八重する企みと囚人たち Lv.4(十八話)
午後、大量の荷物を運んで、全身が筋肉痛になったリード。
囚人に与えられた唯一の自由時間を駆使して、ある場所に向かっていた。
アンは、ダインと面会に行っている。
幸は疲労で牢屋に倒れて寝ていた。
なんやかんやで、久しぶりに一人になった気がする。
他の囚人の横を通りすぎ、ゆっくりと部屋の扉を開ける。
壁全体に並べられた本の数々。
ここはファドン刑務所にいる囚人のための図書室だ。
こぢんまりとした感じで、とても静かだった。
(この物静かさが、良いんだよ)
リードはほくそ笑む。
扉の横には赤髪の看守ノアルアがいた。
(ゲッ、コイツもいるのかよ! 絶対、騒ぐに決まってる……)
良い雰囲気が壊されると思ったリードは、思わず嫌な顔を浮かべてしまう。しかし、特に彼は気にせず、人差し指を立ててシーっとするだけだった。
「……」
彼の態度に呆気に取られるが、すぐに自分のしたい事を始める。
(とは言うものの、俺はこうやってまともに本を開くなんて事してこなかったな……)
アンと出会った時から盗人として生きていた。だから、本を読むのなんて値がつくかどうか、それぐらいでしか本の内容なんて読んでいない。実際、以前来たときは、そういう視点で呼んでいた。
こうやって目的なく探すのは初めてである。
(とりあえず、幸が言っていた転生者ってやつを探すか)
リードはそれっぽい本を探し始める。
赤や青色をした背表紙。
金の文字が使われた表紙。
分厚いだけで内容の言っている意味が、わからなそうな本まで色々あった。
売ったらいくらになるかな。
リードは、初めはそう思っていた。しかし、本を探しているうちに違う事を考え始めてしまう。
(アンにダインが付き纏ってから随分経つな……アンの奴も前よりもキャッキャ言う様になって)
泣き言も多かったりしたが、とすぐに訂正も入れる。
(そういや、ちょっと前にアンが急に食事を取らなくなった時があったな。どうしたのかと思ったが、ダインの為に痩せた方がいいかな? なんてふざけたこと言って……
そのままでいいって言わなきゃ、色々やかましかっただろうなぁ)
気がつくと本棚の端っこでしゃがみ込んでいた。
別に取るわけじゃないのに、本の背表紙を指先でなぞっている。
(俺は何考えてんだ……クソが……)
リードは立ち上がり、神話という単語の本を適当に取った。
パッと見ると、中身はお堅い文章がぎっしり埋め尽くされている感じだ。
(こんなもん、読めっかよ。たく、そもそも、幸のバカがビビって看守に言わねえのが悪いんだ。俺がこんな風に読むなんて事なかったんだ。 大体、あいつは罪もないのに刑務所に飛ばされてじゃねぇ!)
不意に胸の内が蠢くのを感じる。
知っている様な、
知らない様な、
今までにあった様な気がするが、
気にした事もなかった感覚。
(俺が嫉妬でもしたのか? 可哀想なバカな女どもに同情? あり得ない、馬鹿馬鹿しい……)
否定するリード。だが……
じゃあ、この気持ちはなんだ?
眉間に皺を寄せて、目の前の本を睨んでいた。
「意外だね。君みたいなのが伝承の本を読むなんて」
誰だと思い振り返る。
長い白髪に、枯れ木の様に長い手足をした背の高い男。
「誰だ、テメェ?」
「カニンチェン・ノイマンだ」
張り付いたと言い切れる様な、優しい微笑みがリードの間に触る。
こういう奴は大抵、腹の中で何か企んでいる。
ポンと本を閉じながら言った。
「別に、たまたま手にした本がこれだっただけだ」
「それにしては随分、熱心に何か探していた様だね?」
クスリと彼は笑いながら横に立つ。
リードの予感は当たっていた。
彼は後ろのノアルア看守に聞こえない。だけど、リードにはハッキリ聞こえる声で囁いた。
「もしかして、存在しない囚人の為に探しているのかい?」
冷静を装うべきだった。
彼の発言にリードは思わず、顔を合わせてしまう。
その時のカニンチェンの顔はニヤリと微笑み、やっぱりと言いたげな顔だった。
「んな訳ねーだろ。大体、本当にいるかわからないんだろ? ソイツ」
リードは焦って苦笑いを浮かべる。
彼はフッと不敵な笑みを浮かべ返し、リードの肩に手を乗せた。
「僕も君たちの脱獄計画に混ぜてほしい」
「どこでそれを!」
声が出てしまう。
慌てて口を塞いだ。
「ん? どうした」
扉の横にいたノアルアが反応する。
カニンチェンは顔を上げて言った。
「いえ、お気になさらず」
すると、もうちょいグイグイ行きそうなノアルアがそうか、の一言で静かになってしまった。
例え、リスクがあったとしても看守が間に入ってくれた方が幾分かマシだった。
突然、現れた男が何を企んでいるのか、分からないからだ。
こちらの情報をいつ、どうやって手に入れたのか、想像がつかない。
「……」
リードは探る様に相手を睨む。が、白々しくも、ここで話す気はない為とぼける事にした。
「脱獄? はっ、なんの事かな」
盗人としてそれなりの度胸が付いているはずなのにリードはけたたましく心臓が揺らいでいた。
本を元の場所に戻し、チラリとカニンチェンの方を見る。
彼は残念だ、と言いたげな悲しい顔を浮かべていた。
早いところその場を去ろうとする。
外に出る扉へ向かおうとしていた。その時、カニンチェンは不敵な笑みを浮かべて呟く。
「誰かに不運が来るかもね」
「そうだな、テメェの頭にでも降る事を祈ってるぜ」
リードはとっとと外に出ていくのだった。
廊下に出た後、彼女は息を整える。
(一体どこから漏れた? 盗み聞きされたか? 取り敢えず今は下手に動かない様にした方が得策だな)
しかし、不運とは何もしていなくとも起こりうるもの。
その晩、事件が起きる。
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