覚悟はしている。

 それが俺の恋に相応しい末路で、俺が捧げられる彼女への愛の形だ。



 ビアンカ様と過ごし始めて早六年。

 しょっぱなからなんだが、俺は今まさに長年の信念が揺るぎそうな大ピンチだったりする。


「ッ……」


 襟は緩められているというのに呼吸が荒いせいか、妙に息苦しい。

 細い指先が俺の首筋をつっとなぞる。さしたる刺激じゃないはずなのに大げさなほど体が跳ねた。それは身を蝕む薬のせいなのか、はたまた俺を見下ろす手先まで美しい彼女のせいなのか。

 彼女の形の良い唇に乗せた紅が会場で見た時よりも薄まってる。その片割れが己の口に付いていることが未だ信じられない、生々しいほどその感触を覚えているというのに。

 回らない思考と汗ばむばかりの体のせいで、解毒薬が効いてきている実感はない。例の薬は俺へ食らわせる場合の適量よりもずっと少ないし、布を隔てたおかげで効果は弱いはずなのに翻弄される自分が情けなかった。

 どうしてこんなことになったんだろう。回復まで理性を保つ為の時間稼ぎとなるよう、俺は記憶の中を探り始めた。


 今日は王宮で夜会が開かれていたのだ。

 元々ビアンカ様は社交を得意としているのと、次期女王として経験を積むべく必然的に参加していて。ならば当然、彼女の護衛である俺も付き添っていた。

 普段の彼女ならば軽く食事を摘まむ程度なのだが、何故か今日は次々と酒を嗜んでいて。

 目当ての相手との交流は済んでいたし、ビアンカ様が酒に強いのは知ってるが、そろそろ止めるべきか……?と悩んでいた時だった。

 突然人波から飛び出してきた女がビアンカ様へ手に持っていたグラスの中身をぶちまけたのだ。幸いとっさに俺が間に入ったおかげで中のシャンパンがビアンカ様にかかることは一切なかった。

 例の女はすぐさま他の王宮騎士に制圧され捕縛された。どこかで見たような気がするから、もしかしたら姫様が交流するような高貴な身分なのかもしれないが……だとしても今頃、牢屋にぶち込まれていることだろう。女には色々確認しなければならない以上、俺が制圧側でなくてよかった。そういったの俺は得意じゃないから。

 姫様は無事だし、俺も胸元が濡れて酒臭い程度で別に怪我もしていない。

 だから着替えれば問題ないかと一度引っ込む許可をビアンカ様に取ろうとしたところ、俺に付いた酒の香りを嗅いだ彼女は顔をしかめて。それから彼女に手を引かれるがまま、この客室へと押し込まれたのだ。

 ここに来るまでの間、しっかりした彼女の足取りに全然酔ってなさそうだなと安心できるはずが、できなかった。俺の方の歩みがなんとなくおぼつかなくなっていたから。

 体が熱い、力が入らない、くらくらする、まるで酷い風邪をひいた時の症状が時間差で表れる。おかげで解毒剤の蓋は開けられないし、こうやって平時なら遥かに自分よりか弱い姫君にあっけなく制圧されている。

 こんな状況、絶対よくない。誰かに見られでもしたら。そもそも婚姻前の異性が一目がつかない場所、それもそういったことに使われる密室で二人きりだなんてバレたら。

 俺は誰とも結婚する気なんてないから別にいい。でもビアンカ様は違う。平民の護衛騎士相手に間違いを犯しただなんて、一生涯拭いきれない醜聞になってしまう。


 立っているのすらもつらくなってきた俺をベッドへ腰掛けさせると彼女は説明してくれた。

 どうも俺が浴びた酒にはタチの悪い媚薬が入っていたらしい。今夜の彼女のドレスはデコルテが大きく開いている。皮膚からも吸収されるらしいそれをもし彼女にかかっていたらと思うとゾッとする。守れてよかった。

 そこから彼女が何故解毒剤の用意をできたかはわからない。けれど渡されたそれを飲もうとしたのだが、瓶を落とさないよう持つのが精いっぱいで、蓋を開けるなんてもってのほか。

 どうしたものかと悩んでいたのも束の間、彼女は瓶を受け取ると、中身をあおって俺へ口移しで飲ませたのである。

 そして苦々しい薬草の味が喉の奥へと落ちていく感覚の中、気付けば俺はベッドに押し倒されていた。更に彼女が馬乗りになるという念の入れよう。

 なんとか押しのけようにも腕を持ち上げるのすら億劫だった。相変わらず羽のように軽いのに抵抗できない。そもそも俺は抵抗したいと思っているんだろうか、そんな当たり前の自制すらも今の俺には危うかった。


