追憶が君を呼び起こすなら
人生に名前があるなら、希望って言葉は違うだろう。
僕はこの歌詞が好きだ。どうしても頭に残る。リリースしてから随分長い事聞き続けたけれど、人生という言葉はどうやったって希望にならない。希望って言葉では表す事が出来ない。だからって別に絶望なわけでは無いけれど、決して明るい道のりではない事を知っている。
僕等はいつだって誰かの味方で誰かの敵だ。皆が仲良く手を取り合える世界なら言う事もないけれど、それで終わらなかったから戦争は続いていく。どこかの誰かとの小さな小競り合いも。顔も合わせた事のない画面の向こうの君に酷い言葉をかけられる。
けれどそれが無くなったら、人間は人間じゃなくなるのだろう。技術は進化しないまま、世界は同じ時を繰り返していただろう。僕は今ここにいなくなり、君も今、これを見る事すら叶わなかったのだろう。
さて、僕の大して長くも短くもない人生を言葉にするのなら何て名前を付けるだろう。結論は未だ出そうにないし、死の間際でも出やしないだろう。少なくとも今の僕に明るい言葉は出てこないだろうなって思う。いつだって僕がいる場所は不安定な瓦礫の上だから。自らそこに立ちに行ったのか、誰かに立たされたのか、誘導されてしまったのか。そのどれでもあるんだろう。僕は今、これを見ている君が同じ道を進まない事を心から願っている。
いつかは必ず苦しむだろう。涙は止まらず叫ぶ日も来るだろう。むしろそれが出来たならと思う日も来るだろう。幸せばかりではないだろう。君の人生を終わらせたくなる日も来るだろう。どこかの誰かの妄想の中に生きたいと願うかもしれないだろう。振り返った時、自分が可哀想になるかもしれないだろう。君に会えないままで人生を終えるかもしれない。さよならは今かもしれない。ありがとうはもう二度と言えないかもしれない。好きなんて言えたらよかったのにと後悔するだろう。
僕等はどうしたって夢の世界の住人にはなれないのだ。誰かの想像の世界には入れないままで。真っ黒なアスファルトを歩き続けるしかなくなるのだ。横断歩道は白線のままで、信号機は青でしか渡れないまま。誰かの顔色を伺って、裏切られて、歩幅を合わせて歩くしかなくなるのだ。しょうがないで済まさなくてはいけない日が来てしまったなら、それが大人になるという事だと誰かが言うのだろうか。じゃあ僕は大人になれないのかな永遠に。
結局、変わっている子の方が良いって言ったどこかの誰かも、歩幅を合わせる量産型を選ぶのが現代社会だ。人の言葉なんて信用しない方がいい。期待をするほど辛い思いをするのは自分だ。努力は実を結ばない方が多い世界なんだ。大抵の事は叶わないと思った方がいい。叶った奴は、多分、前世で僧侶だった奴だけだ。
どこかの誰かへ。
だから。黄色い線の内側から消えるのは止めてくれ。電車が止まる度、迷惑だなと思う反面悲しくなるんだ。助けたいなんて綺麗事は言えないし、助けてなんて頼んでないだろうから口に出さないけれど。もう少し、もう少しだけ何とかならなかったのかなって思ってしまう。君が飛び立つ前に、止めてくれる人はいなかったのかな。君を思う人はどこにもいなかったのかな。偽善でもなく、お節介でもなく。そんな人を作れない世界って何なんだろうなって思う。君の選択は多くの人の時間を奪ったけれど、それが君の世界に対する最後の抵抗だと思ったら、僕は何も言えなくなるんだ。
何度も言っているけれど、僕は自らの意思で生を終わらせる事には責めるつもりはない。賛成でも無いし自分が同じ事をするつもりはないけれど、それで君が救われるなら良いんじゃないかって思う。どうしたって変われない人もいる。どうしたって変わらない世界もある。でも悲しいよな。
自らの意思で死んでいった人を見る度に思うんだ。きっと彼らの人生に名前を付けるなら絶望だったんだなって。そんな人を作る世界って、現代社会って何なんだろうって。どうせ生まれてしまったのなら幸せになりたくて歩み続けるのに、それをさせてくれない空間って何なんだろう。虚しいよな。
いつか君が命を手放す日が来たなら。どうか言ってくれ。僕が君を憶えていたいから。
ああ、人生に名前をいつかつける事になるのなら。
僕は追憶と名付けよう。忘れたくないから、憶えていたいから。
君の事を、読んでくれていた人の事を、顔も知らない誰かの事を。
冬。石油ストーブの匂い。乾燥したコンタクト。痛くなった鼻。変色した爪。
空が遠い事。星が消えた事。陽が落ちた事。
全部、全部、忘れないまま大人になって、そして死んでいきたい。