アイオライト防衛線 Lv.3(十五話)
例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために
お宝を盗んだリードを追って、空き家に飛び込んだキャリー。
暗い室内と埃っぽい空気が広がっていた。
建物の中はとても静かで、外の音が微かに聞こえてくる。
どこかに隠れて待ち伏せているのかもしれない。そう思いながらキャリーは恐る恐る一部屋ずつ調べ始めた。
はじめの部屋の扉をゆっくりと開ける。
ギーと建て付けの悪い音を立てる。
室内は背の低いテーブルとソファーが置いてある。
ここはリビングの様だ。
キャリーはキョロキョロと辺りを見渡すが、リードは見当たらなかった。
ここには誰もいないとホッと息を吐く。
背後にゆっくりと忍び寄る者がいた。
悪寒を感じ取ったキャリーはすぐさま、前に飛び出る。
振り返るとそこには黒髪の自分よりも背の低い少年の様な女、リードがナイフを振り下ろしていた。
あのまま、あそこにいたら刺されていたかもしれない。
冷や汗をかく。
キャリーは姿勢を低くして、相手の様子を伺った。
「お前、早いな……お前のせいであいつに手間かかせちまった……」
リードは睨みながらぶつぶつと喋る。
「ここでお前を抑える こともできたが後々面倒そうだ」
そう言いながらリードはキャリーが入って来た扉を閉める。
「ここで死んでもらうぞ。キャリー・ピジュン」
全身に鳥肌が浮かびあがる。
相手が本気で殺しに来ているのが、すぐに分かった。
キャリーは押される空気に負けじと叫んだ。
「あたしはやられないよ! あんたを捕まえてやる!」
指をさして、強気に睨みつけてやった。しかし、リードは馬鹿馬鹿しいと腹を抱えて笑ってしまう。
「お前がどんなに早いかは、見させてもらったよ。でも、俺を捕まえる事はできない。試しにやってみるといい。その間、こっちからは刺さないでやるよ」
鋭い目でキャリーを見ながら微笑んだ。
挑発にカッとなったキャリーは全身全霊でリードを捕まえようとする。
雷を纏って瞬間的にリードの元へ駆け寄った。
上着を鷲掴みにしようとする。その時、リードが軽く避ける。
掴もうとした上着は遠くに移ってしまう。
驚いたのもつかの間、勢い余ってリードから遠のいていく。
「あああ! とっとっと」
危うく扉にぶつかりそうになった。
リードはキャリーをじっと見下していた。
「ぐぬぬぬ……」
がむしゃらに掴みかかろうとするが、ことごとく交わされてしまう。
「無駄無駄無駄、お前に俺は捕まえられない」
リードは向かい合いながら言う。
「教えてやろうか? なんで、捕まえられないか?」
キャリーは悔しくて奥歯を噛み締める。
睨んでくる顔が面白く、リードは楽しそうに手の内を明かした。
教えた所で何もできないのだから……
「俺には一瞬先の未来が見える」
自分の目を指差した。
「お前と同じ祝福持ちだ。だが、お前ほど恵まれたものは持ってない。俺に授けられたのは超空間把握能力、周囲のものが一瞬で頭ん中に入ってくるんだ」
ちょークウカンはーくノウリヨク? とキャリーは頭を捻る。
いまいち何を言っているのか分からなかった。
馬鹿に説明するのは面倒だ、とため息をこぼした。
「周りがよく見えるのが、さらによくなった。んな具合で覚えとけ……」
(まあ、この力自体もすごいが、もっとすごいのは頭のほうだけどな……)
祝福の力を授けられた者にはそれに耐えられる様な体になる。
リードの場合、超空間把握能力で入って来た情報を受け止め切れる様に頭が進化している。
それにより彼女は、入って来た情報をもとに、いくつか先読みができる様になった。
(それでも、一瞬でも油断すれば、このガキに捕まるな……予想よりも早く動いてる気がするット危ない……だが、隙だられだ。敵の前で止まって睨むなんて間抜けは、そうそういないぜ)
キャリーの動きを見て感じたが、彼女は全くの戦闘未経験だ。
動きに無駄が多い。
それでも他の奴よりマシに思えたのは、きっと彼女の祝福の力のおかげだ。
これなら大人しく荷物運びをやらせた方がマシだと思えた。
ふと、リードはキャリーにカウンターの蹴りを入れて捕まえるのをやめさせた。
「ガハッ!」
「お前、弱すぎ。昨日はあんなにビクビクして何もできなかったのに、何がお前を動かしているんだ?」
跪くキャリーを見下した。
(何のために戦う……?)
