黄金 の森に住む娘と再燃する哀惜 Lv.1(三話)
太陽の光で黄金の様に輝く森。
小さな小道を抜けると、大きな塔が一つ立っていた。
すぐ隣には小さな家が繋がっている。
少女は手を伸ばして扉を叩いた。
ノーザンは髪に埋もれていた椅子を引っ張り出し、部屋の真ん中に置いた。そして、ドカッと腰を下ろすと演目の役者の様に話し始める。
「さあ、私のこの黄金の様に輝き、何者にも切れない呪われし髪を切ってください。見事、切ってくれたのなら、あなたに私の生涯を差し上げましょう!」
「だから、嫁にならなくて良いって……変な前置きはいらないから」
頭を抱えながらメアリーは付け足す。
「それと普通の道具だと壊れやすいから素手でやるけど……武器なしで祝福の力を使った事はあるけど、細かく使ったことはないんだ」
「いいから、いいから、ぱあぱっと首の所からやっちゃって」
ノーザンは髪をかきあげて、メアリーの言葉を遮る。
邪魔な長い髪と早くおさらばしたかったのだ。
二人の様子をキャリーはジっと見ていた。
メアリーは静かに、長い息を吐く。次の瞬間、切り裂く様な残酷な殺気が家中に広がっていった。
キャリーはゾッとする。
心が弱いと気がおかしくなるのをキャリーは何度も見てきた。急にノーザンのことが心配になる。
彼女の方を見ると 、全身から血の気が引いて真っ青に、冷や汗を滝の様に流していた。
(やばい、え? 私、これから殺されるの?)
ただ、物を壊す能力だと舐めていたノーザン。
あまりの恐ろしさに音を上げようと口を開く。
「ねぇ? ちょっとタンマ……」
バチン! バチン!
タンマを言いかけたすぐ後ろで火花が飛ぶ。
彼女は振り返るのも恐ろしく、終わるまで目を瞑っていた。
メアリーは、人を残酷に引き裂いたようで、はらわたの血の様に溢れる紅オーラを指先に集中させていた。
ハサミを使うように二本の指で髪を切り下ろしていく。
その光景は祝福の力さえなければ、友人の髪を切る光景だった。
全力で武器を振るえば山さえ簡単に切れる力。
それを細かい作業に費やすのは、これが初めてだった。
メアリーは普段以上に気を使っていた。
息の詰まる作業だった。
黄金の森に風が吹いた頃、ようやく、メアリーは祝福の力を止める。
手には暖かく、重いノーザンの長い、長い髪が握られていた。
「すごい、すごい! メア姉やっぱりすごいね!」
いつの間にか、りんごジュースを飲むことを忘れていたキャリーが声を上げて喜ぶ。
「これでノーザンと結婚?」
「ならないよ。キャリー、真に受けないでくれよ」
「冗談だよ。えへへ」
キャリーはへにゃへにゃと笑った。
からかって返してもらえたのが嬉しかったのだ。
「ウソ……マジで……やっっば……」
ノーザンはバッサリとなくなった後ろ髪のあたりを触りながら呟く。
メアリーから感じた恐ろしい殺気と恐怖以上にノーザンは今、自分の髪が切れた事に驚いていた。
ゆっくりと立ち上がる。
あまりの軽さに転びそうになった。
「おっと、大丈夫か? 少し休んだ方が……」
ふらつくノーザンを支える。
「こんなに嬉しいのに休めるわけないっしょ」
目はギンギンに開き、ニヤけが止まらずにいた。
ノーザンは急いで家の外に出る。
何年振りか思い出せないほど久しぶりだった。
暖かく柔らかい土の感触、首筋を通り抜ける風の冷たさ、あの代わり映えのない家の光景から出られた感動がノーザンの胸を熱くさせる。
(ホンット、久しぶりの世界だわ)
「ノーザン!」
名前を呼ばれて振り返る。
家の窓辺にキャリーが立っていた。
手には白い……光を反射して白くなった手鏡が握られていた。
そこに映り込むのは、めちゃくちゃになった金髪に、エメラルド色の瞳をした女性の姿があった。
ノーザンは一瞬誰なのか分からなかった。
髪を整えられないのに鏡なんて見る理由がなかったからだ。
ゆっくりと近づき、キャリーから鏡を受け取る。
久しぶりの自分の姿に、思わず泣きそうになる。
力が抜けて座り込んでしまった。
「うわっ、酷い髪……」
嬉しい思いがまさり、お世辞なんて言っていられなかった。
