二章 38冊目 際どいのです
何故そんな入り方をしなければならないのか。
リーエはそんなことを考えながら、魔力の調子を確かめた。
更ければ更けるほど増す魔力。
指から迸る電撃の質は今日も変わらず、好調だった。
「リーエ、もしかして読んでないんじゃないか?」
オーメリス城へと向かう街中。
ロネイと共に歩いていると、ロネイから手紙を渡された。
「なんのことでしょうか?」
身に覚えがなかった。
受け取った手紙を仕方なく黙読すると、その内容はリーエにとって衝撃だった。
顔が手紙に吸い込まれそうになった。
「やっぱり……」
そのようすから察したのか、ロネイはそう言うと鎧の小手がうなだれた兜を止めていた。
「どれ、見せてみぃ」
ノロに見せるわけにはいかなかった。
すぐさまそれを頭の上にいるノロから見えないように、くしゃくしゃに丸めて、燃やして捨てた。
手紙はチリになって跡形もなくなった。
無かったことにした。
「あぁ!! リーエ、なにするっ!」
ロネイに両肩を掴まれると、体が揺れるのをリーエは感じた。
特に頭の上に重心が掛かって首が痛くなった。
振られていることなどお構いなしにリーエはそのまま続けた。
「私宛ので送り返せば問題ないはずです」
「そういう問題じゃないっ!」
「簡単な問題です」
「なら今すぐお前の手紙を出すんだっ!」
「え、っと……」
ロネイから目を逸らさざるを得なかった。
届いているはずだがどこにいったか思い出せなかい。カバンの中か、木箱の中か。
手紙というのは魔法道具。
送り主の手紙と送る相手の手紙。二組で一つになっている。転送魔法の効果により魔力を込めると、相手に届く。
送る相手の魔力が籠っている手紙でないと意味はない。
「まさか、無くしたなんてこと」
「ま、まさかぁ。あはは……」
後ろ髪に手を当てながら笑ってごまかした。
やわらかいものが指に触れる感覚もあった。
「どうでもいいのじゃが……」
「ど、どうされましたか? ノロ様!?」
今は話題を逸らすためにノロに乗っかった。
「この人だかりを何とかせんかっ!!」
「「えっ!?」」
リーエとロネイは周りを見渡すといつの間にか人だかりに囲まれてしまっていた。
「ホワイトデビルだぁー」
「起きてるパルスメイドなんてめっずら~」
思い思いの言葉が飛び交っている。
『ロネイ様のせいですからっ』
『仕方ないじゃないか、この格好でないと』
「ええから、はよせんかっ!!」
「「は、はいっー!!」」
それはまるで疾風迅雷。ロネイとリーエは人波などあっという間にすり抜けてこの事態を乗り越えた。
後で手紙を探さないとリーエは思いながら。
オーメリス城の内部はリーエの頭にしっかりと刻み込まれている。
それは警備のため、メイドとして勤めるために必要だから覚えた。
それはロネイも同じであろう。
<シーラー国、三将>の一人として当然のことだ。
オーメリス王、王子の救出。
この任務はシーラー王直々の命令であった。
「では、お願いいたしますロネイ様」
「ぬかるなよ、リーエ」
「ノロ様がおりますから、安心かと」
「それもそうか――ノロ様、リーエのサポートをお願いいたします」
「ん! わかっとる」
「では、また後で」
ロネイは鎧の響く音を取り巻きに、ゆっくりと歩き始めていった。
オーメリス城門。そこに向かって。
ロネイが入る瞬間に消えるであろう結界魔法に合わせて<電光石火>で突っ込んで、シキ、トハクを救出して脱出する。
シンプルだがこれほどの結界魔法を張っている人物がいるため、リーエの顔も真剣になる。
「……実際、どう思いますかノロ様」
声色もそれに倣う。
「フィアの言う通りじゃなこれは。死にたくなければ気合い入れるのじゃリーエ」
緊張感が走る。
と言ってもこれは程よい緊張感。
やはりあれかとリーエは思った。
「久しぶりに本気出せそうですかね」
リーエから溢れてくる魔力が黄色のオーラを作り出す。
「お主はお主の仕事をせぇ」
「……ふぅ。分かっております」
ノロに諭され高まる気持ちを抑える。
それでも雷魔装の質は高めたままだ。
目を閉じ精神を集中させて一瞬の時を待った。
流れ込んでくるは人たちのざわめき、風の声、水の音。
広がる闇の中を駆け巡る事柄に想像は膨らむばかりだが
――次の瞬間。
その場から一瞬にして消えたリーエはすれ違う人を置き去りに、風よりも速く、水が落ちるその一瞬さえも超えた。
「際どいぞリーエ」
消えた結界魔法が瞬く間に元に戻ろうとしていた。
もちろんそんなことは想定内。
ちょっとばかしノロを焦らせてみた。
「何言っているのですかノロ様」
リーエお決まりの言葉でそう締めくくった。
『リーエにお任せですよっ!』
その雷速は次なる一歩でさらに増し、開かれている門の奥へと消えていった。




