表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

仲直り

僕は松田とフェアリーが帰って行くのを玄関で見送ると、

応接間のカップをキッチンに下げた。


これで終わった。サバサバした気持ちだ。ほら大丈夫。

自分にそう言い聞かせた。

これからは涼音の父親だ。智美ちゃんの夫になるんだ。

早速、智美ちゃんに連絡しよう。

「晩御飯でも一緒にどう?今日はウチに泊まればいいよ。」

頭の中で会話の練習をする。

そうだ、フェアリーの荷物を智美ちゃんの家に持って行こう。

それで完璧だ。

そう思って荷物の入った袋に手をかけた。

中のものが目に入った。

妖精の人形、色紙、ドアプレート。

それを渡したときのフェアリーの喜んだ顔が浮かんだ。

身体中の力が抜けて、その場にへたり込んだ。

涙が溢れた。拭く気にもなれなかった。

袋を前に動けなくなっていた。


突然、玄関のドアが開く音が聞こえた。

ドアを閉める音と激しい足音が同時にやって来た。

その足音の主は僕の目の前にあった荷物を掴むと階段を上った。

僕も慌てて立ち上がり、その後を追って二階の寝室に走り込んだ。

フェアリーがこちらを向いて立っていた。


「彼のところに帰りなさい。」

フェアリーの手を取ると、それを振り払った。

もう一度、取ろうとしたら、頬を平手打ちされた。

驚く僕にフェアリーが抱きついた。

「ヒドイよ。約束と違うよ!

いつまでもこの家に居ていいって色紙をくれたのに。

私の住む場所がここだよってドアプレートくれたのに。

勝手に外すなんてひどいよ。ひど過ぎるよ。」

フェアリーは右手で僕の胸を何度も叩いた。

「なんで裕章と笑いながら仕事の話なんてするの。

俺の女になにするんだってなんで怒らないの。

なんで浮気してるんだって私を叱らないの。」

僕の胸に顔を埋めて泣き出した

フェアリーの肩を抱いた。

「フェアリー、僕にはそんな資格ないんだよ。

君にふさわしい男にはなれなかったんだ。」

フェアリーは首を横に振った。

「フェアリーには裕章君がいるじゃないか?

