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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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過酷環境マラソン

 ちゃちゃっと最初の試験を終わらせたから、ささっと次の試験を受けようと思ったのに。

 わらわらと集まった刑務官たちに、いちゃもんをつけられてしまった。


「水晶はあらかじめ隠し持っていたのでは?」

「持ち物は確認したはずだ。まさか、途中で拾った?」

「運がよければ、それはあり得る」


 なんで疑うんだよ。


「あの鉱山までは単純に考えて往復で1キロと、たいした距離ではない。だがそこに強風と低酸素、暗闇が加われば、当然スムーズな移動はできないはずだ」

「ダンジョン内でのハンターの走力を考慮しても、5分は早すぎるな」

「早くても片道のタイムですよね」


 そんなこと言われても。


「待っておくれよ。ちゃんと取ってきたって! 誤魔化すなんてムリだよね?」

「まあ無理ではあるか……隠し持っていたのでも、途中で拾ったのでもないとすれば、採取したということになるが」

「さすがは剣聖杯などいくつもの武闘大会を制した実力者、ということか? このダンジョンでは戦闘力に意味は薄いが……」

「本人と接してしまうと、どうにも調子が狂いますよね」


 普通に褒めてくれてもよくね? なんだよもう、さっきから。


「ほらほら、クリアしたんだからさ。次の試験教えてよ。ババンとクリアして、また私の実力を証明するよ。転送陣の設置キットだっけ? それを早くゲットしたいんだよ」


 一番偉いっぽい刑務官が、ちょろっと悩んでいるね。別にそんな悩むことないだろ。


「……いいだろう。次はかなり厳しくなるぞ。場所は北方面、およそ20キロの地点だ。そこで紫水晶を取ってこい」

「20キロ? 結構遠いね」

「それも往復だ。常時吹く強風による疲労と渇き、低酸素状態によって体調不良も起こり得る。それらを考慮すれば、500メートルの道のりとは訳が違う」


 おー、聞いてるだけでだいぶ大変そう。


「暗闇による圧迫感や孤独感も、精神面に大きな負担を与えます」

「制限時間は20時間だが、途中で厳しいと思えば戻ったほうが賢明だ。試験は後日でもいいが、どうする?」

「え、マジで? 20時間もかかんの?」

「移動距離や滞在時間が、長くなればなるほど過酷な環境だ。その程度も乗り切れないようなら、沖島ダンジョンの探索はあきらめたほうがいい」


 あんな場所で寝るのは嫌だから、普通に丸1日ずっと動かないといけない感じかよ。だいぶキツそう。


「早ければその半分もかからんが、いずれにしてもそれなりに時間はかかる。怖気づいたなら、やめておけ。いきなり試験を受けずとも、徐々に慣らしていく手もある」


 めんどくさいけど、あきらめる選択肢はないからね。こんな場所に4年半もいたくないんだよ。

 試験くらいはちゃちゃっと終わらせたいし、行くしかないわ。


「私ったら足速いから大丈夫。今度は紫水晶でいいんだよね、すぐ取ってくるわ」


 さっきの試験なんて、ホントにすぐ終わっちゃったしね。私なら20時間なんて、絶対かからんと思うし。

 それに今日はダンジョン探索より、説明を聞いてるほうがずっと長い。てゆーか、あんなの探索のうちに入らんわ。


「わかった。食糧と水は持っていけ。いま用意してやる。防寒具もな」

「おー、それはありがたいわ。でも防寒具はいらないよ」


 そんなに時間かからんと思うけど、水くらいはほしい。

 持ってきてくれた物資をダンボール箱ごと次元ポーチに放り込んだら、これで準備はオッケーだ。


「ほんじゃ、またいってきまー」

「いいか永倉、真っすぐに北方向だ。少しでもずれると、20キロ先では迷子になりかねない。気をつけろ」

「わかっていると思うが、ダンジョンの中では方位磁石は意味がない。慎重に地図と目標物を確認しながら進め。本来なら通信の手段を渡したいのだが、あいにくとここは刑務所だからな」

「もし迷ったら、下手に動かないでください。必ず救助に動きます。その意味でも防寒具はあったほうがいいと思いますが……」


 大丈夫だよ。走ったらあついし。私ったら地図が読める女子だし、暗闇をものともしないし。

 また見守られながら、ダンジョンにイン!


 全然疲れてないし、今日はまだ始まったばかりだ。がんばっていこう。



 階段を駆け下りたら、ダンジョンの底に到着。

 風が強いのはわかっているけど、やっぱりこのダンジョンてちょっと圧迫感が強めだ。モンスターもいないのに、変な感じがするね。

 この感覚は風のせいじゃなくて、めっちゃ強いモンスターがいた時の感じに似てるけど……でもそれもなんか違うかな。


「よくわからんね」


 そういや最初に入った時、体が熱くなったのもあった。不思議なダンジョンだわ。


「とりあえず、サクッと用事を済ませるかね」


 立派な紫水晶をゲットして戻るとしよう。

 寒いけど走ればあったかくなるし、問題はないね。


 よっしゃ。20キロメートル走、よーいドンだ!


