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ROYAL BOUNTY  作者: アオキチ
三章 上層 王冠宮

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王冠宮の乱闘 後編

 息を整えてガリウに対峙する。


 逃げられない……無茶でも、ここで負傷させることが出来れば、その隙に逃げられる。


 足の指に力を入れ、間合いを測る。


 ガリウが飛び出し、一瞬で距離を潰していく。

 

 引きつけろ──今だ!


 俺は一気に飛び出し、斬りかかる。


 ガリウは地面を踏み締め、上体を反らして躱した。


 間合いがズレた!? 


 振り下ろした剣を躱され、顔面へ拳が打ち込まれる。

 俺はアゴを引き、額で頭突きするように迎え討つ。


 拳に撃ち抜かれ、火花が白く覆う。

 勢いに流されながら後退する。

 倒れず持ちこたえる。


 朦朧とする意識でぼんやりと輪郭しか映らないガリウに斬り上げる。

 どこかに斬りつけた感覚はあるが、浅い──。


 前蹴りの衝撃が腹にねじ込まれた。

 膝がつき、倒れる体を手で支える。


「早く立て。食らいついて、私を楽しませろ」


 見下ろすガリウを睨みつける。

 霞んだ視界が歪な笑いを縁取る。


 咆哮する叫びが響き、ガリウは目線を外す。

 ガリウは舌を鳴らし、俺を蹴飛ばした後に地面を蹴って飛んだ。


 次の瞬間。


 ズガンッ!!


 獅子顔の両拳が、さっきまで俺とガリウがいた床を叩き潰す。


 振動が足に伝わり肌を震わせる。


 フェスカが駆け寄り、手を差し出す。

 俺はフェスカの手を掴んで立ち上がる。


「どうやって逃げる!? コイツラ相手にするのは小隊は必要だぞ!」


 考えが甘かった。

 俺の常識なんて通用しない化け物どもだ。


「シノと合流するぞ! 向こう三人は敵対してる。ぶつけて隙を見て逃げよう」


 俺とフェスカはシノの援護へ走り出す。


 獅子顔がガリウに襲いかかる。

 ガリウは獅子顔の足元へ手を突き出す。


「ゴーク・グラン!」


 獅子顔の足元から石柱が連続で突き出し、顔や腹へ鈍い音を立てて打ち込み、巨体を囲うように乱立した。



 鬼人がガリウの元へ駆け寄る。


「大将! 負傷した奴の救出は終わりました!」

「お前らは撤退の準備をしろ。船を解放させておけ」

「エイダはどうします?」


 ガリウはエイダを一瞥する。


 エイダは服の内側から魔力根を取り出し、口に入れ大きく息を吸い、魔力を補給して吐き捨てる。


 再び手を掲げている。

 ガリウはエイダへ走り出し、腕を掴む。


「止まれ、エイダ」


 エイダは鋭い視線をガリウへ向ける。

 正気に戻り、顔が青ざめる。


「将軍……私は……」

「部下と一緒に船の準備をしてこい。後は任せろ」


 ガリウは踵を返し、沈黙した獅子顔の横をすり抜け駆けていく。

 エイダは唇を噛み、鬼人たちの後を追って王冠宮から踏み出した。



 シノが間合いを一定に保って立ち回り、近衛将の頬や脇腹に浅い傷を刻んでいる。


 優勢に見える……が、近衛将の獲物の呼吸を探る目は胸騒ぎがする。


 俺とフェスカは二手に分かれて左右から近衛将を襲う。


 俺は近衛将に斬りかかる。


 正面にはシノがいる。

 なら下がって避けるはずだ。


 近衛将は横目で俺を捉えたまま、半歩下がって縦斬りを避ける。

 俺は振り下ろした剣を素早く返し、近衛将の顔を目掛け斬りつける。


 近衛将は俺の剣を握る持ち手を蹴り上げる。

 俺は蹴り上げられた勢いを殺せず、両手で剣を掲げたまま無防備になる。


 フェスカは落ちてる瓦礫を片手で拾いあげ、近衛将の背へ叩きつける。

 

 ドスッ!


 鈍い音が響き、近衛将の顔が歪む。


 近衛将はフェスカへ飛び出し、腹を目掛け蹴り込む。

 フェスカは銀盆を拾い上げ、蹴りを受け止める──銀盆はグニャリと形を変える。


 フェスカの援護へ駆けつけようとした時──動かなくなった獅子顔が目を見開いた。


 獅子顔が唸り、腕を振り上げ石柱に目掛けて振り下ろす。


 ガゴンッ!