「姫様、離れてください……」

「いやよ」


 やっと解毒剤の効果が出てきたようだ。

 呼吸が楽になったおかげか。少しだけ回るようになった頭に促されるまま制止をかけるが彼女は即座に却下された。

 やはり多少は酔っているのか、即答した彼女の目は据わっている。

 ぐっと体重をかけるようにして彼女がさっきよりも屈む。近づいた彼女の皮膚からは華やかで甘い香りがした。それにせっかく固まりかけていた理性がまた溶けてきそうで勘弁してくれと思う。

 ただでさえ惜しみなく見せつけられる悩ましげなプロポーションに頭がおかしくなりそうなのに。ましてや、その持ち主は命に替えても守りたいほどに好いた女性なのだ。たまったもんじゃない。

 もう腕も普段ほどではないが、彼女を押しのけるだけの力は出せそうだ。でもそうなると必然的に彼女に触れるわけで躊躇われる。


「……お前はこんな状況でも、わたくしに触れようとしないのね。現状からすればお前にどうされようと、わたくしの自業自得でしょうに」

「どんな理由があろうと守るべき主を傷つけるようじゃ護衛騎士失格でしょう」

「ええそうね、ロンならそう言うと思ってたわ。きっと盛ってようが打ち勝つとわかってたわ」


 彼女の手が俺の頬を撫でる。触れる肌の滑らかなやわらかさを意識してしまい、熱が一向に冷めない。

 どことはいえないが反応してしまっていることを彼女は気付いているだろう。俺の腹と足に広がるスカートに見えてこそいないが、この体勢では隠そうにも隠しようがないので。誰か今すぐ俺を気絶させてくれ。


「……だからこそ、お前のその高潔さがひどく憎らしい」


 俺はそんなたいそうな人間じゃないです。今だって主が思い悩んでいるご様子にもかかわらず、下半身が大変なことになってるような男です。んなこと口が裂けても言えないが。

 それにしても目のやり場に困る。顔は直視できないぐらい好みだし、露出した肩の艶めかしい程の白くも酔いにほんのり赤みを帯びた感じもだめだし、巨乳派の俺にはクリティカルなそれも普段からたわわなのにドレスのデザインでいっそう強調されてるし。

 そもそも他人の顔や体をジロジロ見るのはマナー違反なんだが。最後とか完璧にアウトだろ、頼むから俺の性欲自重してくれ。

 せめて少しでも軽減させようと、過去にマッチ棒が5本乗ると教えてもらった睫に視線を向ける。微笑ましい思い出だ。姉妹でわたくしが一番だったわと誇らしげに言ってて可愛かったな、あの時の姫様。あとあんなお綺麗な王女様達でもそんなしょうもないことするんだと変に感心した。


「ねえ、ロン。お前、子爵家のお嬢さんから縁談が来てるんですってね」


 一見、彼女のそれは質問の形を取っているが確信を得ているのが声色から感じ取れた。

 俺の回答は再び唇を塞がれたことで形にならなかった。離れた彼女の顔が俺の首筋に埋まる。強く吸われて軽い痛みが走った。姫様当たってる当たってる、めっちゃやわらかいものが当たってます助けて。

 なんか全部どうでもよくなってくるぐらい、すごいことされてる気がする。ってオイコラ思考放棄するな。


「い゛っ」


 突然鎖骨に歯が立てられる。これまでの鍛錬で負った傷の方が当然痛いのだが、構えていなかったせいで思わず声が出た。

 俺を睨み付ける彼女の唇は紅とは違う赤色が付着している。原因はわからないが、美人の怒った顔コッワ。あと思ったよりガッツリ噛みつかれてたらしい。


「いやよ、そんなの嫌! わたくしから離れるなんて許さない、絶対に許さない!」


 長く傍にいて知ったのだが、ビアンカ様は色々と溜め込みがちな性格だった。

 噂とは真逆で忍耐力と責任感が強くて、尊大な態度は繊細さを隠す為で。甘えるのがめちゃくちゃ下手な可愛い人だ。

 そんな彼女が脇目も振らず、俺のことで感情を爆発させる姿に不覚にもときめいてしまった。

 だがいつまでも彼女の魅力に呆けているわけにはいかない。早く訂正せねば。


「あのビアンカ様、その話とっくに断ってます」

「……断った?」

「はい、持ちかけられたその場でお断りました」

「……どうして? お前にとって決して悪い話じゃなかったでしょう?」


 俺が勘違いしていなければ、彼女が語っているのはセラフィナール様の後任の副団長経由で持ち込まれた縁談だろう。

 副団長に持ちかけられた時になんとなく疑問を抱いていたが、この様子からしてやっぱり姫様の許可取ってねえな、これ。

 何度も言っているが俺は実質平民である。にも関わらず子爵家の婿として受け入れてもらえるのは確かに良い条件というか、叶う見込みもない恋に生涯を捧ぐよりかはよっぽど建設的だろう……だとしても。