リードの問いにキャリーは答えられなかった。
知らない、分からなかった。ずっと、メアリーの後ろにいたから戦いを知らなかった。
(メア姉は平和のために戦ってた。でも、あたしは平和のためじゃない。だって今は平和だから……じゃあ、何のために戦ってるんだろう?)
頭の中が真っ白になる。
どこへ行けばいいか道に迷ったみたいだった。
動かなくなったキャリーを見て、潮時だと思ったリード。
ナイフを突き立てる。
「ねえ、あんたは何のために戦うの?」
振り下ろそうとした。その時、キャリーが小さな声で尋ねる。
聞かれるなんて考えもしなかったリードは、思わず腕を止める。
「……」
しばらく、真剣に考えてしまった。
彼女は目を逸らしながら答える。
「生きるためだ。生きるために戦ってるんだよ。この国の奴らはみんな恵まれている。だが、外に出てみれば、過酷な世界が待っているんだよ」
故郷の寒さを思い出す。
(生きるため……)
キャリーは前に心を病んだことがある。もう、どうしたらいいか分からないぐらい心が追い詰められていた。
辛くて、悲しくて……そんな時、不思議な少年に出会った。
辛くて苦しくて何も見えなかった時に彼は言った。
『死ぬ為の理由は沢山ある……でも! それと同じぐらい生きる理由は見つかるんだ!
小さい理由でもいい。生きてくれ!』
所々間違えているかもしれない。でも、少年が励ましてくれた言葉がキャリーの心を熱く燃やす。
―― 戦う理由は、生きる理由――
行き先が分かった様な気がする。
心の底から勇気が溢れ出て来た。
その時、リードはもう一度、トドメの一撃を入れようと振り下ろす。しかし、攻撃はキャリーをかすらず床に突き刺さってしまう。
「!」
「見つけたよ。あたしの戦う理由……」
この部屋で初めに相対したようにリードは扉の前、キャリーはリードの目の前に立っていた。
キャリーの手には鞄から取り出したロープが握られている。
次の瞬間、キャリーは雷を纏って高速で動き始める。
(右側から攻めて来た!)
リードは走ってくるキャリーを交わす。次の瞬間、これがあの子の策だと気付いた。
彼女の目にはどうしようもない未来が見えてしまった。
「!」
キャリーは部屋中を動き回り、ロープを少しずつ手放していた。
早い動きで、ロープが地面に落ちず、部屋の上から下まで蜘蛛の巣のように張り巡らされていく。
しまった! リードが思った時には、キャリーは目の前に現れていた。
「あたしは、ルークの名誉とダインの路銀のために戦っているんだぁぁぁぁぁ!」
彼女は叫び声と共に思いっきりロープを引っ張る。
すると、張り巡らされたロープはシューと一瞬で短くなりリード目掛けて集まっていく。
(これ、どう足掻いても逃げられないじゃん。反則だろこれ……てか、何だよそれ。くっだらねぇなぁ……)
馬鹿馬鹿しいと思ったリードの顔はどこか満足そうだった。
がんじがらめにリードを縛りあげる。
やり切ったキャリーは、珍しく息をあげていた。
普段やらないことをして疲れたのだ。
「早いなお前……」
「うん……」
ドタ!
突然、キャリーはしゃがみ込む。緊張で身体中に疲労感が回って来てしまったのだ。
眠気が襲ってくる。
ぽあぽあと動けなくなる。
そんな、キャリーを横目にリードは、突き立てられたナイフへと近づいてゆく。
この隙に逃げてやろうと考えたのだ。
部屋中に地響きがなる。
ぽあぽあとしていたキャリーは目が覚める。
「なになになに?!」
辺りを見渡していると突然、右の壁をぶち抜いてアンが現れた 。
「アン? 何やってんだ、こんなところで!」
思わず、叫ぶリード。
「けほ、けほ、なんなのよアンタ!」
険しい顔をしたアンは、穴の空いた壁を睨んでいた。
見ると筋骨隆々の大男、ダインが上半身裸でゆっくりと歩いて来た。
貰ったばかりのチョッキは、どこへ行ったのだろうか?
