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八重する企みと囚人たち Lv.4(三話)

 草木が少ない平原を馬が駆け抜けていく。

 シルバーと手を組む為、依頼を受けたキャリーは、バシレイア兵士のルークと共に北にあるファドン刑務所に向かっていた。

 キャリーは雷の様に早く走れる為、本当は馬に乗る必要はないのだが、ルークに言われて仕方なく乗っている。

 落ちない様にルークの鎧をしっかりと掴んでいた。

 速さは申し分ないが、揺れが激しくてちょっと不安になる。

 あと、どれぐらいでつくのだろうと思った時、ルークが話しかけてきた。

「さっきはウチの者がすまなかった。あれがなければ、こうも拗れる事は無かったかも知れない」

 レサトにバシレイアの兵士が触れた事だ。

 キャリーは首を振った。

「ううん、多分、変わんなかったと思う……」

 シルバーがあそこまで、頼みを聞いてくれなかったのが原因だし、とキャリーは思っていた。

「しかし、あそこまで凶暴になるものなのか?」

 ルークはレサトのことが気になっていた。

 悪いと思うが少し腕をつかんだだけで、武器を取られると思わなかったのだ。

 キャリーはどう言えばいいか分からずにいたが、少ししてから事情を話し始める。

「レサ姉はね。昔、嫌な事があって誰かに触られるのが嫌なんだって、仲間でも……だから、オリパスから散々気をつけろってあたしも言われてる」

「嫌なことって?」

「聞けるわけないじゃん」

 ルークの返しにキッパリと言い返す。

 相手の嫌な思い出を簡単に聞こうとするのは良くない。それもファイアナド騎士団の中でも怒ると一番怖いレサトに聞くのは自殺行為だと言われていた。

 どこに行くでもない話題を話していると、うっすらと建物の影が見えて来た。

 ルークは雑談を切り上げてキャリーに伝えた。

「お、見えてきぞ」

 彼の言葉に後ろにいたキャリーは、前を覗き込んだ。

 黒く枯れた木々が山を覆い、麓に村がある。

 村は豊かで多くの人々が住んでいるほどだった。

「すごい、大きな村だね」

「まぁな、かつては一つの国だったらしい」

 ルークは馬の速度を落としながら目的地を指差した。

「あっちに大きな城が見えるだろ?」

 枯れ木の隙間から見える石レンガの大きな城が見える。

「うん」

「あそこがファドン刑務所だ。少し休んでから行こう」

「ううん、あたしはすぐに行っても大丈夫だよ」

 そこまで疲れてないキャリーは言うが、ルークは馬を撫でながら言う

「お前が疲れてなくても、こいつは疲れてるんだ。どこかに預けてから行こう」

「あ、そっか……うん、分かった」

 二人は馬を降りてから頼める場所を探し始めた。

 幸いすぐに見つける。

 この村で唯一の宿だった。

 ルークは宿の旦那に話を通していた。

 待っているキャリーは少し当たりを散策する事に。

 緑が少なく、かと言って明るい土の色をしているわけでもない。

 少しもの寂しい村だと思った。

「早いこと、終わらせなきゃ……」

 キャリーは荷物を運ぶことばかりを考えてしまう。

 オリパスたちが来る前に終わらせたかった。

 宿屋の壁を辿っていると不意に誰かが泣いている声が聞こえてくる。

「私はなんて愚かなことを!」

 子供の泣き声ではない。

 大人、たくましい感じの声だった。

 キャリーは好奇心に駆られて声のする裏手を覗き込む。

 そこにはガタイのいい大男が、木箱の上に座り込み咽び泣いていた。

 キャリーはその大男に見覚えがあった。

「ダイン!?」

 思わず声が出る。

 呼ばれて顔を上げるが、すぐに伏せてしまう。

「キャリーさん、久しぶりの再会ですが、私をほっといてもらえませんか? 私は今、人に見せられるような男じゃないんですよ。うぅ……」

 以前会った時は、明るくはつらつとしていた男だったはずが、今はしょげて、なんとも哀愁漂う男に変わり果てていた。

「何があったの?」

 そんな彼の姿にキャリーは困惑する。

「彼女さんと喧嘩してしまったそうよ」

 ダインの隣に立っていた少女が話す。

 白いハンカチを頭に被せ、暖かい黄色の長いスカートを履いていた。

 彼女は突然、現れたキャリーにペコリとお辞儀をする。

「こんにちは、私はニーナ。ここの宿屋の娘よ」

 キャリーも釣られて頭を下げる。

「こんにちは、あたしはキャリー・ピジュン」

「私はダメな男です……」

「ダインさんです」

「知ってる」

 完全に心が折れていると思った。

 何があったのか、事情を聞く事にする。

「私は! ダメな男です!」

 よく分からない。

