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北からやって来た、筋肉モリモリマッチョマン Lv.1(六話)

 気づけば、夕方の鐘の音がなっていた。

 落ち込んでいる暇はないと沈み込む気持ちを急いで引き上げる。

 この時間は、依頼を完遂した冒険者たちが戻ってくる時間だ。

 ムグレカは、急いで報酬のミンツの用意をする。


「Lv.1は二百ミンツで、頭がハゲかけたおじさんは……似た人が多いな。でも、あの人の特徴これぐらいだし……とりあえず、その人は、低いレベルの依頼を複数受けていたからまとめとかないと……次は……目を怪我した人だね。あの人は、凄いよな……Lv.4の依頼を一人で受けるんだもん……」


 ムグレカは、ふと顔を上げて口を閉じる。


(なんで僕は仕事中に独り言なんて喋ってるんだ……?)


 この時間、普段ならお金を仕分けたあと、コーヒーを入れて、ミラに渡していた事を思い出す。


(そういや、朝から何も飲んでないな……)


 ぼんやりとしてきた頃、扉が開かれる。


 冒険者たちが、証明書を持って帰って来たのだ。

 ムグレカは、依頼書を確認しながら、ミンツを渡していく。

 時々、意識が遠のいて、空っぽの人形になりそうな錯覚に陥った。


 危うくまた、ミスを仕掛ける。なんとか、無事に今日のほぼ全ての依頼の支払いを終わらせた。あとは数日かかる依頼だけなので、一安心。


 冒険者たちは、各々好きな風に夜の街へと消えていった。


 ムグレカに残された仕事はあと二つ、依頼人から受け取った荷物を上に運ぶのと、明日出す依頼書の用意だった。


 彼は先に依頼書の用意を済ませる。肉体労働より早く終わるからだ。

 あらかた書き終えた頃、シルフィードが起きる。


「ふぁ〜よく寝た」


 ムグレカは、振り返りため息を大きく吐いた。


「あなたずっと寝ていましたね……」


「まあね」


 なんの悪気もなく彼は答える。作業の手を進めながらムグレカは、ふと思った事を聞く。


「なんで、ミラさんじゃなく、職務怠慢のシルフィードさんが支部長なんですか?」


「ムグレカくん」


真剣な口調で彼は語る。


「世の中は常にできる人が上に立つ、とは限らないんだよ」


 満更でもなさそうにドヤ顔を浮かべている。

 ウザいと思い無視することに。


「ちょっと〜無視しないでよ〜!」


 泣き言を言う支部長を無視しながらムグレカは、依頼書をまとめて整えた。


「最後ぐらい、仕事して下さいよ支部長」


 残された仕事は、荷物運びだけだった。


「えーミスした君を助けた僕に、指図するの〜?」


 帆をついてニヤリと笑う上司を見てムグレカは、腹の底から怒りが込み上げてくる。


「いいです。こんなもの一人で終わらせますよ」


 結局、一日中、一人で働く事になったムグレカだった。

 何度も荷物を持ちながら階段を登り降りして、後少しで全部運び終わる時、視界がボヤける。

 下手に進めないと思ったムグレカは、しゃがみこんだ。


(くっそ……なんだって、こんな時に……)


 しばらく、立ち上がれそうにない。荷物の量も仕事の量もいつもと変わらないのになぜ立てないのか、彼には分からなかった。

 ふと、ムグレカの頭に一人の女性が浮かぶ。いや、一日中、その人の事を考えていた。


(いつもは、こんな作業すぐに終わるのに……ミラさんがいたら……!)


 恋とか、嫉妬とか、そんな関係の気持ちじゃない。


 これは……「依存か?」


 思わず、声が漏れる。


「僕は、ずっと一人で出来るって思っていた……だけど、あの人がいないとミスをするし、仕事は間に合わないし……ダメダメだった」


 いや、そもそも、仕事量と人数が合ってない事について言い出したい気持ちはあったが、それを抜いても自分の不甲斐なさを今日、いやというほど痛感させられた。


 立ち上がるのさえ、苦しく感じる。


 まだ、仕事が残っているのにもう無理だと、ムグレカは感じてしまった。

 だけど、このままチンタラしていられない、と首を振って立ち上がる。


(せめて、せめて、荷物を上げてから)


 気持ちだけで最後の仕事をやり遂げた。彼は深いため息を吐く。だけど、胸のざわめき、不甲斐なさは決して吐き出せなかった。

 ぐったりと重たい体を引っ張って店を閉めるために、階段を降りる。


「お、やっと運び終えたのかい?」


 シルフィードが待ちかねたぞ、と扉の前で待っていた。


「なんですか?」


力なく答える。


「飲みに行こう!」


「一人で行って来てくださいよ……」


「良いじゃないか、僕が奢るんだからさー」


 馴れ馴れしく肩を組んでくる。

 ここにきといて今日一日中ほとんど、何もして来なかった人を前にムグレカの怒りが込み上げてくる。

 何か一言、言ってやりたい気持ちだった。しかし、それすら、いう権利は自分にはないと口を結ぶ。


「うまい肉料理が出る店なんだよ。お前、今日帰っても、食わずに寝るだろ?」


 真顔でシルフィードはムグレカを見つめる。

 何も言い返せずに目を逸らした。


「図星だな、よし行こう!」


 店を閉めて、強引に出かける事になった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

しんどい仕事をやり切ったと思ったらシルフィードにつかまってしまったムグレカ。

向かう先は……うまい肉料理があるお店……どこかで聞き覚えがあるような気がしますね。

それはそうと、頭脳労働の方が楽と言えるムグレカが少しうらやましいですね。肉体労働の方がまだ楽に思えてしまいます。

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