「俺はビアンカ様の騎士なので。俺の命はビアンカ様と貴方の伴侶を守る為のものです。俺の実力じゃ、せいぜい二人を守り切るのが限界でしょうから家庭は持ちません。命尽きるその日まで俺はお仕えしますよ」


 彼女の涼やかな目元が大きく見開かれた。まん丸になった瞳は幼さを感じさせる。

 そんなに驚かせるようなことを言ったつもりはないんだけどな、俺としてはただ当たり前のことを口にしただけで。

 そういえば随分前にも同じ表情を見た気がする。あれはいつだったっけ……たぶん王妃様の出身について教えてもらった時か。どういう話の流れでそうなったのかは残念ながら覚えてないんだけど。


「ねえ、ロン。お前はわたくしを愛してる?」

「えっ」

「嘘偽りなく答えなさい」


 普段通りの顔つきに戻ったかと思えば、とんでもない命令が下された。

 ビアンカ様の考えがさっぱりわからない。ビアンカ様のことを考えるならば主として愛していると答えるべきなんだろうが……なんとなくそれは悪手のように思えた。

 腹を括ろう。まあ本心を伝えたところで何かが変わるとは限らないしな! 単に弱味というか、手綱を握る為の確証を得たいだけかもしれない。


「心からお慕いしております」

「じゃあ、お前がわたくしの王配になりなさい」

「はい! ……はいっ?!」


 言い終えた途端また口付けられた。薬は切れたのにやわらかな唇の感触に体温が上がっていく。

 何やっとんじゃこの姫様は。こっちの気も知らず理性をゴリゴリと抉っていく彼女にちょっと悪態じみた感情が湧く。 


「わたくしもお前が好きよ」


 そう静かに告げた彼女はこれまでに見たどの表情よりも美しい笑みを浮かべていた。

 初めての時のように見惚れたけれど、夢中になるには今はタイミングとか体勢とか色々悪い。一滴も飲んでいない素面の状態だというのに、酔っているかのごとく高揚している。彼女という存在に酔わされてる。


「わたくしが命だけで満足すると思ってるの? 甘い考えね、ロン。お前はわたくしのもの。お前の心も、お前の貞節も、お前の人生も、お前の全てをわたくしに捧げると今ここで誓いなさい」


 結婚についてはとんでもないことになってしまったとは思うが、姫様が望む以上は応えるつもりだ。

 俺の全てを捧げること自体についても異論はない。ただ一つだけ、こればっかりは意見すべきだろう。


「こ、ここで貞節を含めるのはよくないと思います……」

「この部屋、目合(まぐわ)わないと出られないわよ」

「なんて?」

「そういう条件で施錠魔法かけたもの」


 しれっと何をやってるんだ、この人。

 俺は魔法を使えない以上、姫様が解除するしかないのだが……。ここまで行動に移してるところからして絶対に正攻法しか許してくれない気がする。

 あるいは陛下に外側から解いてもらうしかないのだけれど、陛下がそのつもりならとっくにこの部屋は開け放たれているはずなので、来ないということは……つまりそういうことなのだろう。 

 可愛い愛娘が既成事実作ろうとしてるのを見届けるしかない陛下の心情を思うと哀れでしかない。


「俺童貞なんで、ご婦人のドレスとか脱がし方わからないんで!!」

「それなら教えてあげる。だからきちんと覚えなさい、今後の為にも」


 恥を忍んで叫んだというのに手応えがない。

 俺から下りた姫様が背を向ける。続けて腰のヒモを緩めるよう彼女が俺へ指示を飛ばす。

 動けるようになった以上、姫様の前でずっと寝そべってるわけにもいかず身を起こした。

 今夜の姫様は髪を結い上げているせいで、普段なら隠れている真白いうなじも綺麗な背中も惜しげもなく晒されている。すっげーえっちだな。だめだ、今の俺めっちゃくちゃバカになってる。

 ふとよくよく見れば彼女の細い肩が震えていて、なんかそれがものすごく刺さった。そうだよな、だって俺がずっと守ってきたんだから。どんなに誘導してようが、姫様にとっても未知の世界なわけで。

 どうしてだろう、やっと自由になったはずなのに逃げられる気がまったくしない。

 せめて本当に開かないのか、一度くらいドアノブを捻るべきだっただろう。でもとうに限界を迎えていた俺の手は考えた正論とは裏腹に、彼女の気丈さに促されるまま、その細腰のヒモへと伸ばされたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