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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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伝えたいことと


いつだって始まりの一歩を踏み出す時はとても怖い



沢山の言葉をもらった。たくさんの人と間接的にお話をした。その全てが僕を救うと同時に、僕を不安と恐怖に陥れた。


『次の本はいつ出るか?』


僕メンタル弱いっていうか何か言われるとかみつきたくなる癖があるんだよね。まあ、やらないけど。でもこの言葉は、何気ない期待から言ったことの言葉は。僕を苦しめたことは確かだ。


このご時世作家なんて沢山いる。売れなくちゃ意味のない世界だ。君がどんなに僕の作品を愛してくれても、万人に受けて結果を残さなきゃ僕は次を書くことが出来ない。次を出すことが出来ない。それがどんなに歯がゆくてしんどくて、先の見えない恐怖になるのか、分からないかもしれない。


分かりやすく言うと、抜けた歯が生えてこない時の気持ちと同じ感じ。そんな感じ。いつか生えるだろうと思っていて、時間が勝手に過ぎていく。けれども一向に歯は生える気配を見せず一生このままなのではと不安に駆られる。


歯が一本なかった所で今の技術は凄いから何とかはなるんだけどさ。書くことも強制じゃないし、好きでやってることだからいつ辞めても自由なんだけどさ。


本になってしまったから、形になってしまったから。次を届けられる目途が一つもなくて不安になった。喜んだのは本を出して数日間。その後、一瞬にして冷めてしまった。あれ?次はどうなるんだろうって。一か月やそこらで決まる話じゃない。けれど、デビューした新人に次の話がないのは不安と恐怖でしかなかった。


ああ、また一からやり直すのか。必死に応募して、落ちて落ちてを繰り返して誰かの目に止まるかもわからないまま書き続ける辛さを、僕は知っている。反応をもらえない辛さを知っている。期待がなくなるのも分かっている。この物語は僕にしか書けないけど、代わりなんていくらでもいるし、似たような作品なんて腐るほどある。だから、僕である必要はないし、会社としても売れる人間だけを取るだろう。僕が社員でも同じことをすると思う。


いつだって何かを始める時に必要なのは一握りの勇気と批判される覚悟だ。世間から指をさされても、貫き続ける覚悟だ。それを持つのは中々難しくて、一度折られると次なんてしばらくは出来ない。やりたくない。


皆に物語を届けたかったけど、形になる予定は一つもないんだ。本当にごめんね。期待して待ってる人もいてくれたから、申し訳ないと思ってる。でも、これが僕の精一杯だ。


人生はいつだって太陽の下、雲一つない晴天の中を歩き続けることは出来ない。ほとんどが日影の下を、時には雨や雪、嵐の中を歩くだろう。傷ついて傷つけられて、涙を流しながらも終わらない道を前に進むしか出来ない。僕だって君だってそうだ。今、その道の真っ最中にいる。立ち止まることは簡単だ。でも、立ち止まった瞬間僕は歩き出せなくなるから歩き続けるよ。だからもし、少しでも僕の作品を好きになってくれたなら。ここでよければ見てほしいと思う。


君へのちっぽけな後悔を綴ったお話の先で、まだ伝えてないことがあると気づいた。僕の気持ちをどこにも綴っていなかった。あの作品は誰かが同じ轍を踏まないようにと思い書いた。けれど、僕が僕のために僕の想いを綴ったお話を、まだ形にしていなかった。


だから、今度はそのお話をさせてほしい。想いが伝えられなくなってしまった夏の夜の物語を。世間も現実も全てを憎んで、それでもただ、君が生きていて欲しかった話を。それでもただ、君の人生を描きたかったお話を。


ここから夏に向けて。365よりもずっと、僕に近い主人公のどうしたって変わることのない世界と愛した人との物語を。一緒に見届けてくれ。

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