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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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人生全部で証明してやりたいんだ


僕が思うより世界は悲しい




どうして生き続ければ何とかなるなんて言うのだろうか。君は何を持ってその言葉を口にするのか。多くの人が口にする、生きろという言葉だけど、どうしてそれを言うのだろうか。死ぬのが駄目だからっていうふざけた理由だけで生きろって言うのなら、出直して来いと思ってしまうのは僕だけだろうか。


ただ、駄目だからとかそんなんじゃなくて。生きていれば希望があるよなんて言葉でもなくて。僕らは意味を知るべきなんだ。どうしてそう思うのか、どうしてそう感じたのか、何一つ知らないままで誰かを止める事など出来るものか。


って僕はずっと思う。死ななくてもいいじゃんとか、生きていれば幸せだったかもしれないのに、とか。そんな事は口にしない。君が選んだ結末が残念ながら死であったのなら、関係ない僕らは君の死を脚色すらしちゃいけないと思うんだ。こうあればよかった、なんて、都合のいい解釈だよ。


生きていれば辛い事は沢山あって、死にたくないのに死ぬ人間もいて、死にたいのに生きている人間もいて、それなりの希望はきっとどこにでも落ちていて、気付かないままで通り過ぎているだけなんだ。生きていればもっと良い事あるよなんて、君が僕の未来を知っているなら言って欲しいけど、そうじゃないなら確証のない言葉は止めて欲しい。そんな言葉で誰かが救えるなら、僕らは絶望なんてしない。



僕が死なない方がいいって言うのは、誰かの記憶から消えて死ぬ方が嫌だと思うからだ。肉体はいつか滅びるし老いには逆らえない。いつ死ぬかなんて分からないけど、人間の命なんて一瞬で奪われてもおかしくない。僕らは脆弱な生き物だから。


でもさ、死んで誰からも思い出される事がなかったら、それは確かに悲しいって思うんだ。この世界から消えたくて逃げ出したくて、誰かが自分の死をきっかけに苦しめばいいなんて思って死んでも、所詮脳には限りがあるから、いつか君の存在は忘れ去られる。君が思っているよりもずっと早く消える。どれだけ大きな傷を遺しても、一年もあれば声すら思い出せなくなるだろう。


君が死ぬ事で大切な人たちが君を忘れるなら、君が死ぬ事で君の中でだけ生きていた人たちが忘れ去られるなら、それはきっと悲しい事だと思うよ。


生きるために足掻くのは、自分のためであればいいと思う。でも、自分がここからいなくなる事で思い出されなくなる人がいて、その人を再び殺すと考えたら、僕は多分足を止めるだろう。記憶の中から消えて欲しくない人がいるのなら、それだけで足を止める理由にはならないだろうか。



ってそんな事ばかり言ってるんだけど、僕も君と君が嫌いな人たちと同じで醜い浅はかで自分勝手な人間だから、叶いもしない綺麗事を言うだろう。でも理想論は叶ってしまえば現実になるし、綺麗事は美しいままではいられない。全ては僕ら次第だ。



僕の話に変えちゃうんだけど、僕は多分ずっと、誰かに救ってもらいたかった。心が悲鳴を上げた時、頑張っていつもの自分を演じなくてもいい場所を探していた。けれど、強がりでプライドが高いどうしようもなかった僕は、そんな場所を見つけられなかった。もしかしたらあったのかもしれない。でも、いっぱいいっぱいで何一つ見えないまま、救いもないままで大人になった。


大人になって分かったのは、いつの時代も世界は僕らの事なんてどうでもいいと思っている事だった。頑張っても評価されない世界だってある。全然頑張ってない奴が他人から好かれて、自分は無価値に思える時も多々あった。けれどそれですら、自分が悪いと思っていた。人付き合いが苦手なのも、好かれる人間ではないのも、全部自分が悪いんだって思っていた。救いなんてどこにもないから、笑って誤魔化して強くなるしかない。


勿論強くなる事は大事だよ。こんな事あんまり言いたくないけど、最近の人間は打たれ弱い人多過ぎるから、そこは何とかすべきだと思う。ていうか、全ての人間にちやほやされて愛されると思わないべきだ。評価されて頼られると思わないべきだ。後人間に期待すんな。君もそうだけど、結局自分さえよければそれでいいのが人間なんだから、まず自分の足で立て。口が悪くなったけど。


でもさ、救いがない人生に何の意味があるんだろうと思ったんだ。確証のない誰かの言葉を信じて未来を待つほど、僕らは気長じゃないんだよ。


救いのないまま大人になって、絶望を知って、世界をほんの少しだけ知った。そして小さな希望を見出した。


僕はずっと救われたかったんだ。だから、僕みたいな人間が一人でも減ればいいと思った。後悔しない人間が一人でも増えればいいと思った。だからあの春の日に筆を取ったんだ。僕の言葉で誰かが救われるならそれに越した事はない。結局、僕のやっている事はあの頃の僕が欲しかった言葉を皆に向けて発信しているっていう、ただの自己満足なんだ。


それでも自己満足は大きくなって、形になって、今ここまで至った。僕の物語で誰かが救われるならそれで充分だと思うようになった。そして、言葉が誰かを救えるのなら、いつか遠い未来で夢を見させてもらえないまま死んでいきそうな人たちを救えるのではないかと思った。


人生の選択は豊かでなければならない。こうしなくちゃならなかったなんて、それ以外を選べなかったなんて、そんな事あって欲しくない。自分の力で考えて選んで欲しい。その命が燃え尽きて灰になるまで。お金で人生が買えるのかもしれない。でも、そうであって欲しくないから書き続けたい。



ちっぽけな後悔から始まった救いのないお話が、今誰かを救っているのなら。一瞬の光でいい。誰かに希望を見せてやりたい。人生全部で、それを証明してやりたいって思う。

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