ちっぽけな後悔とひと握りの勇気が世界を変えた瞬間
ちっぽけな後悔から始まったお話でした。
大学生になる歳の三月。新生活に向けて買ってもらったパソコンはワインレッドで、光沢感があって綺麗でした。人生で初めて与えられた自分専用のパソコンを見て、ふと、何かを始めるならここだと思いました。
自分専用であれば、これは自分以外の誰かが触る事はなくパスワードも自分しか分からない。何を始めても周りの人は分からない。そして、選んだのはゲームでも何でもなく。
書く事でした。
ずっと、どこかで書きたいと思っていて。けれど、書くほどのネタが現れるような人生でもないと思って逃げていました。言い訳ばかりを考えて、結局、自分が誹謗中傷の的になるのが怖かっただけ。自分の世界をさらけ出すことによって、否定されて馬鹿にされるのが怖かっただけ。人生で出会った人の九割は、そんな人ばかりでした。今でこそ幸運に恵まれたけれど、所詮また、馬鹿にされるだけなんだと思っていました。
けれど。ちっぽけな後悔が、私を変えた。
何度も後悔して、それでも変えられない現実がそこにあって、戻せない時間を知り、嘆き悲しみ泣きわめいて学んだ自分がそこにいました。
その時。初めて書く事を始めようと思いました。誰に言われるわけでもなく、特に考えもせず。始まりと終わりだけ考えて、物語を書き始めました。全ては、ちっぽけな後悔への贖罪のために。
書き始めて何度も壁にぶち当たるたび、自分がしたちっぽけな後悔を誰かがしなければいいと思い始めました。
時間は戻らない。起きた事は変えられない。言ってしまった言葉は否定をしても誰かの心を傷つけた。それは絶対に変えられない事で、誰かの人生を変えてしまったかもしれない事。後悔するくらいなら、すぐに謝ればよかった。もっと会えば良かった。ひと握りの勇気を出して、声にすればよかった。
いくら言っても戻らない事を、三年後の自分は受け入れていてようやく飲み込めるようになりました。
自分がしたちっぽけな後悔を誰かにして欲しくなくて、伝えたくて始めた自己満足は、巡りに巡って、遠い所まで僕を連れて来てくれました。
まさか、こんな長い旅路になるとは思ってもいなかったし、想像する余地もありませんでした。
当時の自分は、どうせこれは大した事にもならずに終わって、すぐに諦めるんだろうと思っていたから。だから、自分に制限を付けました。四年間の学生の間に結果が出なければ、もう諦めようと。真剣に向き合ってそれでも無理だったなら。それは縁も運も、才能さえなかった自分の証だと認めなければならない。いくつになっても目指し続けるのは素敵な事だけれど、自分にはそんな無謀な事が出来ませんでした。働いて自立して、一人で生きて行く中で出来なくなってしまうのなら。本気で向き合った期間の中で結果が出せなければ終わりにする。中途半端な事をしたくない。どんな形でも、真摯でありたい。
だからこそ、四年という長いようで短い間。誰に言うわけでもなく、自分一人で向き合って形になった時、初めて人に自慢する事が出来るから、そうじゃなければ隠し通せと自分の中で約束しました。何か聞かれたら、あくまで趣味の範疇であると誤魔化していました。格好悪い所を見せたくないっていう、くだらないプライドからでもありました。
でも。ちっぽけな後悔が多くの人に伝わった時、ひと握りの勇気を持って踏み出した世界が、三年後、意味を持って、僕を遠いこの場所まで連れて来てくれました。
僕と君の365日、書籍化されます。
ここでの宣伝はなろうの規約違反になってしまうので、詳しくは活動報告、Twitterを見て頂けたら嬉しいです。
自分の中で決めた約束を守って三年で新しい場所に来れたのは、もう運と言うしかないし、奇跡の集合体で出来たような出来事でした。
けれど、十八歳の三月に踏み出した自分がいたから。約束をした自分がいたから。果たすために努力をした自分がいたから。今ここで誰かに伝えられる自分がいます。
世の中は理不尽で、僕は実力、才能、運をフレミングの法則に見立ててよく言うんですが、このどれか一つでも欠けたら、どうする事も出来ないのだと。どれだけ努力をしても叶わない夢だってあった。どんなに嘆いても、周りに追い越されていった。それは僕が悪いわけでも君が悪いわけでもなく、どうしようもない理不尽の前で、為す術を無くしてしまったから。
今も自分がそれを兼ね備えているかと言われればノーと答えるでしょう。僕は皆が思っているよりずっと、出来の悪い人間であるから。でも、それでも。踏み出した一歩がなければ三秒後の世界は変わらず、三年前の自分は膝を抱えてうずくまったままでしょう。
ずっと僕が言いたかったのは。小さなきっかけで世界は変わること。小さな一言で、誰かの人生を変えてしまうこと。もうどうしようもない理不尽があること。それでも、他人にも、自分にも真摯でいてほしいこと。自分に真摯じゃなくなった瞬間、夢は二度と現実にはならないだろう。向き合うことを止めて逃げたら。元に戻れない事をよく理解している。
でも。これが終わりにならないように。思い出なんかで消えないように。この先もずっと、僕は自分に真摯に向き合って、馬鹿みたいな空想を形にするよ。絶対に途中で諦めちゃいけない。立ち止まっちゃいけない。それが、自分で決めた道だから。
始まりは誰にでも訪れる。僕にとってこれが始まりで、嬉しいって言う気持ちより未来への不安の方が勝っているけれど、それでもちっぽけな後悔が作り出した365日の愛の物語を誰かに伝えるために、またひと握りの勇気を持って遠くを目指し歩き出すよ。
その間に、見てくれた多くの人。応援してくれた人。声をかけてくれた人。僕の背中を押してくれた素敵な君達に恩返ししていきたい。そして、たった一つの感情を教えてくれた君に。
最大限の感謝と愛を。




