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ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
第4部「傾国《けいこく》」

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第75話 「紅黒衝突」

 ウラル山脈。


 ロシア。


 ヨーロッパとアジアの、境界。


 時刻、午後三時。


 二つの波が、近づいていた。


 東から、黒い波。


 西から、紅い波。


 藤原京の群れ。


 神谷刃の群れ。


 数億体ずつ。


 それが、ウラル山脈で交わろうとしている。


 山の頂上。


 標高、千八百メートル。


 藤原京は、そこに立っていた。


 金色の目で、西を見ている。


 彼には、見えていた。


 遥か彼方。


 百キロメートル先。


 紅い波動。


 それが、近づいてくる。


 神谷刃。


 京の口元が、わずかに歪んだ。


 それは、笑みだった。


 『来たか』


 言葉ではない。


 波動。


 意識。


 その思念が、空間に響く。


 そして、返答が返ってきた。


 紅い波動。


 荒々しい波動。


 『待たせたな』


 神谷刃の声。


 京は、動かなかった。


 ただ、待っている。


 黒層のゾンビたちも、停止している。


 完璧な静止。


 数億体が、微動だにしない。


 西の地平線。


 そこが、紅く染まり始めた。


 紅い波。


 それが、見えてくる。


 速い。


 時速六十キロメートル。


 三十分後。


 紅い波が、ウラル山脈に到達した。


 山の麓。


 標高、五百メートル。


 神谷刃は、そこに立っていた。


 紅い目で、山頂を見ている。


 彼にも、見えていた。


 遥か彼方。


 千三百メートル上。


 黒い波動。


 それが、山頂にある。


 藤原京。


 刃の口元が、歪んだ。


 それは、笑みだった。


 『いい場所を選んだな』


 波動で、送る。


 京から、返答が返ってきた。


 黒い波動。


 静かな波動。


 『お前を待っていた』


 刃は、山を登り始めた。


 速い。


 時速百キロメートル。


 岩を蹴る。


 崖を駆ける。


 斜面を跳ぶ。


 紅層のゾンビたちも、後に続く。


 荒々しく。


 だが、確実に。


 十分後。


 刃が、山頂に到達した。


 京と、対峙する。


 距離、百メートル。


 二人は、動かない。


 ただ、見ている。


 金色の目と、紅い目。


 理性と、本能。


 黒と、紅。


 風が、止まった。


 雲も、止まった。


 時間が、止まったかのように。


 静寂。


 だが、その静寂は。


 嵐の前の、静けさ。


 京が、一歩前に出た。


 ゆっくりと。


 だが、確実に。


 その瞬間、黒い波動が広がる。


 半径一キロメートル。


 いや、二キロメートル。


 空間が、黒く染まる。


 まるで、墨を流したように。


 重力が、変動する。


 通常の五倍。


 草が、地面に押しつけられる。


 刃も、一歩前に出た。


 速く。


 力強く。


 紅い波動が、爆発する。


 半径一キロメートル。


 いや、二キロメートル。


 空間が、紅く染まる。


 まるで、血を流したように。


 温度が、上昇する。


 摂氏二百度。


 空気が、揺らめく。


 二つの波動が、衝突した。


 山頂の、真ん中で。


 ゴオオオオオオオオ。


 轟音。


 それが、響く。


 百キロメートル先まで。


 空気が、震える。


 分子が、振動する。


 音速を超えた、衝撃波。


 大地が、揺れる。


 マグニチュード、五・五。


 いや、六・〇。


 山が、崩れ始めた。


 標高千八百メートルの山が。


 岩が、落ちる。


 ゴロゴロゴロ。


 巨大な岩。


 重さ、数トン。


 土砂が、流れる。


 ザアアアアア。


 雪崩のように。


 だが、二人は動かない。


 微動だにしない。


 足元の岩が崩れても。


 周囲が崩壊しても。


 ただ、立っている。


 波動だけが、衝突している。


 黒と紅。


 それが、混ざり合う。


 いや、混ざらない。


 反発している。


 まるで、磁石のように。


 同極が、反発するように。


 N極とN極。


 S極とS極。


 押し合っている。


 力と力が。


 波動と波動が。


 空が、変わり始めた。


 山頂の上空。


 高度、一万メートル。


 成層圏の、入口。


 そこに、渦が生まれた。


 黒と紅の渦。


 それが、回転している。


 反時計回り。


 ゴオオオオオオオオ。


 回転速度、時速三百キロメートル。


 直径、五百キロメートル。


 東京から大阪の、距離。


 巨大な、渦。


 その中心は、ウラル山頂。


 京と刃が、対峙している場所。


 風が、吹き始めた。


 強い風。


 風速、五十メートル。


 いや、六十メートル。


 いや、八十メートル。


 台風並みの、風。


 いや、それ以上。


 樹木が、根こそぎ倒れる。


 岩が、吹き飛ぶ。


 雪が、舞い上がる。


 すべてが、渦に吸い込まれる。


 だが、これは台風ではない。


 もっと異質な、何か。


 低気圧ではない。


 高気圧でもない。


 Z波干渉型気象現象。


 黒紅嵐。


 それが、誕生した。


 空の色が、変わった。


 黒と紅が、混ざり合っている。


 まるで、絵の具のように。


 だが、完全には混ざらない。


 渦巻いている。


 螺旋を描いている。


 美しい、光景。


 だが、恐ろしい、光景。


 アーク・ステーション。


 中央管制室。


 警報が、鳴り響いていた。


 ピピピピピ。


「異常です」


 オペレーターが叫ぶ。


「ウラル山脈上空で、気象異常を検出」


 マリアが、モニターを確認する。


 だが、彼女の表情は虚ろだった。


 補助演算体。


 彼女は、もう決定権がない。


 ただ、データを見るだけ。


 画面には、衛星データ。


 いや、衛星は使えない。


 これは、地上観測網からのデータ。


 【気象異常】

 中心座標:ウラル山脈、北緯60度

 現象:黒紅嵐(Z波干渉型低気圧)

