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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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十倍以上


さよならは、多分僕らの思っている十倍の速度でやってくる





相変わらず壮大な夢を見る僕ですが、今日見た夢が世界を滅ぼす夢でした。僕自身がイナゴの群れを払って終末のラッパを吹いて地上を水に飲み込んだ瞬間はさすがにびっくりしました。どんな夢見てるんだよと。その中で大切な人が僕の手で滅んだ瞬間を見て後味悪かったです。起きた後もモヤモヤしました。


そんな事を思いながら、ふとさよならの速度について考えた。どのくらいの速さでやって来るのか、多分僕らが思っている以上のスピードでそれはやって来る事に気付いた。あっという間に来るって言うけれど、多分その十倍は速いと思う。人生なんて一瞬だ。


最近の僕は自分が気付かない間に大人になってしまった事に気付く。ふとした瞬間に、それを思い知らされる。歳を重ねれば重ねるほど、大切な物が増えていく。子供の頃あれほど別の世界に行きたいと切望していたのに、今はそう思わない。失う悲しみを知ってしまったのだと思う。


若ければ若いほど、失う悲しみは襲ってこない。失うものが目の前に来る事の方が少ない。無邪気はある意味無知である事を痛感する。純真無垢は世を知らない事に繋がる。僕はそれに気づいてしまった。


いつかどこかのアーティストか何かが言っていた気がする。大人になる事で価値がなくなるのなら、大人になる前に終わらせたいって。当時はその意味が分からなかったけれど、今ならよく分かる。


僕自身が変わっていないと思っていても、現実は残酷で僕は随分と変わってしまった。あの頃感じていた感情は書けない。例えばだけど、今の僕が365を書く事は出来ないだろう。だって随分大人になってしまった。今の僕は無彩病にかかって死へ反抗する立場ではなくて、何も知らず残された側の人間だ。どうしようもない現実に若さゆえ出来ない事、抗えない事に反抗する体力などない。僕が無彩病にかかったら多分一年しっかり生きないだろう。残りのお金全部使ってどこかに旅に出て死ぬと思う。


その瞬間でしか作れないものがあるのだ。歳を取る毎に深みは増すだろう。でも、走り出したくなるような疾走感は、青臭さは、その内書けなくなっていくのが現実だ。


僕が最近気づいた事はそれくらいなので、精々足掻いてみようと思う。書きたいと思った話が書けない時ほど腹立つ事はないからね。


疾走感も色彩感覚も、どんどん変わっていく。変わっていないつもりだった。僕は僕のままだ。でも昨日より、今日、今日より明日、僕はどんどん変わっていく。いつだって初心だ。いつだって素晴らしい人間だとは思えない。けれど僕の人生が作品に現れて色彩を変えていくように、気付かない間に僕は変わっていって新たな何かを得て、過去の何かを捨てるのだ。それが寂しくもあるけれど、嬉しくもある。


成長と退化はいつだって一心同体なのだと思う。今でも僕はどこかの誰かが作った物語の中で息をしたいけれど、物語は一瞬の綺麗な所だけを抜き取っただけに過ぎないのだと分かっている。365においてスポットが当たるのは最後の一年間なのと同じように、全ての物語には長い人生の中の一瞬にだけスポットが当たっているのだ。スポットが当たっていない時の人生の長さを考えるのなら、物語の中で生きたくはないと思う。


シンデレラだってそうだろう。結ばれた後はどうなったか知る人はいないのだ。物語の中のハッピーエンドは人生のハッピーエンドではないのだ。エンドロールが走馬灯のように駆け巡るわけでもないんだよ。幸せに終わらない、一瞬にしかスポットが当たらない物語の中で生きるのは結構退屈だよ。その世界を好きにならない限り。


だから僕はさよならの速度に怯えながらも、自分自身が納得出来るような終わり方がしたいんだ。短かろうが長かろうが、僕が納得出来ればその人生は間違いなく価値のあるものだったって言えるから。

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