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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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大人になる事

あの頃見ていた夜はもうない











子供の頃、夜は魔法にかけられた大人だけの世界だと思っていた。

早く寝なさいと言われる度、夜更かしをしたくなる。サンタさんが来るまで待つ。夜には沢山の物語が詰められている。そう思っていた。


実際、確かに夜には沢山の物語が詰め込まれていた。輝く星とか音のない世界だとかネオンとか。沢山の人の物語が詰め込まれていたと同時に悲しくなった。


子供の頃に夢見ていた夜はどこにもない。ただの幻想であったこと。今はもう、日中の方がより暖かく眩しい世界だという事。


夜は切ない。悲しみと寂しさと恋しさで溢れている。一人帰る家路は暗くて静かだし、人が溢れる所に赴いても、本質は変わらないのだ。それに気づいてしまった。魔法はどこにもなかった。


きっと御伽噺もこうやって終わっていくのだろう。ハッピーエンドのその先を書かないのはなぜか。それは魔法が溶けてしまうからだ。ハッピーエンドが最高の魔法だからだ。その先の辛い人生なんて入りはしない。

シンデレラは王子様と結ばれて幸せな人生を過ごしました。なんて、そんなの嘘だ。きっと色々あったはず。辛い事や悲しい事、沢山あって最期に幸せな余生だったと言ったはずだ。そんなものだ。


知らない事を知る事が出来ると言うのはとても魅力的であるが、同時に、想像力を破壊しにいっているようなものだと思う。


知らないから想像するのだ。知ってしまえば想像は出来ない。リアルはそう甘くない。物語のような恋は起きないし、必ず結ばれるハッピーエンドなんてどこにもない。沢山沢山駆けずり回って、最後に辿り着いたのがそこだっただけで。


無知は罪だけど、最大の武器であるともいえる。


ここでいう無知は、年齢的に知らなきゃまずいだろという意味ではなく、幻想を抱いたまま、それが覚めることの無かった意味だ。


年々、想像出来なくなっていくのが分かる。大人になったからは現実を知ってしまったからという事。あのクローゼットから違う世界が広がっているとか、夜に突然招待状が届くとか、想いを綴る便箋を隠し持ったまま渡せないとか、素敵な事は全部砂糖菓子のようで、ブラックコーヒーの中に溶けてなくなる。


それでもまだしがみつく辺り、往生際が悪いと思う。君も。僕も。


今の僕は夜に幻想を抱いていた僕とは違うけれど、それでもまだ、あの時の胸の高鳴りは残っているはずだ。


今度は僕が、夢を描く番だ。

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