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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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時計の針は巻き戻せないから


時計の針が戻せたとして。




時計の針が戻せたとしたら、いつのどこに戻りたいかと考える日がある。結局今が全てだから、行き着く先は変わらないと思う。どれだけ戻れると言われても、戻らない結末を選ぶと思う。戻って世界が幸せになるのなら、きっと今は救われないだろうから。救われたいのはいつだって過去ではなく、過去を背負って生きている今だと知っている。


でもいつに戻りたいかななんてくだらない事を考えた時、ふと、今年の4月とかが良いなと思った。だって全部が完璧だった。結果が見えない、新しく始まる事だらけで、人を大切にする気持ちが生きていた。大切にされる気持ちだって生きていた。今は何一つ見えないくだらない未来だって見えた。戻りたい時はいつだって、3月か4月だと思い返す。その季節の僕はいつも、前向きで可能性を信じられた。


けれどどうだろう。来年の同じ季節に、その言葉はきっと出せないと思う。人なんていつしぬか分からないって、自分が目の前から消える未来なんて簡単にあるくせに、慣れてしまった日々がそれを忘れさせた気がした。今の僕には悲しみしかない。



ふとした瞬間に泣きそうになる。見えもしない未来を幸せにするために、今はきっと布石になるだなんてもう信じられなくなった。降り注いでいたはずの優しい言葉は消え去った。人間は自分の事しか考えられないって、理解していたくせにそうじゃないと信じたかった。所詮運命も、赤い糸論争も、積み重ねた時間の前では無意味だと知る。



そして再三思い知らされる。いつだって一人だと。救いは差し伸べられるものではなく、自分で見出さなくちゃいけないんだって事、君のいない未来が普通だったって事、思い出だけが全てだという事、明日が当たり前に訪れるわけではない事、大切は一瞬にして大切じゃなくなる事。



だから、自分が幸せになる選択をしようと思ったのだ。


大切にしてくれる人の傍にいようとか。想ってくれる人の近くで笑おうとか。そんなありふれた内容から、好きに書いても許される場所へ、頑張らなくてもいいと言える日へ、ずっとずっと、探していた答えを探しに行こうと思った。それはこれまでの時間で与えてもらえない事を知った。特別哀しくて、今だって切なくなって熱が溜まる。



もう充分だと思った。いつまでも時間は待ってくれない。人の気持ちはいつまでも同じじゃない。知らないなら、それでも良いと思うのなら、思い知れば良い。呪いすら残せない存在だったら、それまでだったって事だろって。ただもう、一言発するたびに、発せられるたびに、悲しくなるのは疲れてしまった。期待すら出来ない自分も嫌になって、その余地すら与えてくれない事も嫌になった。口先だけの言葉なんて何も欲しくなかった。って勝手に思っては苦しむのだ。



同じ温度は二度と返ってこないだろう。春の陽気に飲まれたような、暖かな言葉は二度と降り注がない。どれだけ忙しくても辛くてもボロボロになっても、それが降り注げば息を吹き返しただろう。でも人は自分勝手だから、僕も君も皆、自己利益しか考えられないから。僕は君に対してそうじゃなかったけれど、戻らないものを寛大な心で受け止めていられるほど、聖人君主でもないのだ。



叶うなら、これ以上傷つかない時間を。叶うなら、涙ひとつ流す余地すらない日々を。



そんな事を考えながら息をしているけれど、その昔自分が死んだら自分の名前が残らなくても良いけど作品は残れと思った。けれど今は違う。全部残らなければ良いと思うのだ。まるで春の午後の夢のように、微睡の中に見た思い出せもしないような記憶のように、曖昧でモヤがかかって、いつの間にか思い出す事さえ出来なくなりそれすらも忘れるようなそんな存在でいたいなあと思ったのだ。



そして、憶えている誰かに、確実な呪いを残して終わってやりたい。

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