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オマケ:妖精の男の子

「ねぇ、母さん。あの話の中の妖精の男の子は、どうなったの?」

彩音が聞いた。

「さぁ、知らない。」

「じゃあ名前は?それぐらい教えてくれてもいいじゃない。」

「もう覚えてないよ。」

「なんて薄情者。それとも覚えてるのに教えてくれないの?」

「たとえ覚えていても、あんたには教えないよ。」

涼音に聞いても無駄だと思ったか、彩音は僕のほうを向いた。

僕は首を横に振った。

「父さんも知らないよ。ねぇフェアリー、知らないよね。」

フェアリーは微笑みながら繰り返した。

「知らないよね。」



結婚して1年経った春の日、僕たちはリビングで

フェアリーの親友である田中さんを待っていた。

フェアリーと僕に話があるというが要件は見当つかなかった。


インターフォンに答えてフェアリーが玄関に向かった。

すぐに田中さんが入ってきた来た。

「お久しぶりです。お元気ですか?」

いつもの明るい笑顔だ。

「いらっしゃい。どうぞ座って。

今日はどうしたの?」

「今日はちょっと御報告なんです。」

「報告?」

遅れてフェアリーがもう1人を、なぜかぎこちなく連れてきた。

その顔を見て驚いた。

フェアリーの元の婚約者、松田裕章だった。

僕と目が合うとフェアリーは困り顔で首をひねっていた。

彼も居心地悪そうだった。

4人のうち3人がこれ以上ないほど、

気まずい雰囲気の中、田中さんがこう切り出した。

「私達、結婚するんです。」

「結婚?」僕は自分自身の声にビックリした。

フェアリーは口を開けたまま動けなくなっていた。

「はい。でも森野さんと涼音には

きちんと説明しないとダメだって彼が言うんです。

という訳で彼が説明します。頼むね、ピロタン。」

あだ名で呼ばれたのが恥ずかしかったのか、

急に話を振られたからのか松田は彼女を睨んだ。

でも田中さんは涼しい顔。

気を取り直した松田は向き直すとこんな話を始めた。



あの後、僕は涼音が走り去った方角を見たまま

駐車場の入り口で突っ立っていた。

「あれ、涼音?」

通りがかりの女に声をあげた。

「遊びに行こうと思ったんだけど。

今日は止めた方がいいかな?」

僕に聞くともなしにそう呟くと、

彼女は涼音の行った方角と僕の顔を何度も見比べた。

その無神経な態度に文句を言おうした瞬間、

「これ持っててくれる?」

急に声を掛けられ、顔を向けたら彼女の顔が目の前にあって驚いた。

彼女はニッコリ笑って買い物袋を押しつけた。

「これお願い。コーヒー買ってくるね。」

そう言いながら彼女は走って行った。

婚約者に逃げられたばかりの男が買い物袋を提げている。

何ともマヌケな姿だった。

と言って袋を投げ捨てる気にもなれず、そのまま突っ立っていた。

5分ほどで彼女はコンビニの袋を持って帰って来た。

「お待ちどうさま。ありがとう。」

ニコニコ笑っている。明るい笑顔だった。

「一緒にパン食べよ。焼き立てだから美味しいよ。

3人で食べるつもりで買ってきたから一人じゃたべきれないんだ。」

僕は断われなかった。

「車の中で食べようか?」

「ありがとう。その言葉を待ってたんだ。」

女はあっさり助手席に乗り込んだ。

僕が運転席に座るとコーヒーとパンを1つ手渡した、

「ほら焼きたてでしょ。

ここのパンはどれも美味しいんだけど、

この塩バターロールは特に美味しいんだから。」

彼女はパンにかぶりついた。

美味しそうに食べる姿につられて、一口食べる。

確かに美味い。バターの香りが鼻に抜けて行く。

「たくさんあるから、遠慮しないで食べてね。」

二人でもくもくと食べた。

食べ終わると彼女は僕にはつぶやいた。

「美味しいもの食べると幸せになるよね。

私、この前、付き合ってた男と別れたばかりなの。

でも美味しいもの食べると元気でるんだ。

あなたも元気出してね。」

そう言って僕に微笑みかけた。

そうか慰めてくたのか。

「何で知らない男の心配するの?」

「寂しいそうな目をしてたからね。

それに、あなたはいい人に決まってるわ。

涼音がデートするぐらいだもん。」

「何だいそれ?」

「涼音、昔から男の子を見る目が厳しいの。

言葉や見た目には騙されないんだよね。

あなた涼音とデートしたんでしょ?