それは、はち切れてなくなってしまった。
ダインは普段の数倍もの力を搾り出している。
荒い呼吸に血管が浮き出るほど膨張した筋肉、それなのに彼は楽しそうに叫んでいた。
「マッスル、マッスル、私はマッスル! 熱い、熱い、身体中が激しく熱い!」
(マズい……正気を失っている)
リードはすぐに気づく。この大男は発狂しているのだと。
「アン、俺を抱えて逃げろ!」
「ダメよ。お宝が兵士に取られちゃったの、せめて取り返さないと!」
「んなもんは後で……ておい!」
リードの呼びかけを聞かずにアンはダインに走り出す。
渾身の一撃を喰らわせるのだ。それも一つ二つじゃなく、何百回も叩き込んでやると。
「マッスル、マッスル、私はマッスル! ふはははは!」
今まで気持ち悪い人間を何人も見て来たアンだが、今、目の前にいる男のような奴は見たことがない。
彼が何を考えているのか、まるで分からなかった。
どれだけ殴りつけてもびくともしない。
それどころか両手を下ろして自分は無害だと言わんばかりに、歩み寄ってくる。
「本当! 何なのよ、あなた!」
彼女は聞く。
すると、ダインは立ち止まり叫ぶように自己紹介を始めた。
「我が名はダイン・カメネフ! あなたを妻に迎えたい!」
「「「は?」」」
キャリーもリードも、ここにいる全員、彼が何を言っているのか分からなかった。
今、殴り合っている相手に、闘っている敵に向かって告白している意味がわからない。
「な、な、何を言っているんですか! あなたは!」
バシン!
ダインの頬を叩く。
涙目に顔を赤らめるアン。
(ハッタリよ、ハッタリ……私なんか好きじゃないんでしょ!)
しかし、この程度でダインは正気に戻らず、さらに続けた。
「いい、いい、素晴らしいい! 今の叩きは良かったぞ! 初めてあなたに会った時からずっと思っていたぁ! ガタイの良い体、力強い腕力、何よりキャリーを守ってくれた優しさぁ! あなたの様に素晴らしい女性が他にいようか!」
「え?」
ダインの言葉にアンは胸を打たれてしまった。
アンは生まれた頃から他より体が大きく力持ちだった。
そのため村の子供達からは、いつもいじめられていた。
やーい、ゴリラ!
ブース
デカブツ!
時には石が飛んでくる時もあった。
手をさしのべてくれたのは、流れ者のリードだけだった。
そんな醜い自分を愛してくれる男がいるなんて思っても見なかった。
(なのに、この人は突き放そうとしても向かってくるの?)
「マッスル、マッスル! 熱い、熱い、あなたを見ていると弄る様に胸が熱い! この気持ちまさしく愛だ!」
ダインはアンに飛びかかる。
「抱きしめたいな! マッスル!」
「アン! 避けろ!」
アンが潰されると思ったのだ。しかし、そうはならなかった。
ダインは大きな体でアンを優しく包みこむ様に抱きしめた。
熱い熱いと叫んでいたのに、彼の体は気持ちのいい程冷たかった。
こんな風にされたのは初めてで、涙が溢れでてくる。
身体中から力が抜け落ちていった。
「お前ら、ゴホ、大丈夫がハッ!?」
血反吐を吐きながらルークが駆けつける。
トドメを刺されそうになった時、ダインに助けられていた。
その後で、しばらく気を失っていた。
「……」
今の状況を見て、リードは逃げられないことを悟る。
(自分だけ逃げても……意味ねーもんな……)
二人の激闘を見ていたキャリー、今でもどうなっているのか分かっていなかった。
「おい、キャリー・ピジュン」
呼ばれて振り返る。
「降参だ。俺たちは大人しく捕まるよ……」
リードは目を瞑りぐったりとした様子で話す。
キャリーはルークの方を見た。
「なんとか……ゲホ、ゲホ、なったな……すまないが……グフ、ブハッ、はぁはぁ、この笛を鳴らして……これを持っててくれ……」
ルークはポケットの笛を取り出そうとしたがうまくできない。
片手を塞いでいたアイオライトコンパスをキャリーに持たせた。そして、ポケットから笛を取り出す。
「これを吹いて、終戦……じゃないな、任務完了を慣らしてグレ……」
しゃがみ込むルークだったが、そのまま、横に倒れてしまった。
「ルーク!」
肩を揺する。
返事がない。
「死んでる?」
「いや、まだ死んでねーよ」
リードが言う。
「早いこと吹きやがれ。出ないと俺たちはまた逃げてやるぜ」
彼女の言葉に頷く。
キャリーは大きく息を吸って、笛を吹いた。
ピーーと高い音が夜のバシレイアに響き渡る。
アイオライト防衛戦、完了である。
長い戦いにキャリーも、ぐったりと下を向く。
すると、手にしていたアイオライトコンパスがある方角に傾いていた。
コンパスは西を示している。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
最後の方、全部ダインが持ってっちゃいましたね。
自分で読み返して何度もこの人やべえなと思いました。
キャリーの戦闘経験は実はゼロなんです。
信じられないかもしれないですけど、いろいろあって、まず、メアリーが強すぎて、次に逃げ足が速いので大抵のトラブルはなんとかなっちゃってたんですよね。
「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、
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