 石柱を砕き、獅子顔の周りに粉塵が舞う。

 粉塵を切り裂いて獅子顔が俺を目掛け突っ込んでくる。


 俺は足で踏んでいるテーブルクロスに視線を落とす。

 俺は剣を手放し、テーブルクロスを脇に抱えて獅子顔に駆けていく。


 距離が縮まる。


 獅子顔が振りかぶり、足に体重を乗せた──今!


 テーブルクロスを顔に投げつける。

 俺は勢いで膝を擦りながら滑り込み、獅子顔の背後に立ち上がる。


 視界を遮られた獅子顔が空を切り、テーブルクロスを顔から引き剥がす。


 獅子顔が獲物を見失い、見渡す。

 俺は獅子顔の足首を掴み、全体重をかけて──引いた。


 ドズン!


 獅子顔は腹ばいに倒れ込み、俺は倒れ込んだ背へ飛びつく。


 このまま首を絞めて落とす!


 体を密着させて腕を回そうとしたが、分厚いたてがみに阻まれる。


 毛が邪魔だ! しかも首が太くて腕が回らない!


 獅子顔は起き上がり、背にいる何かを振り払おうと暴れ回る。

 俺は振り落とされないように鬣と襟元を握る。


「ゴーク・グラン!」


 ガリウが獅子顔と俺に向けて、石柱を連続で突き出していく。


 獅子顔は床を蹴って跳ね上がる。


 獅子顔は石柱に着地して、ガリウを見据えて──跳ぶ。


 勢いと体重を乗せた拳をガリウに振り下ろす。


 ガリウは正面から両手で防ぐ。

 

 鈍い衝撃音が聞こえた。


 獅子顔の振り下ろされた拳が、ガリウの両手ごと額に叩き込み、胸、腹を順番に打ち抜いてガリウを弾き飛ばす。


 獅子顔の着地と同時に片膝を付き、息を荒げている。


 獅子顔を倒す術がない、それにしばらく動けないな。


 俺は息を整える獅子顔から離れてシノとフェスカの元へ向かう。

 

 フェスカの援護にシノが入り、近衛将を相手に善戦している。

 戦場とは違い場末の酒場のような環境が有利になっていた。


 近衛将は走ってくる俺へ視線を向け、視界の端にある床に置かれた剣を捉えた。

 シノの斬りつけを身をかがんで避ける。

 低い姿勢のまま地面の剣へ飛び出した。


 フェスカが地を蹴って近衛将の背を追う。


 近衛将は地面の剣を掴み、フェスカへ向けて手をかざした。


「クロン!」


 風の刃がフェスカに襲いかかる。

 フェスカは紙一重で躱し、頬が刃をなぞる。


 フェスカが風の刃を注視した刹那──近衛将が低い姿勢のまま、軸足を起点に足を振り回し、フェスカの足を薙ぎ払う。


 フェスカは地面に腹を打ち、伏せる。

 近衛将はフェスカの背を踏みつけて立ち上がる。


 近衛将は剣先をフェスカの首元へ向け、剣を持ち上げた。


 不味い! フェスカがやられる──いや……獲物を狩るように、()()を探っている?


 シノが地を蹴り、歩幅少なく近衛将へ駆けていく。

 視線を鋭く、剣先を立てる。

 狙いはシノか!?