だったら、いい人に決まってる。」

「じゃあ君の元彼は?」

「私が選ぶ人はいつも涼音の評価が低いの。

この前のは涼音に見せずに付き合ったんだけど、

とんだ浮気男だったんだんだ。

私は男を見る目がないみたい。」

少し悲しそうな目をした。

しばらく二人で前を向いたまま動かなかった。

やがて彼女が口を開いた。

「じゃあ帰るね。あなたはどうするの?」

僕は時計を見た。あれから45分経っていた。

「1時間待とうと決めたんだ。あと15分待つよ。」

「そう。簡単に諦めきれないよね。

それじゃあまたね。」

微笑んでドアを開けた。

「パンどうもありがとう。

ところで君の名前は?」

「今度会うことがあったら教えてあげる。」

微笑んだまま彼女は出て行った。

車の中から、その背中を見送った。

「また会うことなんてことあるんだろうか?」

待っているはずの涼音ではなく、

彼女が気になり始めていた。

いくらなんでも切り替えが早すぎるだろ。

自分に呆れながらも、彼女の笑顔が目に浮かんだ。

ふと見ると、その彼女が左手から現れた。

さっきの右に曲がったはずだけどな。

しばらくすると今度は右側からやってきた。

さかんに首をひねっている。

「どうしたの?」見かねて車から降りた。

「涼音のウチを通らずに帰ろうとしたら

分からなくなっちゃって。」

苦笑いを浮かべた。

「地図は?スマホ持ってないの?」

「地図が読めるんだったら困ってないよ。」

少し怒ったように言い返した。

時計を見るとあと5分。まぁいいや、切り上げるか。

「送ってこうか?」

「本当?嬉しい。ありがとう。」

明るい屈託のない笑顔だ。

なんで前の男は、こんな子を裏切れたんだろう。

「吉祥寺の駅まで行けば分かる?」

「三鷹の方が嬉しいんだけどな。」

ニカッと笑った。

「三鷹に住んでるの?」

「ううん、国分寺。でも今日は高尾に行くの。」

「じゃあ、高尾がいい?」

驚いたような、うれしそうな顔をした。

「そうだ。あなたジンギスカン食べられる?」

「北海道名物の?食べたことないな。」

「今夜、兄ちゃんの家でジンギスカン・パーティーなの。

おいでよ。楽しいよ。甥っ子も、姪っ子もかわいいんだから。

車も停められるし、お酒飲んで泊まっていけばいいよ。」

「いや、それは。」

と言いかけた僕を彼女はじっと見つめてこういった。

「嫌なこと全部忘れられるよ。」

フフっと彼女が笑った。逆らえなかった。



「とまぁ、それがキッカケで今に至ったの。

招待状送るから結婚式には二人で来てね。」

田中さんはにっこり笑った。


玄関で二人を見送った。

その背中を見ながら、フェアリーが僕に聞いた。

「どうする?」

「結婚式?そりゃ招待されたら出席するよ。」

「嫌じゃない?」

「全然。フェアリーの親友の結婚式だもん。

新郎はどこかであった気もするけどよく知らないんだ。」

フェアリーは驚いた様子で僕の顔を見た。

僕は前を向いたまま、こう告げた。

「知らなかった?僕もフェアリーといると、

嫌なことすぐに忘れちゃうんだよ。」

フェアリーが僕に抱きついた。

「私も真理恵の相手、初めて会った気がするな。」

僕もフェアリーの肩を抱いた。

「そうじゃないかと思ったんだ。」

フェアリーが僕の手を握った。

「知らないよね?」

「知らないよね。」

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