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アイオライト防衛線 Lv.3(十四話)

例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために

 ダインには兄がいた。

 弟よりも優れた兄だった。

 強靭な肉体にダインは尊敬していた。

 兄は死んだ。

 死因は⬛︎⬛︎だ。

 ダインには信じられなかった。

 それはバシレイアに訪れるずっと前、雪が降り積もる国、北の国にいた頃。

 ルークと兄はいつもの様に力勝負をしていた。

「ぐぬぬぬぬぬ!」

「マッスル!」

 バン!

「さすが兄上、私よりも力がお強い」

 腕相撲をしていた二人、亀甲勝負が続く。

 最後の腕が痺れ始めた瞬間、ダインは負けてしまった。

「お前も、父から授かった体を持つ子なのだ。鍛え方を変えれば余裕で私など越していけるはずだ」

 兄は朗らかに微笑む。

 ダインは苦笑いを浮かべた。どんなに鍛えても多分、一生この人には敵わないだろうと悟ってしまったのだ。

 同時にやはり兄上はすごいと胸が熱くなるのを感じる。

 トレーニングを終えた二人が家に帰ると、執事が兄の元に訪れた。

 どうやら、村の食料が底をつきそうになっていたらしい。

 聞いた兄はすぐに頷いて答える。

「うむ、分かった。これも貴族の勤めだ。民が困った時には、我らが動かなくてはな。ダイン、留守は任せたぞ」

 ダインは目を丸くする。てっきり、自分も一緒に行くのだと思った。

「最近、北の最果てに妙な噂が流れている。万が一があるかもしれない。それに」兄は笑ってダインの頭を撫でる。「お前は不器用すぎるんだ。大丈夫、冬眠には入れないクマを一頭狩ってくるだけだ」

 そう言って兄は数人の狩人と共に山を登り始めた。

 夕方になっても兄は帰ってこなかった。ダインは心配になり窓の外を眺める。

 外はすでに暗く、猛吹雪が吹き荒れていた。

「流石に遅すぎる……」

 嫌な予感がしたダイン。

 村に残っている狩人に相談しに行った。

 ダインは狩が得意ではない。そのため、こういった判断は、人に尋ねて決めている。

 村に残った狩人も同じ様に心配していた。

 彼らは救助隊を結成しダインの兄を探しに向かった。

 雪山での人探しはとても難しい。

 歩いた後も残した物も冷たい雪に隠れてしまうのだから。

 結局、見つからず、帰るために用意した道標が底をつきる。

「これじゃあ、見つかりませんぜ!」

 一緒に探しに来た狩人が叫ぶ。

「もう少し、もう少し探させてくれ!」

 ダインは必死に辺りを見渡した。

 一寸先は暗闇 で何も見えない。

 音も猛吹雪と風の雑音で何も聞こえなかった。

「………………!」

 目を凝らし、遠くの方を睨む。すると、もしかしたら、誰かの人影を見た気がする。

「向こうに誰かいるぞ!」

 ダインは叫び、急いで駆け寄る。

「待ってください!」

 狩人に呼び止められても、止まることはなかった。

 不安に駆られたダインを落ち着かせるのは彼の家族以外難しい。

 そのため、一定の間隔で一人ずつ待つ事にした。

 なくなった目印の代わりとしてだ。

「兄上!」

 ダインが駆け寄るとそこには兄がいた。

 どうやら無事だったらしい。

「……」

 しかし、どうゆう事か彼の顔は青白く、体は震えていた。それに……

「ダインか……心配して来てくれたのか? う……」

 嬉しいと言う前にダインは叫ぶ。

「なぜ、コートを脱いでいるんですか! 兄上!」

 兄は分厚いコートを羽織っていなかった。

 彼は震える唇を笑わせながら話す。

「ずっと歩き続けてしまってね……迷って……しまったのだよ。一緒に来てくれた……一人が体を壊して、今は……彼に貸しているのだ……」

 ガクンと兄は膝をつく。

「兄上!」

 ダインは急いで駆け寄った。兄の体は死人の様に冷たかった。

「一度、帰りましょう。その後に彼らを迎えに行くのです」

「そうはいかない……はぁ、はぁ、彼らは限界が近いんだ! はぁ、はぁ、早く助けにいかなくては……」

 呼吸が荒くなる。

 瞼が雪で重たいのか? 彼の目は閉じそうになる。

 その時、異変が起こる。

「熱い、熱い、熱い! 体が熱い! ダイン! 誰か! 水を持っていないか? 体が燃える様に熱いんだ」

 突然、ダインを跳ね除け、兄は山を駆け降りた。

「兄上! 何を!」

 呼び止めても止まらない。

 彼は着ていた服を全て脱ぎ捨てていく。

 そして、コロンと転んで動かなくなってしまった。

 後を追って来た狩人が彼の顔を見る。

 悶え苦しみ白目をむいて、死んでいた。

 正気とは思えない行動にダインは動けず、漠然と倒れる兄の姿を見つめていた。

 兄の死因は凍死だった。

 極限の寒さにやられ、頭がおかしくなって、死んでしまった。

 だが、ダインには信じられなかった。

 尊敬する兄があんな風にイカれて死ぬなんて、到底、信じられない。

 凍死なのなら、コートにくるまり丸くなって死ぬものだ。しかし、兄は自ら服を脱ぎ捨てた。

 そんな、はずはない。

 北の国にの住人は過酷な環境に耐えられる様に他国の人よりも数十倍の強靭な肉体を持っている。

 鍛えれば鍛えるほど強くなるのだ。

 それでも兄上は死んでしまった。

 極限状態で、唐突にとった兄の奇行はダインに深いトラウマを植え付けた。

 兄のことを思い出すたびに体が冷たくなる。

 怖くなった。

 死ぬことが怖い……体を鍛えて備えなくては、どんな時も恐れなくなる肉体が欲しい……そのために鍛えなくては……

 ダインは死んでしまった兄の分まで生きたいと願った。

 ならば、確固たる強靭な肉体を気付き上げる。そのために家を飛び出た。

 しかし、今、自身の肉体がどんどん冷たくなるのを感じる。

 ゆっくりと死の水底が 近づいてくる 。

 ダインは目を覚ました。

(嫌だ、嫌だ、死にたくない!)

 咄嗟に体を起こし、死の水底を蹴飛ばしてやった。

 彼はバシレイアの川底から這い上がる。

「ウオオオオォォォォォ!」

 そして、自分はまだ狂気に侵されていないと、身体中 の支配権は自分にあるのだと、月に向かって吠えた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

今回はダインが旅に出るきっかけになった事件を書きました。

ダインの兄は矛盾脱衣むじゅんだついという状態になってしまったようです。

身体がすごい冷えてるはずなのに燃えるように熱い状態、確かに矛盾してますね。

この話は少し前にテレビで雪山の事件の話の時、再現ムービーがあまりにも常軌を逸してて、

トラウマになったので書きました。

人間限界迎えると、感覚がひっくり返るの怖いですね。

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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