嵐を超えてシスターに送る Lv.1(三話)
ケーキを手に入れて走り出したキャリー。
村を出て、雑木林を駆け抜け、小さな小川を飛び越した。その時、鞄が重さに引っ張られて前に出る。
本来あり得ないことにキャリーは驚いた。
重さを感じない鞄が、今日はやけに重いのだ。
まさかと思い、鞄の蓋を開ける。
次の瞬間、目を見開く。
普通はまともなことなのだが、今回は違う。
キャリーの鞄は友達が作ってくれた不思議な道具。
四次元魔法により、たくさん物が入り、どんなに振り回しても中の物は、無事なのだ。
その為、鞄を覗くと底なしの空間が見えるはずなのだ。しかし、今は鞄の底が見える。
ミンツの袋とケーキの箱が見えた。
「壊れた? いつからだろう……」
鞄に描かれた魔法陣を見る。
魔法陣はヒビだらけで所々かけていた。これでは魔法が発動できない。
原因は何かと思い浮かべる。しかし、これと言って大きな出来事が浮かばなかった。
キャリーには分からなかった。
原因は、長く使い続けていたせいである。
バシレイアに来てからの様々な冒険の中で、鞄に描かれていた魔法陣が、次第に剥がれていったのだ。
ふと、甘い、甘い匂いがする。
背筋が凍る様な嫌な予感を思い浮かべてしまった。
キャリーは一度、鞄を地面に下ろす。
しゃがみ込んでケーキの入った箱を取り出した。
箱の片側はミンツの重みで潰れかけている。
隙間ができているのが見えた。
まさかと思い、キャリーはケーキの箱を開けてみる。
テープを剥がし、ゆっくりと蓋を開ける。
覗き込むとそこには得体の知れない塊となったケーキたちが入っていた。
いちごの目玉に、白いクリームの肌、パイ生地の牙を生やした化物がケーキを平らげた様に見える。
「あっ、あっ、ああああああ!」
ケーキの怪物にキャリーは、思わず叫んでしまう。
大事なケーキが見るも無惨な姿に変わってしまったのだ。
「どうしよう……せっかく、ベリル姉の為に買ったのに。これじゃあ、渡せないよ!」
出来ることならお店の前まで時を戻したかった。そして、鞄が壊れていることに気づくことができたら、どれだけ良かったことか。
でも、そんな事起こるはずもない。
キャリーは知っていた。
もう一度、戻ってケーキを買い直すしかない。そうすると、この箱の中身を教えなくてはいけない。
それは少し申し訳ないと思った。
諦めて別のお店、バシレイアに戻ってどこかのケーキ屋に入るかと考えたか……
キャリーは首を振る。
(いつもお世話になってるベリル姉の為にも、そんな手を抜きたくない!)
店番のお婆さんはどんな顔をするだろう。
きっと悲しい顔をするのだろうなと思い浮かべてしまう。
それでも、行かなきゃとキャリーは立ち上がる。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
なんと、買ったばかりのケーキがダメになってしまった!
あんなに美味しそうなケーキが、見た目だけ悪くなると途端にそうじゃなくなるのは、不思議ですよね。
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