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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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いつだって変化はあるのだ


きっとこれからも遠くに行く






春の午後、惰眠を貪るのが一年の中で小さな楽しみでもある。夏は初夏の匂いと晩夏の涼しい風、秋は金木犀の香りと短くなっていく陽、冬は遠い空に輝く星々と鼻がつんとする寂しさとか、そんな小さな楽しみを四季折々探している。


少しずつ、新しい楽しみが増えていって、いつの間にか昔と違う自分がそこにいた。一つの物事に対して色んな視点を得られるようになった。新しい考えはおおかた新しい感動のせいなのだ。それは思慮に酔ってではなくて、情熱によって得られるものなのだ。とモーム先輩は言っておりましたが、間違いではないなあと日々思うようになった。先人たちの言葉の重みが理解出来るようになった辺り、もう子供には戻れないなあなんてくだらない事を思う。


子供の頃、何が好きだったか憶えているだろうか。僕は多分、絵を描いていたと思う。一人で砂場で遊んで、謎の実を食べて兄を驚愕させた。彼にとってその事件はトラウマ級らしい。いや、本当にごめんなさい。僕の記憶は曖昧です。


子供の頃、彼の後ろについて回るのが好きだった。それが世界の全てだったのかもしれない。でもいくら兄弟だからといって、やりたい事や趣味が一致しているとは限らない。彼の後ろについて回っていたのはそれを知らなかった頃の小さな自分だ。


時折、人生の中でいつが一番幸せだった?と聞かれる事がある。それに関して、何とも言えない気分になる。多分今が一番で、今以上の物はないと分かっているのだ。けれど、一瞬の過去が脳内で鮮やかに脚色されてしまうから、思い出の方が美しく感じてしまう。いつか、今日も過去になって思い出せなくなる日が来るのにね。



きっとそんな感じで遠くに行く。戻れないから、戻ろうとも思わない。戻っても変わらない。戻って今の僕が変わってしまうのなら戻らない方がいい。何度だって言うけれど、過去も全部含めて僕だから、過去を否定するという事は僕自身を否定する事にも繋がるんだ。だからそれはしないようにしている。歩んできた道全てが自分だと、もう理解しているのだ。


それはきっと他人に対しても同じで。誰かが言ったのだ。過去が変えられないのなら未来を変えていくべきだ。って。僕もそう思う。これから先もきっと選択の連続だけど、この手で選べる事ばかりだ。この手で変えられる事ばかりだから。誰かの手を取るのも離すのも、全部、自分自身で決められる。だからこそ、選んだ道に責任を持たないといけないのだけれど。



四年経った今、まさか自分が変わらず何かを書いているとは思っていなかった。そして四年も経ってしまったと悲しくなる。歳月は人を変える。僕も随分変わった。強いて言うなら丸くなった。視野が広がった。過去をようやく過去として認められるようになった。他人から見れば小さな変化かもしれない。けれど自分の中では大きな変化だ。



別に春生まれなわけでもないのに。人生の中の転機はいつも、三月四月にやってきてしまうのだ。それは進学とか環境の変化などではなくて。本当に、ただの個としての転機はいつだってこの季節だ。何かもう誰かが見ていて図ったんじゃないかって思うくらい。


あ、こいつの転機はいつも春にしようぜ!!ってすごろくか何かで決められている気がする。望んでもないのに強制的に連れて行かれている。特に小説がらみの話は全部春に集中している。だから春は好きだけどやって来る度少しだけ怖くなる。ああ、次は何が起きちゃうんですかね。みたいな気分。


その全てがプラスになればいいのだけれど、勿論そうじゃない事も沢山あって。だから現実逃避するために惰眠を貪る。睡眠は大事。睡眠は正義。


新しい環境も思っていたよりずっとすぐに慣れてしまうだろう。ていうか新環境に慣れる速さは異常だと自覚しているから、今回もきっとそんな感じ。ただ頑張る事を忘れなければいいだけ。今出来る事全部をやった上で、それ以上を求めればいいだけ。人生はそんな事の連続だ。


謙虚に貪欲に真摯に誠実に。始まりはずっと忘れないように。いつか全てが消え去ってしまう日が来たとしても、どうしてここにいるのかだけは見失わないように。どうしてこの選択をしたのか、自信をもって答えられるように。ちっぽけな後悔が、一握りの勇気が、全てを変えてしまった事を、別れの恐怖を与えた事を、前に進まなくちゃいけない理由を作った事を、ずっと忘れないままで。


いつかの未来に浮上出来るように。

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