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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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一瞬の光でいいんだ


例えば前を見ていたけれど、先が見えなくなった時とか






久し振りに人と一日中出掛けて、夜中に帰ってきてっていう日を過ごした時、帰り道が酷く怖く寂しいものに感じる。


そんな僕は今日、テーマパークに行って、愛宕神社に行ったら何か凄い並んでて、猫がいると思って見てたんだけど人混みのせいで見えなくなってしまった。そしたら五分後くらいに猫が目の前まで来てくれて座ってくれた。いつも思うけれど、僕あの神社に行く度にちょっと良い事が起きる。歓迎されてるのかなと思う出来事が起きる。そんなの誰にも分からないから、勝手に思っているだけにしているんだけど、さすがに僕のお気に入りTシャツを着ている人とすれ違った時には運命を感じずにはいられなかった。


ご飯を食べて、夜景の見えるバーで飲んで、帰路についてここに至った時、酷く人間的ではないと思ってしまう時がある。誰かと出掛けた時はいつもこうだ。普段人間らしい生活をしていないからなのかもしれないけれど、年相応の事をする度に、あ、人間に戻ったなと思う。でも帰ったらいつもの僕に戻るから、結局それは一時の夢でしかない事を知る。いや、人間なんだけどね。


難しいんだけど、僕はこんなにも空想を描いて何かを見て書いているくせに、現実では酷くリアリストで運命なんて信じないし存在もしないと思っている。全てはこの手で変えるものだと信じて疑わない。小説家ではない僕の側面だ。


あれだけ儚い情景を描いて、あれだけ切ない心情を書き綴っても、現実の僕は実際にその恋愛が存在しない事を知っているから、自分に訪れない事を知っているから、ふと我に返って鼻で笑う時がある。要は捻くれてる。


あればいいと思っていた。幸せも、溺れるような恋も、降り注ぐ想いも、先の見えない希望も、永遠だってあればいいと思っている。でも、僕はこれまでの人生でそれが存在しない事を知った。少なくとも、僕には降り注がれないものだと知った。だから、書く事にした。貰えない、見えない、溺れられない、なら僕が書いて消化するしかないと思った。そんな思いが根底にあるから、いつだってフィクションに変えられない現実を作り出してしまう。最早病気。


でも僕は伝えたい。どれだけ頑張っても、どれだけ想っても、どれだけ信じても、変わらない現実は確かにそこにあってその思いをいともたやすく壊す。ボロボロの瓦礫の上で打ちひしがれて、ただ涙を流すしかない時がある事を教えたい。それは君のせいでも誰のせいでもない、もうどうしようもないんだ。見えない何かが働いているのかもしれないと思うくらい、変えられない現実は絶対にある。


悲しいけれど、神様を信じても、末期癌の患者の全てが助かるわけじゃないだろう。助からなかった人に信仰心が足りなかったって言えるか?言えないだろう。自殺をした人に、人生先がまだ会ったのに勿体ないって言えるか?そんなもの口先だけだ。どんな思いでその選択をしたのか、僕らには分からない。それは本人にしか分からないんだ。


苦しみも悲しみも、誰かと分かち合えるわけではない。自分自身にどうしようもなく自信を持てなかったとしても、誰かが肯定してくれたとしても、その言葉が届くとは限らない。


僕の言葉も、綺麗事と言われても仕方ないだろう。言葉は冗長だと思う。どれだけ想いを伝えようとしても、持てる知識の全てを使っても、本当に伝えたい事の一割も伝えられないんだ。けれど言葉がなければ、僕らは思考を分かち合う術を無くす。


結局、どれだけ考えて言葉を選んでも、最後に出来る文章は有り触れた一文なんだ。これじゃあ届かないと嘆いても、この思い全てを形にする言葉なんて存在しないんだ。いつだって僕は、思いの全てを伝えられる言葉を探し続けている。そしてそれを届けたいと願っている。


ちっぽけな僕のちっぽけな一言が、誰かを救うかもしれないから。


沢山現実を見てきて、辛い思いをしてきた。きっとこれからも見続ける。死にたくなって消えたくなって、ある日突然、忽然と姿を消す時が来るかもしれない。生きているのか死んでいるのか分からない亡霊のように、どこかにいなくなってしまう日が来てもおかしくはないだろう。それはきっと、僕も君も大差ない確率で起こるだろう。


でも、だからこそ僕は僕の欲しかった言葉を誰かに届けたい。全てに絶望した時、本当に欲しかった言葉は誰からも貰えなかった。きっとこの先も貰えないだろう。僕の周りは皆、らしくないとか、それしきの事でとか、人生なんてそんなもんとか、甘えてるとか、そんな言葉を口にした。でも、本当に折れている時に聞いた言葉たちは僕の背に刃を刺し続けた。


ただ、一言で良かった。例えば一緒にいるよとか、肯定するとか、何だったらマック奢るでも構わない。けれど僕の周りには僕の心を救い出してくれる人はいなかった。その事実は酷く僕を苦しめた。絶望から脱した後でもふとした瞬間に、人間なんぞそんなものだと思って期待する事を辞めた。


だからこそ、僕は僕の欲しくて貰えなかった言葉を誰かにあげたい。いつか僕にそれが返ってくればいいけど、多分一生返って来ないだろうからもう期待はしないけれど、絶望を見た人に一筋の光を差してあげたい。善意でも何でもない、僕がそうして欲しかったからだ。これはある種の自己満足かもしれない。けれどそう言われても構わない。それで誰かが救えるなら安いもんだ。



三秒後に笑えるのは自分自身の選択の末だ。けれど、きっかけを作るだけなら僕にでも出来る。僕は僕の出来る限りの力を使って、誰かの心に月明かりを差してやりたい。太陽光なんて差せないから、夜道に迷った君を照らすだけの小さな光を作り出したい。陽の下に辿り着くのは自分の力でしか出来ない。けれど道を照らして導くか、ひと時の安寧を作り出すだけなら僕にだって出来る。



だからさ、その選択は最後にしてくれ。出来る事なら最後どころじゃなくて、その選択を捨ててくれ。そして、僕と話をしてほしい。くだらない話でもいい。人生についてでもいい。辛いって泣いてもいい。その瞬間だけは、僕は君の光になろう。君の足元を照らす、一瞬の光になろう。

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