Vol.067【探偵の勘】
歌舞伎町に響きわたる、いくつものサイレンの音。
焼き付くアスファルトから、嫌な匂いとともに立ち上る胡散臭い陽炎。
なぜか、この街はいつも俺を嫌な人間にさせちまう。
依頼される案件といえば、表か裏かも分からない紛らわしいものばかりだ。
どいつもこいつも
金、金、金!
だから俺も、金に執着するようになってしまった。
金が全てじゃない。
そんなことは分かりきってる。
だがこの街で探偵家業なんて仕事をやっていれば、必然とそういう人間になっていく。
あ〜あ……
嫌な世の中だ。
いつもなら電話が鳴ると、また面倒な、金払いの悪い輩からの依頼かと思ってしまう。
そんな毎日が続いていたからな。
だが今回は違った。
ふっ……まさかな。
今までの依頼人とは、まるで違うタイプの人間だ。
しかも若い。
しかもオタク。
しかも……かなりの根暗だ。
こんな奴を相手に仕事ができるのか?
そう思いながらも「やります」と言ってしまう俺がいる。
我ながら大したもんだ。
……自分で褒めても仕方ないな。余談は終わりだ。
それでは、彼女の依頼を詳しく聞くとしよう。
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みつき「桜沢空央という人物を調べて下さい!」
篠原「桜沢空央?その方はあなたとどういうご関係ですか?」
みつき「全く知りません。」
篠原「知らない……ですか。まあいいでしょう。
その方の写真を見せていただけますか?」
みつき「はい!これです!」
篠原「若くて、お綺麗な方ですね……」
みつき「ある会社から出てきたところを撮影しました。ツインライトプロダクションです」
篠原「ツインライトプロダクション……
なるほど。
つまり、この女性とは面識はない。
この写真は隠し撮り。
……訳あり、ということですね?」
みつき「そうです!だから優秀なこの事務所に来ました。」
篠原「厄介事なら、プラス10万いただきます。」
みつき「そ、そんな!」
篠原「嫌なら……他をあたって下さい。
こちらも裏表の世界、命を張ることもある仕事なんです。
他の探偵事務所と同じにしてもらっては困る。
その代わり——」
みつき「その代わり?」
篠原「100%の情報を提供します。」
みつき「ひゃ、100%……?ずいぶん自信があるんですね。」
篠原「もちろん。だからあなたは、ここに来たんでしょう?」
みつき「……その通りです。わかりました。よろしくお願いします。」
篠原「対象の名前と所属が分かっているなら十分です。お任せ下さい。」
みつき「噂通りの探偵さんで安心しました。」
篠原「仕事ですから。それで?調べる内容は?」
みつき「桜沢空央の今後の動きと、過去の経歴です。」
篠原「ほう……あなた、なかなかのくせ者ですね。面白い。」
みつき「面白い?どういう意味ですか?」
篠原「失礼。依頼人から“過去の経歴”という言葉が出るとは思わなかったもので。」
みつき「そんな、大したことじゃありません。ただの個人情報の収集です。」
篠原「収集、ねぇ……。
これでも一応、探偵なんですよ。ピンと来るものがあるんです。」
みつき「探偵の……勘、ですか?」
篠原「ええ、まあ。
ですが依頼の背景を詮索するつもりはありません。
明日の昼までには調べておきます。ご安心を。」
みつき「え?そんなに早く分かるんですか?」
篠原「当然です。明日の正午にまたお越し下さい。」
みつき「ありがとうございます。では依頼料の前金です。残りは明日正午にお持ちします。」
篠原「大金……ですね。それほどの価値がある案件、ということか。
……ああ、失礼。依頼人に言うことではなかったですね。」
みつき「では、明日またお邪魔します。」
篠原「はい、お待ちしております。」
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桜沢空央……
ツインライトプロダクション、か。
相変わらず、俺の情報網も大したもんだな。
人事部の池谷さんなら、何か知っているかもしれない。
一本、電話を入れてみるか。