「わ、悪かったって……」
キャリーの背後から謝る声が聞こえてくる。
「いいの、いいの、髪を切ってもらえただけでさ、嬉しいから」
顔を上げながら続ける。
「でも、もう少し散髪の練習をしたら?」
「あたしはそんな商売しないよ」
「あたしにも今度髪切って!」
「キャリーは普通に切ってもらえるから、レサさんにやってもらいな」
「えー」
突然やってきた来訪者たちは家の中で楽しそうに話す。しかし、ノーザンは腑に落ちない点があった。
「……ナンセンスね」
「「え?」」
「ねぇ、もう少しだけ手伝ってもらいたいんだけど、いいよね」
彼女の美的センスは、できるだけやりたい事をやろうと思った。
キャリーは家中に伸びた長い、長いノーザンの髪をかき集めていく。
集めた髪はメアリーの元まで持っていき等間隔に切ってもらっていった。
途中、探していたクシがすんなりと見つかる。
みるみるうちに黄金の海に埋もれていた家が片付いていった。
「あとは塔の上に引っかかっている髪だけだね」
キャリーは塔の上にぶら下がっている髪の端を見ていた。
上に登って取ろうとしたが絡まってうまく取れなかった。
仕方ないので下にもどってくる。
キャリーの様子を見て、ある程度切り終えたメアリーは立ち上がる。
「それはあたしが切りに行くよ」
「うん……!」
キャリーは目を輝かせる。
メアリーの赤い髪が編み込まれていた。
「メア姉、おしゃれ!」
「え? なんの事だ?」
キャリーがなんではしゃいでいるのか分からなかったメアリーだが、自分の髪を触れた瞬間、ようやく気がついた。
「ん? なんか、されてる……」
「もうちょいいい反応しなさいよ」
背後からヒョイっとノーザンが現れた。彼女が結んだらしい。
ノーザンは満足した様にあたりを見渡す。
部屋もスッキリして、久しぶりに誰かの髪をいじれたのだ。
これほど、開放的で充実感ある一日は初めてかもしれない。
「すごいな……これ」
メアリーは鏡を見ながら自分の髪を見ていた。
些細な変化な気もするが、こそばゆい 感じがする。
ニンマリと笑みが溢れる。
ノーザンの方を見てメアリーはお礼を言う。
「ノーザン、ありがとな。初めてだよ、こんな風にしてもらったのは」
彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「それじゃあ、あたしは上の髪を切ってくるよ」
るんるん気分になりながらメアリーは塔の上に登っていく。
「この髪、伸びるの早いのよね……」
ノーザンはボサボサに伸びた髪をいじりながら呟く。ふと、目の前の小さな少女を見た。
「ねぇ……えっと」
そう言えば名前を呼んでない事に気がつく。使わないと覚えられないのだった。
首を傾げたが察しのいい少女はすぐにもう一度自己紹介をする。
「あたしはキャリー・ピジュンだよ。ランサン郵便協会で働いてるよ」
「そう、ねぇ、キャリー。あなた、とっても足が速いじゃない」
こくりと頷く。
「あなたに頼んだらメアリーを連れてきてくれるかしら?」
「うん! いいよ」
キャリーは満面の笑みで頷く。
「何か依頼が出てたらまた来るね」
「依頼がなくても来ていいよ」
その時、メアリーが最後の髪を切り取った。
スーッと長い髪が落ちてくる。
それは先ほどのお願いの様に静かに落ちていった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
無事?にノーザンの髪を切ることが出来ましたね。
ここでは少し、メアリーの祝福の力について少しだけ話しましょう。
彼女の祝福の力はこの世界の常識外のイレギュラーで概念的な物です。常識すら捻じ曲げるそんな、めちゃくちゃ性能をしています。
詳しく語るにはもう一人、とある老兵が活躍する時にしましょう。
にしても、こういう女の子が髪型を少し変えるだけのイメチェンっていいですよね。
癖に刺さる人もいれば、微笑ましいと思う人もいると思います。
僕は後者ですね。
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