 「狙いはシノだ!」

 俺が叫ぶのと同時だった。


 シノの剣先は、振り向き様に躱され──近衛将はシノの腹に剣を突き刺した。



 シノの服はジワリと血で滲んでいき、歯を食いしばり固まる。


 近衛将は強引に引き抜く。

 シノの首を掴んで剣先を立てる。


 フェスカが身を翻し、背に踏む近衛将の足を振り払い、近衛将の剣先はぶれ、シノの脇腹を掠める。


 フェスカは近衛将を蹴り飛ばし、膝を付くシノを支える。


 シノは刺された腹部を抑え、眉間にしわを寄せ歯を食いしばる。

 抑える手には血が広がっていく。


 近衛将は立ち上がり、二人へ向け剣を突き立てる。


 俺は近衛将へ向かって走る。

 落ちている銀器を拾い近衛将の顔に投げつける。


 近衛将が銀器を避ける。

 俺は近衛将の脇腹に突っ込み、そのまま床へもつれ込む。


 俺は二人へ叫ぶ。

「ここは任せろ! 二人は先に行け!」


 フェスカはシノの膝裏と背を抱え、そのまま抱き上げる。

「すまねぇ!」

 王冠宮から逃げるように走り出す。



 近衛将が体勢を立て直す。

 俺は腕をつき、立ち上がろうとした瞬間。


 近衛将の蹴りが俺の肩を打ち抜いて、衝撃で床へ転がる。


「首謀者を逃しちまったな。せめてお前さんだけでも連れて帰るか」


 近衛将がゆっくり近寄る。

「皇子の玩具になるんだ。愛想良ければすぐには死なねぇさ」


「それは私の獲物だ」

 ガリウが反対側から歩いてくる。

 額から血を流し、息が小刻みに荒い。

 骨にひび……もしくは折れてるのかもしれない。


「こだわるじゃないの、色男」

 近衛将が剣を構え、立ち尽くすガリウに歩いていく。


 ガリウがやられたら次は俺……今逃げても追いつかれ捕まる。


 獅子顔が息を荒げたまま、立ち上がる姿が見えた。


 無茶な作戦だが、やってやる。


 俺は瓦礫を掴み獅子顔へ向けて投げつける。


 近衛将が振り向く。

 瓦礫は近衛将の頭の上を越えていく。


「先に躾が必要だな」


 近衛将が足を踏み出す。


 獅子顔の背に瓦礫が直撃する。

 獅子顔は叫び、振り向き、床を踏み抜きながらこちらへ駆け出した。


 近衛将が俺への視線を切り、獅子顔へ向けた瞬間。

 俺は近衛将の腰に飛び付き、両手を回して組み付く。


 近衛将は俺の頭を掴み、引き離そうと力を込める──獅子顔が迫りくる。


 近衛将は舌打ちし、獅子顔へ手を向ける。

「クロン!」


 風の刃が放たれる。


 風の刃を受け、腕が切りつけられ血が舞う。

 それでも勢いは止まらない。


 近衛将は剣を獅子顔の喉元に狙いを定める。


 剣を突き出す、刹那──俺は足を踏ん張り、近衛将の腰を引いた。


 近衛将の目線がズレ、突き出した剣は腕を掠める。


「しまった──!」


 獅子顔が衝突し、近衛将は弾かれて床に叩きつけられる。

 俺は衝撃で意識が飛び、弾かれて床に転がる。


 獅子顔は足がもつれ床に倒れ込む。


 俺の視界を取り戻し、手をついて起き上がる。


 近衛将は床に転がったまま動かない。

 獅子顔は全身に力が入らないのか、息を荒げたまま伏せている。


 俺は近衛将が落とした剣──その先のガリウと視線がぶつかる。


「来い。決着をつける──っ」

 ガリウの口の端から血が流れている。


「俺の目的じゃない。ほっといてくれ」

 俺は裏口へ歩き出す。


 ガリウは戦場リンプインでの、ローシャの言葉が脳裏によぎる。


「目的、遺物アーティファクトか」


 ガリウの言葉に足を止める。

「知っているのか?」


 床に伏せた近衛将の腹部がピクリと動き、薄目になる。


「貴様は、魔族なのか?」

「魔族じゃない! 俺は記憶を取り戻して、この世界に来た理由を知りたいんだ」


 獅子顔は荒げる息を抑えつけ、会話へ耳を傾ける。


「そうか、貴様が持ってる"魔石"。それはなんなんだ?」

「魔石?」

監獄リンプインで魔物を呼び寄せた鉱石だ」


 親方から渡された鉱石……確か魔力を流したら反応したな。


「分からない。けど、魔物を呼び寄せたのかもしれない。記憶が戻れば、もしかしたら」


「……なら軍国の遺物を手に入れるんだな」

「なんだって?」


 ガリウは踵を返して立ち去る。

「待て! 軍国の遺物が記憶を操作しているのか!?」


 ガリウの背を月光が見送り、入り口の闇へと消えていく。


 ガリウの口ぶり、何か知っている。

 俺の記憶は軍国の遺物が関わっているのか。


 俺はガリウの残した疑問を頭の片隅に置き、シノとフェスカの後を追うべく裏口へ走り出した。


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