 代わりにニーナに事情を聞かせてもらった。

「実はね。上のお城、刑務所なんだけど。そこに入っている彼女さんと喧嘩をしてしまったそうよ」

 ダインに彼女がいたのかと驚きながら、誰だろうと首を捻る。

 ニーナも名前を言おうとしたが、なんと言ったか思い出せずにいた。

「その方、お名前はなんと言ったかしら?」

「アンです。愛しのアン。あぁ、私はなんと言うことを……」

「アン……? あっ」

 名前を聞いて、キャリーは思い出す。

 ダイン、キャリー、そして、バシレイアの兵士のルーク三人であるお宝を守った際、戦った相手だ。

 ダインにも負けず劣らずの筋骨隆々な肉体、丸太のように太い手足をした女性。

 髪はふんわりとしていて薄い金髪の色をしていたのをよく覚えている。

(そう言えば、ダインが一目惚れして思いを伝えに行ってたっけ?。また会えたんだ)

 思い出に浸っていると遠くから名前を呼ばれている事に気づく。

 ルークの声だとすぐに分かった。

 壁から覗いて見ると、彼が探しているのが見える。

 キャリーは手を振ってここにいると伝える。さらに友達もいるよとルークに教えた。

「友達?」

 彼は首を傾げたが誰なのか見に来ると目を輝かせる。

「おぉ! ダインじゃないか!」

「いいえ、私はダメな男です!」

「何言ってるんだよ?」

 ルークの腕を引っ張り、キャリーは事情を話す。

「なるほど……具体的に何をしてしまったんだ? ダイン」

 めそめそとしながらダインは口を開く。

「私は……」

「ダメな男です。以外で話して」

 言いかけたダインにキャリーは口を挟む。

 彼は口をつぐんでしまった。

((同じ事言おうとしてたんだ……))

 ルークとニーナは内心思ってしまう。

 改めてダインは話し始める。

「今朝……アンと話し合おうと思ったんです。でも、考えが合わず彼女を怒らせてしまいました」

 ガクンとうな垂れる。

「あんまりにも話を聞いてくれず。私は、私は……バカチン! と罵声を浴びせてしまったのですよ」

 後悔の顔を浮かべるダインだったが、話を聞いていたキャリーは首を傾げる。

「それだけ?」

 思わず聞いてしまった。

 こくりとダインは頷く。

「他には」

「何も」

「言ってないの?」

「えぇ」

「手も出してない?」

「そんな事! 神に誓ってもありえません!」

「……」

 キャリーは思わずニーナの方を見る。

 彼女もこちらを見て、肩をすくめる。

 なんとフォローを入れてあげればいいのか、分からなかった二人は何も言えずにいた。

 話して、自分の愚かさに目も当てられなくなったダインはまた、項垂れてしまう。

「もう、彼女に会う事ができません……まさか、あんなことを言ってしまうなんて」

 一人落ち込むばかりのダインだったが、一人だけ彼を正面から励ます男がいた。

「謝りに行こう」

 ダインの大きな肩を叩きルークは言う。

「このままじゃダメだ。仲直りしに行こう」

 俯き続けていたダインが顔を上げる。

「許してもらえるでしょうか?」

「あぁ、きっと許してくれるさ。俺だって嫁と喧嘩はする。だが、大抵の場合、俺が謝って、話し合う。そんで、折り合いをつけて仲直りするんだよ」

 腕を組みながらルークは妻のアレッサの顔を思い浮かべていた。

 やがて、彼は腕を下ろしダインに尋ねる。

「ちょうどいい、俺たちもそっちに用があるんだ。一緒に行かないか?」

 ファドン刑務所にいるのならキャリーもルークも、これから向かうため、なんら問題なかった。

「よろしいのですか? 私のこんな……」

 小さい事のように語ろうとしたダインにルークは口を挟む。

「何度も言わないで、とっとと行って謝ってこい」

 いい加減、行けるのならと思ったキャリーはダインの腕を引いた。

 最も彼が仲直り出来るのなら良いな、とも思っている。

 ちじこまっていたダインは二人に手を引かれ、アンがいる城へと向かっていった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

アイオライト防衛線の三人がそろいましたね。

個人的に接点が全くないこの三人の組み合わせがなんか好きです。

頼もしい様な二人と少女……考え直しても、接点が少ないですね。愉快で楽しいからいっか。

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださった方、続きが気になる方は、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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