実力テストのお時間
消灯の時間に寝て、きっちり起床!
環境が変わったって、いつもどおり目覚めも体調もバッチリだ。顔を洗ってシャキッとしましょうね。
ふいー、やっぱあれだ。しょぼいベッドだろうが、雨とか風をしのげるだけで悪くないわ。
ゴワゴワの作業服だけは、ちょっと嫌だけどね。せめてジャージがほしいよ。
「よし、朝メシ食べて労働するぞ」
今日からはダンジョンに挑戦だ。もういきなり突破しちゃいたいね。そのためにも体力つけよう。
食堂に移動したら、ムショ仲間のエリカと一緒のテーブルについた。
なんかいろんな奴にじろじろ見られているっぽいけど、無視だよ無視。
そういや派閥がどうとか聞いた気はするけどね、私はそんなもんに構ってる暇はないんだよ。
「食べたら行くの?」
「さっそくチャレンジするわ。私だけ先にシャバに戻っちゃうけど、エリカとはせっかく知り合えたからさ。面会には来るね」
「葵は気が早い。でも頑張って」
うん、応援されるって気分がいいわ。
「こいつ、深淵ダンジョンにチャレンジするんだってよ!」
「しかもシャバに戻るとか言ってるの聞いちゃった。ウケる!」
「笑ってやるなって。新入りなら誰もが通る道でしょ?」
近くにいた奴らが急にでかい声でしゃべり始めたよ。なんか私のことバカにしてるよね?
せっかくのいい気分が台無しなんどけど。こんにゃろー。
「はっ、随分と調子に乗ってるね。最初の試験だって通らないだろうに」
「あんただって昔は息巻いてただろ? よく他人のこと言えるね」
「なんだと?」
「は? 本当のことでしょ?」
うるさいわねー。崇高なメシの時間を邪魔するなよ。
まあ勝手に言ってればいいわ。こんな奴らに構ってる暇なんかないんだよ。
メシを食べたら、さっそくムショ内のダンジョン管理所に移動した。
ここはぼろっちいし、前にも思ったけどなんか空気が重い感じする。これまでにない感じだね。
特殊なダンジョンだからか、それとも気のせいかね?
「おいすー、私の装備届いてる?」
「来たか、永倉葵スカーレット。あの次元ポーチは所有者登録をしているな? 本人以外では中身が確認できない。全部出しなさい」
「え、中見るの?」
しかも全部出すのかよ。
「当然だろう。ここをどこだと思っている」
そっか。私ったら囚人だもんね。荷物の中に爆弾とかあったらやばいもんね。
「じゃあ出していくよ」
「中に物が入っているかどうかだけは、こちらでも確認可能だ。隠さずに、すべて出すように」
「ほいほいっと」
管理所の中にいた刑務官たちが集まった。その人たちの前で、どんどこ出していく。
いつもの装備のハンマーと投げ斧にブーツ、魔法学園の制服と指輪とかのアクセサリーに腕時計。
あまり使わないナイフとか警棒とかの装備に、鑑定モノクルとかポーションとかのちょっとした道具。
念のために入れている英国お嬢様風の着替え一式に、化粧品一式やタオルとかハンカチとかサングラスとかの小物類があれこれ。お菓子とかもちょっと。
最後に黒いカードの身分証、スマホとか財布とかの貴重品。
余計なものはあんまり入れてないから、そこまで多くはないと思う。
自分のアイテムに触れると、なんだか不思議な安心感があるね。
「これで全部か?」
「そうだよ」
「記録を取るから、しばらく待て……これは余談だが、九十九里沖島女子特別刑務所の職員に賄賂は通用しない。もっとも、自由度の高いここで賄賂などあまり意味はないがな。逆に囚人の持ち物をねだる職員もいない。なぜなら厳重に監視されているからだ。妙な気配りも心配も無用、そして下手なことも考えるな。特にこのダンジョン関連施設内での妙な動きは、反乱と見なす場合もある。覚えておけ」
銃を持った見張りの人もいるからね。変なことなんかできないわ。容赦なくぶっ放されそうだし。
「ほーい」
それにしても係の人は大変だね。写真を撮ったり書類に記入したり、なんやかんやとやっていた。
魔法の道具とか装備については、どんな力があるのかとか聞かれるから答えていく。いちいち大変だわ。
「永倉、スマートフォンは出所まで預かる。あとはダンジョンに持って入って構わないが、出た時にはすべて預ける決まりだ。誤魔化そうとしてもすぐにわかる。わかったな」
「わかったよ。もうダンジョン行っていい?」
「待て。ダンジョンに入る目的を聞こう」
椅子に座らされてしまった。じっくり聞かれる感じかね。
もう、早くダンジョンに入りたいのに。
私とひとりの刑務官がテーブルをはさんで向き合う感じになったけど、なんか面接みたいだわ。