彼の方が僕よりしっかりしてる。

お金持ちでハンサムで、何より僕より若い。

そしフェアリーのこと大好きで、とても大切にしてくれる。

僕よりふさわしい。

僕は彼ほど君を幸せに出来ないよ。」

フェアリーは下を向いたまま僕に訴えた。

「それは違うわ。幸せは二人で作るものでしょ。

旦那様、一人で頑張ろうとしないで。」

「フェアリー。」何も言えなかった。

「旦那様がそんな風に思うの私が壁を作ってたからだよね。

私を支えるのに疲れちゃったんだよね。

でもね、旦那様。

私は旦那様を支えたい。

旦那様に寄り添っていたい。

旦那様が私にふさわしい男になれないというのなら、

私が旦那様にふさわしい女性になる。


約束通り、大学も行って社会人として働いて外も見てきた。

そのうえで、やっぱり旦那様がいいの。

私が旦那様を選んだの。」

フェアリーは一段と強く僕を抱きしめた。

「それにね、旦那様。」

フェアリーは涙をためた目で僕を見つめた。

「今まで思い出が全部悲しいものになってしまったの。

裕章なら旦那様のこと忘れさせてくれると思った。

私も忘れようとしてみた。

でも忘れるどころか、どんどんハッキリ見えてくる。

私の悲しい思い出を消せるのは、旦那様しかいないの。

もう一度、嫌なこと全部忘れさせて。

お願い。お願いします。」

フェアリーが僕に体を預けた。

僕はフェアリーを抱きしめてキスした。

二人でベッドに入り、薄暗くなるまで抱き合った。

フェアリーは「ごめんなさい」「寂しかったんだよ」

「旦那様がいけないんだよ」うわ言のように繰り返した。


夕食は二人で初めて行った洋食の店まで歩いて行くことにした。

その途中、フェアリーは僕の腕にしがみついて離れなかった。

その重さが心地よかった。

「旦那様」

フェアリーが聞きにくそうに話し始めた。

「母さんとはどうだったんですか?」

「どうって?何もなかったよ。

フェアリーが片付いてからって諭された」

「旦那様、母さんとその気があったんですね。」

僕の左手を噛んだ。

「もうダメですよ。旦那様は私だけのものなんですから。」

一段と強く、僕の腕に抱きついた。


「そういえば智美ちゃんからメールの返事が来てたよ。

明日の昼過ぎに西荻の家に行こう。」

「明日、母さんに怒られますかね?」

「どうだろ?かなり心配してたからね。

僕に『明日から義母さんと呼べ』ってあったけど。」

フェアリーが笑った。


フェアリーは食事の間もテーブルの下で足を絡めてきた。

僕はそれを外さなかった。繋がっていることがうれしかった。

お腹も一杯になり、次第にいつものフェアリーが戻ってきた。


「もう敬語はやめるね。

旦那様がしっくりくるんだけど、それも変だよね。

ダーリンって呼んでもいい?」

僕は笑いながらうなづいた。

「じゃあ、なるべくそう呼ぶね、ダーリン。

あと、これからは毎日5回、お互いに愛の言葉を囁こう。」

「1日5回?」

「起きた時、朝昼晩の3回のご飯、それに寝る前。

ねっ簡単でしょ?ダーリンは口にするのが少な過ぎるんだよ。」

もう生意気なこと言い出した。

まだ子供なんだか、もう大人なんだか。

そう思ったものの、僕の中のわだかまりはすっかりなくなっていた。


「あっ、ちょっと待ってて」

フェアリーが雑貨屋に走りこんだ。

しばらくして「はい、これ。」と買ってきたものを

僕に渡した。

金属製の小さな妖精のピンバッジ。

「これはダーリンが常に持ち歩くの。

まだ取材旅行にいくんでしょ?

その時も一緒に持って行ってね。

寂しいけど私の代わりが行ってると思って我慢する。」

そういって微笑んだ。

それから僕を見つめてこういった。

「ダーリン、大好きです。

これからもずっと一緒にいてください。」

そういって頬を少し赤くした。

「さぁダーリンの番だよ。愛の言葉の夕食分。」

「えっ、ここで?」

夕暮れ時、中道通り。人通りの激しかった。

「ウン、ウチに帰ったら忘れちゃうもの。

大丈夫、だれも見てないよ。

最初だから熱いのお願いね。」

いたずらっぽく微笑んだ。

意を決した僕はフェアリーの前にひざまずいた。

「フェアリー、長い間、待たせてしまってごめんなさい。

心から愛しています。結婚してください。」

周りからクスクスという笑い声が聞こえた。

フェアリーは真っ赤になり、何も言わずに

僕の手を取ると、周りも見ないで、

ズンズンと公園の入り口まで急ぎ足で僕を引っ張った。

「あー恥ずかしい。ダーリンなんであんな所で?」

「あれしかないと思ってたし、

フェアリーがあそこだっていうから。」

顔を見合わせて2人で大笑いした。


「あーあ、せっかく仲直りしたのに。

もっとゆっくり仲良くしたいなぁ。

月曜日、休んでいい?」

「それはダメだよ。」

「はーい、だよね。」ちょっと拗ねた。

「月曜日に会社に退職届を出して欲しいんだ。

九州には一緒に行きたいから。」

フェアリーの目が一瞬、輝いた。

でもそれはすぐに消えた。

「どうしようかな。」

「どうして?一緒に行きたくないの?」

「そうじゃないけど。講師になれたし、

仕事も面白くなってきたし

今辞めるのもったいないかなぁって。」

「なんだよ、それ。寂しいから一緒に行こうよ。」

それを聞いてフェアリーが笑い出した。

「ダーリンが甘えるの初めて聞いた。かわいい。

これならもっと早く甘えてもらえばよかった。」

「よせよ。」

僕が照れたらさらに大きく笑った。

「また1ヶ月でしょ?最後の1週間とかどうかしら?」

「そうだね。じゃあ今週の金曜日は休んでよ。」

フェアリーが怪訝な顔をした。

「一緒に婚姻届、出しに行こう。」

何も言わずに僕の腕が痛いくらいに抱きついた。


「今年からは必ずと一緒に桜見ようね。」

「あぁ必ず夫婦二人でね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