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三秒前と、お別れしよう  作者: 優衣羽
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真夜中の月が綺麗だったので、動き始めようと思いました


経年劣化はつきものだ


最近あったことを緩く話すと、体調がすこぶる悪かったんだけどどうしても外に出なくちゃいけなくて、頑張って出たら一番必要なものを忘れて会場に入れずとんぼ返りしたこととか、鼻水吸いすぎて頭が痛くなったとか、部屋の窓から去年格闘した虫が入ってきたこととか、パソコンの調子がずっと悪くて何度も再起動かけられちゃうとか、そんなくだらない所だろうか。


経年劣化はつきものだ。ものであれ人であれ。僕は最近それを酷く実感する。


約三年前、僕の手元にやってきたワインレッドの相棒はもう随分歳をとってしまったらしい。頼んでもないのに再起動をかけまくるし文字を打っていてデータが飛んだことは一度や二度ではない。早くなった僕のタイプ速度についていけないことだって度々ある。全部、三年前にはなかったことだ。


そもそも三年前の僕はパソコンなんて使わない生活をしていたからキーボードを走らせる指先は酷く遅くて、投稿するために作る一話、僕の目安で言うと千~二千字くらいだろうか、それすらも2、3時間をかけて作っていた。今の僕は速い時で30分だ。もうどこにどのキーがあるのかを覚えていて、手元なんて見ずに画面を注視し続けるだけになった。


人だって経年劣化する。子供の頃から風邪をひいても頭痛はしなかった。けれど今はどうだろう。めちゃくちゃした。もうびっくりするくらいした。有り得ないことだった。そんなくだらない実感は、確かに僕たちのすぐそばにあって不意に現実を突き付けてくる。



新しい物語を書いている。365を編集している時からあったのだけれど、外に出すことはしなかった。けれど、もう充分休んだし、もう充分苦しんだから、そろそろ好きにしていいかなと思って外に出すことを決めた。いつになるかは分からないけど、多分近い将来だ。


365は頑張った。向き合った。けれど手を離れた瞬間、それはまるで僕の作った物語ではなくなった。僕の物語だ。僕が作った物語だ。けれど、僕が一人で作った物語ではなくなった。多くの人たちの手によって、より良い方向へ。僕の物語じゃなく、僕たちの物語になった。


手を離れた瞬間、僕が感じていた執着は消え去った。多くの人の目に留まり、知れ渡った365を見ると巣立った雛を見ている感覚だった。そこでふと思ったのは、どこかの創作者が言っていた「自分の手から離れた瞬間、執着はなくなり何とも思わなくなる」だ。何とも思わなくなるとは思えないけど、僕にとって過去になってしまったのは確かだ。それも、出してから三日後くらいに。


早かったなと思うか、遅かったなと思うのかは人それぞれだろう。でも、僕の中で365は過去になった。読んでくれている人と時間差があるみたいで。


まあ、そんなことをして、もう充分休んだし、もう充分頑張って、もう充分温かい言葉をもらったから、皆が求める次を出すために、チャンスを作りに行こうと思う。君への想いが消えた僕が作る作品は、これまでの僕が作る作品とはまた変わってくるだろう。いい意味か、悪い意味かは分からないけど、けれどもう戻れはしないのだから。



春の午後五時過ぎ、真横にある窓は空いていてカーテンが揺らめいている。部屋の明かりはついておらず、落ちてきた太陽が部屋を薄く照らしている。椅子の上で膝を抱えて座り、パソコンに向き合いながら鼻水をすすった。そんな僕が書き始める、月明かりのような人生を歩んだ人と、夢を共に拾い上げる夏のお話を少しだけ待っていてほしい。

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