「目的なんか決まってるじゃん。次の階層を目指すんだよ。そこまで行けたらさ、出所できるんだよね?」
「単独でか?」
「まあ、そうだね」
ほかの誰もやる気がないんだから、仕方ないわ。
「前回、3人で入ってこのダンジョンの難しさがわかったと思うが。高橋からもいかに難しいか、聞いているだろう?」
「聞いたけど、私なら行けるかなって」
「食糧はどうする。過去には数日間連続した探索も実施されているが成果は出せていない。本気で沖島ダンジョンの攻略を目指すなら、物資の提供は可能だ。しかし、そのためには実力を証明する必要がある」
めんどくせー。ちょろっとチャレンジして、無理そうだったら考えればいいんだよ。まずはチャレンジさせろよ。でも手順が必要ならやるしかないか。仕方ない。
「その証明って、どうやったらいいの? 今日はそれをやるよ」
「これが地図です」
地図? 別の人が地図をテーブルに乗せてくれた。
ほうほう、あれこれ書きこんであって、わかりやすいかも。
「我々としては、お前を無駄に死なせるわけにいかない。今日のところはここへ行って、水晶の欠片を取ってこい。ダンジョン入り口から、西におよそ500メートルの地点にある小さな鉱山だ」
「近くね? すぐ終わっちゃうよ」
「そう言っていられるのはいまのうちだけだ。それと、このビーコンを渡しておくが決して手放すな。最後の命綱だ」
キーホルダーみたいな物を渡された。ビーコン?
「なにこれ」
「それさえ持っていれば、お前の位置がわかる。ビーコンからの信号が届く距離は50キロが限度だが、迷ったらその場から動くな。制限時間は30分とする。時間内に戻れない場合には我々が救助に動くが以後、単独での探索は認めない。それでも行くか?」
助けてくれるなんて、意外と優しいわ。
「よっしゃ、わかったよ。あとちゃんと聞いときたいんだけどさ、ホントに第二階層に行けたらシャバに戻れるんだよね?」
「第二階層に移動し、転送陣を設置できればな。転送陣の設置キットを希望する場合には、それも別の試験の合格後に預ける決まりだ」
うへー、なかなかサクッとはいかないね。
「その他の刑期短縮条件についても、何かしらの新たな発見があった場合が主になる。いまはそこまで考える必要はない。まずは実力を証明することだ」
「じゃあ証明するわ。もういい?」
「くれぐれも無理はするな。厳しいと思ったら、すぐに引き返せ。いいな?」
心配性な人だね。
「うん、ほいじゃ着替えて行ってくるね」
「ダンジョンはかなり冷えるが、防寒具やそれに類する道具はいるか?」
「いいよいいよ、すぐ終わるから。それに走ってればあったかくなるし」
更衣室に移動してお着替えタイム。ぱぱっと脱いで、私の装備を装着!
魔法学園の制服ルックもアクセサリーもブーツも! これで頼れるハンマーを握れば、もう無敵になった感じだ。
うおーっ、テンション上がるわ。
更衣室から出て、ダンジョンの領域に入ればステータスの力がみなぎって、シャキッとする。
あふれるパワー! やっぱ私ったら超強いよ。
いかつい刑務官たちに見守られながら、たったか階段を下る。
だんだん暗くなるけど、加護で普通に見えちゃう私には関係ないね。
「おー、風強いねー」
前の時も思ったけど、台風って感じの風だ。
「ほいじゃあ、行きますかね」
西のほうに山みたいのがあるし、たぶんあそこだね。よし、風を突っ切って走るよ!
とりあえずダッシュだ。酸素が薄い感じはたしかにあるかも? でもこれくらいなら問題ないわ。
「制限時間は30分だっけ。全然余裕どころか、余裕すぎじゃね?」
吹きつける風をものともしないで、ちょっとした山に到着っと。ここに水晶があるんだよね。
発掘みたいなことしなきゃいけないのかなと思ったら、そこらに転がっていた。これを持って帰ればいいんだよね?
ささっと終わらせるよ。帰りもダッシュ!
「うおおーっ、ただいまーっと!」
ダンジョンの階段を駆け上がって管理所に戻ったら、刑務官たちがなんだか変な顔をしているね。
「なんだ、もう諦めたのか」
「威勢がよかった割にはたいしたことないな」
「え、いやいや。水晶取ってきたよ。これでいいんだよね?」
クズ水晶をテーブルにポンと置いた。
「……馬鹿な、まだ5分も経っていない」
「だからすぐ終わるって言ったのに」
私ったら将来有望な新人ハンターなんだよ。このくらい余裕に決まってるだろ。
がははっ、期待してくれちゃっていいんだよね。




