八重する企みと囚人たち Lv.4(十三話)
この世界に迷い込んだのは二月程前のこと。
黒咲 幸は合格発表を控える一般の高校生だった。
(無事に受かります様に……)
昨晩の雨で冷えつく空気の中、手を押さえて、熱心に祈っている。
「スーーハーーー」
願いを言った後、息を吸って吐いて心を落ち着かせる。
幸は向きを変えて、家に帰ることに。
(あー怖いな、この待たされる時が一番怖くて嫌なんだ……)
歩きながら幸はポケットに入っているワイヤレスイヤホンとスマホを取り出す。
接続音がかすかに聞こえてから耳に当てる。そして、アニソンばかりの再生ランから音楽を選ぼうとしていた。
その時、ズッと擦れる音と共に青空が視界に入る。
体が宙に浮かび上がった。
全身に驚きが駆け巡り、心臓が止まる様な気がする。
体にくる衝撃に備えて目を瞑ってしまった。
(転ぶ!)
遅れてきた認識と共に慌てて近くの手すりに手を伸ばす。
「いたた……うーついてない」
合格発表前に転んでしまうねんて、縁起が良くないと感じる。
「あれ?」
昨晩は雨で、今朝もまだ地面は乾き切ってなかったはずなのに、お尻が濡れた感じがしない。
不思議に思った幸は、思わず目を開ける。
次の瞬間、理解が及ばず叫ぶ事すら出来なくなった。
薄暗くひんやりとした石レンガに囲われた部屋。
薄いベッドとボンヤリと座っている老婆。
掴んでいる手すりは閉じ込める為の檻に変わっていた。
服装すらボロボロの布切れ、まるで奴隷に着せる服の様だった。
(なに……これ……)
見慣れない光景……どころの話じゃない。
先ほどまで神社にいたはずの幸は、どこか知らない牢屋に閉じ込められてしまったのだ。
「誰か! ここから出してお願い!」
急いで助けを求める。
すると赤髪の青年がやってきた。
(良かった、人はいるんだね……)
僅かな安堵を大きく叩き落とす様に青年は鉄格子を叩き威嚇する。
幸は慌てて手を引いた。
「うるさいぞ、騒ぐな罪を犯した囚人のくせに」
(罪、何のこと?)
動揺する幸を横目に青年は左右を警戒する。そして、囁く様に言った。
「次騒いだら命がないと思え」
「ちょっ、待って!」
話そうとしかけた幸にレイピアの鞘が向けられる。
危うく喉を刺すところだった。
「……」
黙り込む幸を見てから彼は静かにさっていった。
それから何日も閉じ込められたまま過ごす羽目に。
食事はパンと薄いスープだけ。
「お米が恋しいよ……」
弱音を吐く彼女に同室の老婆は、よくパンを分けてくれた。
迷い込んでから色々考えていた。
今、自分は異世界に来てしまったのだなと結論づける。しかし、逆ハーレムやのびのび生活といった煌びやかなものと比較して、全く喜べずにいた。
それどころか、元の世界の心配が彼女を襲う。
受験の合格発表は?
両親はどうしているのか。
きっと心配している。
そもそも、私は今、どう言う扱いにいるのか?
死んでしまったのか?
転送されてしまったのか?
数々の疑問が浮かぶ。しかし、監禁生活の中でそんな些細な考えは無意味だと悟る。
幸は他の囚人動揺、静かに自分の侵していない罪と向き合っていた。
二月後、新たに囚人たちが輸送される。
幸と老婆の牢にも新しい囚人が入ってきた。
男の様な筋肉質な女性と明らかに目つきの悪い男が入ってくる。
初めは何かされるんじゃないか、怖くて話す事すら出来なかった。
ある日、鉄格子の窓の外から声が聞こえてくる。
「アーン! アアーさーーん!」
覗いてみると同室となった筋肉質の女性の名を呼ぶ、同じ様に筋肉モリモリの男がいた。
「誰?」
思わず幸は首を傾げる。その背後で口を押さえる筋肉質の彼女がいた。
「ダイン! どうしてここに?」
「知り合いですか」
彼女はこくりと頷く。
「君に愛を伝えにやってきのです! 愛している!」
「ダイン、私もよ!」
囚人との禁断の愛。
「すごいですね」
思わず尊敬の言葉をこぼしてしまった。
「異常なだけだ」とリードの返しも良く覚えている。
この出来事がきっかけで前よりかは、気さくに誰かと話せる様になったのだ。
幸はある程度の身の上を話し終えると静かに聞き手を見渡した。
退屈そうに頬をつく、小柄で男の子の様にも見えるリード。
同情に涙を流してくれる、筋骨隆々の肉体にふんわりとした薄い金髪のアン。
口数が少なく、後から来た彼女たちよりも話さない老婆。
そして、鉄格子から顔を覗かせている。
綺麗な金髪に、黄色い瞳をした少女、キャリー・ピジュンがいた。
彼女とは刑務作業で知り合っている。
何でもアンとリードを捕まえた子だとか。
そんな彼女と刑務作業をするのもう不思議だが、もっと不思議なことがある。
今、少女は三階の牢屋の鉄格子の窓にはいついていた。
どうやって登ったの?
そもそも、なぜいるのか?
分からない事だらけだ。
少女は物語を聞き入る様に興味津々。
瞳を星の様に輝かせていた。
(眩しい……)
幸は思い切って聞いてみた。
「あの……何でいるの、ですか?」
少女は満面の笑みで答える。
「気になったから」
そんな理由で、ここに来たの? 驚きと理解が及ばない事に幸は遠い目をする。
「気になったからって、お前はまた、後先考えず……ここに看守の誰かが来たらどうすんだよ」
「あっ……」
忘れていたとポカンと口を開く。
リードはため息をついて頭を抱えた。
重大さを教える。
幸はアンの方に耳打ちする。
「仲いいですね」
アンはあっと口を開いてから囁き返す。
「そうだね。二人とも楽しそう」
ふふっとアンは嬉しそうに微笑んだ。
チラリとキャリーの方を見ると唇を尖らせしょげていた。
リードは向きを変えて幸に話しかける。
「で? どうするんだ?」
どうする?
幸はその意味がわからなかった。
「こうやって俺たちに話したって事は、看守に伝える気あんのか?」
「……」
彼女は首を振る。
「分かりません。話したとして、どうなるのか分からなくて怖いです」
再び、黙り込んでしまう。
確かにただの囚人の自分たちにはそう言う詳しい事を調べるのは難しかった。
ふと、何かを思い立ったキャリーが言う。
「ちょっと、待ってて!」
パッと鉄格子から手を離し、姿を消す。
落ちていく様にいなくなったので本当に落っこちたのではないかと思い、幸とアンは慌てて覗き込んだ。
キャリーはすでに地面に着地して門がある反対側に向かって走り出していた。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
幸ちゃんは実は、異世界転生者だったんです!
そもそも、いないなんて言ってないですし……(誰に対しての言い訳だ?)
話をなぜか、聞いていたキャリー、彼女もどこに向かったのでしょうか?
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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