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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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月みたいに遠い存在と六ペンスのようにどうしようもない人生



人生の選択について考えている



今日も懲りずに生きている。今日も懲りずに書いている。未来はまだ不透明だ。むしろ透明だった試しがないけれど。


月と六ペンスだ。

どれだけ足掻いても限界は訪れる。今はまだ、それが見えないだけだ。僕がどうして月と六ペンスが好きなのか、認めたくはなかったけれど、分かっているんだ。知っているんだ。


本当は月になりたい。月明かりに魅了されたあの日の僕を信じたい。けれど、現実が上手くいかないのも知っている。夢だけじゃ人は生きていけないんだ。今だって一発屋みたいな扱いされたし、期待は少ないし、何だったら人生の選択を迫られている。


僕は月も六ペンスもどっちも欲しいんだ。もし捨てるなら六ペンスだ。月じゃない。でも六ペンスを捨てた時、人は死を選ぶしかない。それも真実だと思う。月が六ペンスになればいいけど、それは簡単ではない。


あの日見た夢が、ようやく理解出来た気がする。


あの雪山の先は、多分月を選んだ僕なんだ。いつかきっと、その選択をするだろう。よく分からないけれど、僕は近い将来、自分がそれで生きて行けるような気がしてならないんだ。確証はどこにもない。この心にしかない。


でも、どんな事にも先立つ物は必要だ。そんな事、重々に分かっている。この世界は六ペンスなんだ。月がなくても人は生きていける。でも僕は月が欲しくて堪らない。むしろ僕が月になりたい。僕の価値は多分、六ペンスにも満たない。けれど、何一つ動かないまま、何一つ為しえないまま終わらせるもんか。


僕は一人じゃないんだよ。


信じてくれる人も、助けてくれる人も、応援してくれる人もいるんだ。全部を使えと言われた。打てる手を全て打てと教わった。だから大丈夫。人生二十七で死ぬと思え。前進しかないと思え。後退したら死ぬと思って生きて前を歩け。


書く事に努力をしているとは思っていなかった。努力なんて身にならない事ばかりだし、どうしようもない事ばかりだ。僕は勝手に指が動くだけだ。思いつく事がなくても必死に考えて書き続けた。それを努力だとは思わなかった。けれど、努力してるじゃんと言われた。僕の心に、確かにその言葉は届いた。


使い捨ての人生にはなりたくない。一歩間違えればそうなるのも分かっている。実力も年齢も伴っていないのも分かっている。それでも僕の人生は僕のものだ。誰かに物だと言われようが、僕は今を生きているんだ。誰かが僕の人生を面倒見てくれるわけではないんだ。責任を持ってくれるわけじゃないんだ。投げ捨てられるのが大体の結末だ。


だから、僕は僕の人生に責任を持たなくちゃ。選択を先延ばしにしてきた。きっとまだ、近い将来、それでも今ではない。目の前に迫って来る事がなかった。けれど、残念な事に、僕の人生の選択が今目の前に近づいてきてしまった。


怖くないと言ったら嘘になるだろう。月も六ペンスも、両方僕が欲しかったものだ。先が見えない月を選ぶか、六ペンスを手に希望を失うか、僕はこの選択に後悔せず気持ちのまま選ばなくちゃいけないんだ。どちらを選んでも、誰かに愛される未来も、信頼を得る未来も、どうなるかは分からない。今の僕に出来る事は書く事なんだ。それしかないんだ。


後悔をしないように。


僕は皆に言い続けてきた。


どんな選択でも、どんな決定でも、自分で選んだ道に後悔はしないように。けれど、それって凄く難しい。だってどれを選んでも、あの時ああすれば良かったって言うだろう。僕は理想で生きていけるほど楽観主義者じゃないんだ。無一文で原稿に向かい笑っていられるほど才があるわけじゃないんだ。多分この選択、本当に間違えたら死ぬなあと思っている。物理的にも精神的にも。


全部欲しい。与えられるもの、手に入れるもの、掴み取るものすべて欲しい。僕は結構強欲だから、お金も名誉も才能も称賛も愛も権力も正義も全て欲しい。自分が信じたものを信じて生きられる人生がいい。このご時世夢を手に入れるのだって難しい。夢だけ見ていられるほど現実は優しくない。いつだって僕らみたいな存在に、世界は優しくない。分かっている。でも、他の人が手に入れなかったものを僕が持っているのなら、それを諦めて投げ出して普通になる事なんて出来ないんだ。だってずっと普通じゃないって言われてきたんだから。今更普通の人生を歩もうとしたって無駄なんだ。


この先きっと、月を選んだ僕と六ペンスを選んだ僕で人生が変わるだろう。けれど、どうしようもないって言われようが、くだらないって馬鹿にされようが、見えていない自分の限界を信じて歩きたいと思うのは理想論だろうか。月を選ぶために、苦しく先の見えない雪山を登れば、いつかは夜明けを目にするのだろうか。それともずっと白昼夢の続きのように、人々が定義づけた普通の人生を、普通の幸せを歩むのだろうか。誰かから押し付けられた普通に苦しみながら、愛想笑いをして夢を捨てるのだろうか。


それは嫌だなと思いながら、来年の今頃何をしているのかも分からない現実が怖い。こんなにも先が見通せないって初めてだ。



大いなる力には大いなる責任が伴うように、好きな事を続けるにはお金が必要で、お金を得るには夢への選択を捨てなくちゃいけない。


っていうかこんだけ言っといて何なんだけど、世界はもっと表現者に対して優しくするべきだし、くだらない規則を作るくらいなら他の所に回せよってめちゃくちゃ悪態つきたいんだけど、それしたらもう本当に終わりだから今は仕方がなく長い物に巻かれる事にしようと思う。


いつか僕が長い物になったら、この規則覆したいなあなんて思いながら。

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