 たったかたったか走る。風を切って走る。ひたすら走る。

 ホントに荒野って感じで、なんにもない。ちょこちょこ丘とか岩とかはあるけど、そのくらいだ。モンスターはいないし、全然楽しくないダンジョンだね。


 荒れ狂う風の中をしばらく走っていると、だんだん体の負担が重くなるのを感じた。

 さっきの500メートルくらいなら、あんまり気にならなかったけどね。ちょっと息苦しいし、とにかく喉が渇く。乾燥がキツいかも。

 適当な岩陰を見つけて水分補給と休憩、それと一応地図の確認もしよう。


「なかなかのペースで走ったけど、どんなもんかね」


 どれどれと。あっちのでかい岩は、たぶん地図に載ってるこれだよね?

 ほうほう。地図と腕時計を見た感じでは、半分くらいの距離を1時間かけて到着したっぽい。

 だいぶ早くね? やっぱ余裕じゃん。


 もう半分も移動が終わったと思えば、残りをぱぱっと終わらせたくなる。

 息苦しいのは収まったし、水分補給もよし。特に疲れてもいないし、ゴールに向かうとしよう。


「うおおー、紫水晶ー!」


 さっきの試験だと疑われちゃったからね。どうせなら、でっかくて立派な石を見つけたいな。それも1個じゃなくて、5個くらい持って帰ろう。

 そこまでやれば疑われたりしないはず。もうね、黙らせてやるわ。


 ロングブーツで渇いた地面を踏みしめて、魔法学園の制服と髪の毛をバッサバッサとさせながら走る。

 強風の中を前のめりになって突っ走る。


 息苦しいのと乾燥は嫌だけど、すっごい風の中を走るのは割と面白い。

 押し戻されそうな向かい風は負けるかってなるし、横からの風も体をななめにしてバランスを工夫しないと真っすぐ走れない。追い風の時はぶっ飛ばされそうなほどスピードが出る瞬間もあってこれがまた面白い。


 これで雨が降ってたら最悪だったけど、風だけなら案外面白いわ。

 まあ普通に探索しようと持ったら、かなりうっとうしく感じそうだけど。目的地が決まっていて移動だけなら、そんなに悪くないね。


「あ、あれかな」


 がんばって走っていると、時間が経つのも早い。

 そこそこでっかい岩山が見えてきた。腕時計で時間を見ても、ちょうどあそこがゴールの鉱山っぽい。

 ラストスパートのダッシュで到着っと。


「ういー、ちょっと疲れたね。とりあえず休憩かな」


 巨大な岩の塊みたいな山には、掘った跡がいくつもあって、いい感じの休憩場所になる。

 穴の奥に入り込んで、せっかくだからお腹も満たそう。


「げ、携帯食料。味気ないわねー」


 おにぎりとかお弁当みたいなのをくれたと思ったのに。栄養バーかよ、味気ねー。

 もそもそとチョコ味のバーをかじって、水で流し込んだ。マジで味気ないわ。早く帰って、普通のメシが食いたいよ。

 それにやっぱ寂しいわ。マドカたちと一緒なら、こんな寂しい気持ちにならんのに。


「まあいいや、でっかい紫水晶どこかな」


 そこらに落ちてればいいんだけど、そうじゃないなら岩を砕いてみるしかない。

 ウロチョロしてみたけど、クズみたいな水晶はちらほら落ちているけど、かたまりはなさそう。


 うん、まどろっこしいわ。とりあえず、ハンマー使おうかな。岩をぶっ壊せば、でっかいの取れるよね。


 いったん穴から外に出て、岩山を丸ごとぶっ潰すくらいの気合でいこう。もうやっちまうぞ。

 頼れるハンマーさんを取り出してっと。ほっほー、こいつを持つと力がみなぎるね。なんでもやれそうな気になるわ。


「おりゃー、いくよ。久しぶりの『キラキラハンマー』をくらえいっ」


 ドバンと岩を叩いたら、豪快に崩れた。おお、気持ちいいわ。

 高まる気合に任せてスキルを連打し、岩山をぶっ壊しまくる。

 ガラガラと崩れまくった岩が邪魔になって、ちょっとやりにくくなってしまった。


「仕上げに豪快な一発を決めたいね!」


 どっかにいい感じの目標はないもんかな?

 見まわしたら、ちょっと離れた場所にこれまたでっかい岩があった。岩山ほどじゃないけど、そこそこでかい。なんか妙な存在感が気になる岩だね。


 え、なんかちょっとしたパワーを放ってね? あの岩。モンスターじゃないよね?

 まあいいや。とりあえず、あれをぶっ壊してフィニッシュだ。


「うおおおーーーっ、必殺のダブルハンマー!!」


 スキル『キラキラハンマー』と『メラメラハンマー』の複合技。景気よくぶっ壊そう。

 どっかんとクリティカルヒットさせたら、でっかい岩が崩れるどころかぶっ飛んでしまった。

 我ながらとんでもない威力だね……なんて思っていたらだよ。


「え、え、マジかよ」


 でかい岩の下には、大階段があった。どう見ても第二階層に続くやつだね。

 なんと。サクッと見つけちまったわよ。

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