一周年
僕と君の365日刊行から一年が経ちました。
多くの人に感謝を込めて。
365日後のさ
始まりは一握りの勇気で、描いたのはちっぽけな後悔で。
遠くまで届けばいいと願って、届かない事を知って。
悲しみは悲しみのままで、未来は暗闇に閉ざされていた。
終わりは見えない。見えないままでいい。そんな事ばかりを考えて。
大人になった。
拝啓、十八歳の僕へ。
まだ見ぬ世界へ期待を抱いて、世界の理不尽を横目に見た君は、どうしてか分からないけど書く事を始めましたね。振り返っても、どうして書く事を始めたのかは分かりません。何でだろうね。本当に謎です。でも勝手なんだけど、なるべくしてなったんだと思うよ今はね。
君の作品は遠くに届いて、愛される作品になったよ。僕は未だにその事実を理解出来ていないんだ。笑えるよね。多分小説家の僕がどれだけ有名になったとしても、ただのヒトの僕が有名になったわけじゃないから、そう思ってるんだと思う。
君の後悔は晴れたよ。
長きに渡り心に降り続けていた雨は止んだよ。雲の隙間から、光が降り注いだよ。あれだけ思っていたのにも拘わらず、僕の脳から君は消えていくよ。晴れ間の中に見た蜃気楼のように、揺らめいて消え去って幻のような存在になったよ。でも、君がいたのは事実だ。
僕は僕のために書いてるよ。消化するためでも、誰かに届けるためでもない、僕が書きたいから書いてるよ。でもそれでいいんだ。僕はそうであるべきだった。始まりこそ違ったものの、物語を紡ぐのは僕の手でしか出来ないんだ。
同じような物語が沢山あって、量産型と言われてしまう日が来ても、僕は僕のために書かなくちゃ。書いてる間は、僕は神様になれるから。この脳内を描くのは、僕自身の手でしか出来ないから。だから忘れないでいようって思う。君への想いも全部含めて今の僕だ。
沢山の感謝を伝えたいよ。僕を小説家にしてくれた人、感想をくれた人、愛をくれた人、この一年は僕にとって、降り注ぐ愛のような一年だったんだ。木漏れ日の中で花弁が散って、僕の頭上に降り注ぐように、昼間の星のように見えない灯りが、夜に僕を照らしてくれたように。
暖かい春の陽のような温もりをくれたのは、僕の物語を愛してくれた人たちのおかげなんだ。
描いた先はまだ見えなくて、この先どうなってしまうのかも分からない。でも、書き続けていたい。忘れないように。忘れてしまわぬように。さよならを言わなくて済むために。僕は僕のために歩き続けようと思うんだ。
僕のために描く物語の先で、皆が待っていてくれるなら、そのために書いていたいなあって思うんだよ。
僕の物語が誰かを救うなら書き続けたい。一言が世界を変えるなら、君だって変われるはずだって言いたい。いつだって僕はちっぽけなヒトモドキで、君たちよりもずっとよく出来ない人間で、大した事のない存在なんだ。
だから盲信はしないで欲しい。僕も不出来だから。盲目的に信じても、その信頼に応えられないだろうから。結局、僕は僕でしかなくて、君は君でしかないんだ。僕らは同じ存在にはなれない。だからこそ、君は君であるべきなんだ。君にだって出来る事があるって、僕は言おう。
365日を描いたお話が一年の間に遠くまで届いてくれた事、嬉しくて堪らないんだ。
だから忘れないで欲しい。僕が描く世界が、君の心の中にも生きている事を。言葉で世界が作れても、この想いを伝えるには言葉は冗長だっていう事を。描いた過去が、忘れてしまった記憶が、どんなに脚色されても、君がこの本を読んだのは確かに本物だって。
いつかの話をしていいかな。
いつか僕が歳を取って、君が随分と大人になった時に。
もし僕が書く事を辞めてしまっていたら。この物語を教えて欲しい。365日を描いた始まりの作品を渡して、もう一度書いてくれって言ってくれ。まだ記憶に残っているって言ってくれ。君が死ななければ僕の作品は生き続けるんだ。君の記憶の中に生き続けてくれるから、僕の命は永遠だ。
いつか、君が大人になったと思う瞬間に。
もう一度、この本を開いてくれないだろうか。
あの頃感じた想いと、今を比べてみてくれないだろか。大切な物が出来て、守りたい人がいて、失いたくない居場所を手に入れた時、もう一度その指でページをめくってくれ。そしてフィクションの中で終わった二人を見て、歩き出してくれ。
また来年も同じように、こんな話をして。
忘れないでくれと言えるような、そんな存在でありたい。




