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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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登れる所まで


あの頃の僕と誰かと


空想が好きなのは今に始まった事ではないんだけど、非現実的な物語に美しさを見出すのは子供の頃から変わらない。あの頃の僕は今よりもずっと純粋で、現実が嫌いで、世界が嫌いだった。今でも好きではないけれど、それでも現実と非現実の線引きは出来るようになったつもりだ。引き籠るのは空想の中だけでいい。どんなに朝が来ない事を願っても、夜が明けてしまうのと同じように現実を見なくてはいけない時が必ずやって来る。


当時好きだった物語を久し振りに見た時、自分だったらこうすると思っていたあの頃の僕よりもグレードアップした僕は、自分ならこの展開でこういう風に書くと考えるようになった。可愛くない。


そんな事をしていた時、ある作品が好きだった事を思い出した。シリーズ物はいつでも面白いんだけど、当時の自分がハマって憧れた作品があった。多分小学校、五、六年生の頃だったと思う。その作品を見て、僕は歌を歌う事がより好きになった。けれど悲しきかな、僕の声を知っている人は分かると思うけど、僕は鼻声で、ついでに言うとお歌がそこまで上手じゃありません。


その瞬間に、ああ、幼い頃に憧れたようなスポットライトが当たる場所で、声を武器に生きるような人たちにはなれないと悟った。誰かの心を揺さぶるような声でもなく、パフォーマンスだって出来ない。現実は実に非情です。


でも、あの頃の僕は確かに歌に惹かれたんだけど、今と変わらずにストーリーに対して文句を言ってたんだ。もっと上手く出来ただろ、こうすればいい感じだっただろ、どう考えてもスポットの当て方が下手くそだ。とか、素人のクソガキが文句を言ってたんだ。思い返せば、結局僕は変わらずに物語に重きを置いて自分が創り出す事だけを考えていたんだ。


人間って変わらない。今も昔も、僕の進む道はスポットライトの差す場所ではない事を知る。でも人生で一回くらい、スポットライト当たってみたいかなとも思う。一回でいいや、きっと何回も当たったら溶けて消えてなくなってしまいそうだから。


そんな話を思い出して、今の僕は物語を作り出す側に変わった。凄い面白いと思わないか。あの頃、ただのクソガキだった僕が、今自分の空想を形にしているなんて、面白くて仕方ないんだ。人生何が起きるか分からないって言葉は、人生が変わった人でなければ言わない言葉だと思ってるんだけど、まさしくそれだ。だから、登れる所まで登らなくちゃと思う。貪欲に、ストイックに、真摯でありたい。


僕のように、僕と同い年の人はその作品にハマって歌う事に重きを置いたらしい。そして、次のシリーズで主役を勝ち取った。僕と同い年で凄いなと思ったんだけど、何か親近感が湧いてしまったんだ。抱くのも申し訳ないかもしれないけど、同じ時間に同じ物を見て何かを見出して、そして見出されるって凄いと思わないか。しかも誕生日近くて笑った。


いつか僕が有名になったら、少しだけでいいから話してみたいと思った。同じ物を見て何かを見出し、見出された者同士、言葉を交わしてみたいと思った。


登れる所まで登らなくちゃ。人間なんていつ死ぬか分からないから、死ぬ直前に絶対に後悔はする。でも残された時間で、僕は僕のために僕の望みを叶えたい。生き急いでいるとか、生意気だとか、何を言われようとも根底がこれなんだから変わらない。明日死ぬつもりで、三十歳で死ぬつもりで、そんな風に生きていたら僕らはもう少し自分のために歩けるはずだ。


他の誰でもない、僕のために頑張れるはずだ。

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