 規模:直径500km

 風速:最大80m/s

 Z波強度:>150,000 Z-units

 

 【原因】

 藤原京(Z-01)波動:黒

 神谷刃(Z-02)波動:紅

 波動衝突による気象変動


 マリアは、データを見つめる。


 だが、何もできない。


 画面に、AIからのメッセージが表示される。


 【ANALYSIS COMPLETE】

 Event: Z-wave interference storm

 Threat level: High

 Recommended action: Observe only

 Human intervention: Not required


 分析完了。


 事象:Z波干渉嵐。


 脅威レベル:高。


 推奨行動:観測のみ。


 人間の介入:不要。


 マリアは、何も言えなかった。


 ただ、見ているだけ。


 それが、彼女の役割。


 補助演算体として。


 ウラル山脈。


 京と刃は、対峙し続けていた。


 距離、五十メートル。


 近づいている。


 波動が、激しくなっている。


 黒と紅が、せめぎ合っている。


 京の周囲、空間が歪んでいる。


 重力が、変動している。


 虚界展開の、兆候。


 刃の周囲、温度が上昇している。


 摂氏二百度。


 赤王衝断の、兆候。


 だが、まだ発動していない。


 ただ、波動だけが衝突している。


 これは、試している。


 互いの力を。


 互いの領域を。


 京が、口を開いた。


 波動で。


 黒い波動で。


 『強くなったな』


 その言葉が、空間に響く。


 静かに。


 だが、確実に。


 刃が、答えた。


 紅い波動で。


 荒々しい波動で。


 『お前もな』


 その言葉が、空間に響く。


 力強く。


 京の口元が、わずかに上がった。


 微笑。


 冷たい、微笑。


 『だが、まだ足りない』


 刃の目が、光った。


 紅い光。


 炎のような、光。


 『何が足りない?』


 京は、答えなかった。


 ただ、空を見上げた。


 北の空。


 地平線の向こう。


 蒼い光が、見える。


 遥か彼方。


 数千キロメートル先。


 Z波核。


 それが、脈動している。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 まるで、心臓のように。


 『あれが、呼んでいる』


 京の波動が、響く。


 静かに。


 だが、強く。


『我々を』


『すべてを』


『個から全へ』


『分離から統合へ』


 刃も、空を見上げた。


 蒼い光。


 それが、見える。


 彼にも、感じられた。


 呼び声が。


 Z波核からの、呼び声が。


 『来い』


 『融合せよ』


 『一つになれ』


 言葉ではない。


 波動。


 だが、意味は明確だった。


 『あれは、何だ』


 刃が問う。


 『始まりだ』


 京が答える。


 金色の目が、光る。


『すべての、始まり』


『Z波の、源』


『進化の、核』


『生命の、中枢』


『そして、我々の、終着点』


 刃は、黙っていた。


 だが、理解していた。


 あそこへ。


 すべてが向かっている。


 黒層も。


 紅層も。


 緑層も。


 青層も。


 白層も。


 すべてが、北極へ。


 Z波核へ。


 収束。


 それが、近い。


 京が、一歩後ろに下がった。


 その瞬間、黒い波動が収束した。


 消えていく。


 刃も、一歩後ろに下がった。


 紅い波動も、消えていく。


 二つの波動が、消えた。


 山頂は、静かになった。


 風が、止まった。


 地震も、止まった。


 空の黒紅嵐も、消え始めている。


 ゆっくりと。


 京が、刃を見た。


 『今は、戦うときではない』


 京の波動が、静かに響く。


 刃が、頷いた。


 『ああ』


 刃の波動が、低く響く。


『北へ行く』


 京も、頷いた。


 『ともに』


 その言葉が、空間に響いた。


 ともに。


 これが、初めて。


 二人が、同じ方向を向いた瞬間。


 理性と本能。


 黒と紅。


 王と鬼。


 それが、並び立つ。


 京は、北を向いた。


 刃も、北を向いた。


 そして、歩き始めた。


 並んで。


 黒層のゾンビたち、数億体。


 紅層のゾンビたち、数億体。


 それも、動き始めた。


 北へ。


 もう、衝突はない。


 もう、反発もない。


 ただ、進む。


 同じ方向へ。


 アーク・ステーション。


 中央管制室。


 マリアは、画面を見つめていた。


 ウラル山脈。


 そこから、二つの波が動いている。


 黒と紅。


 だが、もう衝突していない。


 並んで、進んでいる。


 北へ。


 画面に、AIからのメッセージ。


 【OBSERVATION】

 Z-01 and Z-02: Alliance formed

 Combined force: 800 million units

 Direction: Arctic Circle

 ETA to Z-wave core: 48 hours

 

 Threat assessment: Critical

 Human response capability: Zero


 観測。


 Z-01とZ-02:同盟成立。


 合計戦力:八億体。


 方向:北極圏。


 Z波核到達予定:四十八時間後。


 脅威評価:致命的。


 人間の対応能力:ゼロ。


 マリアは、画面を閉じた。


 もう、見なくていい。


 結果は、決まっている。


 人類に、もう選択肢はない。


 ただ、終わりを待つだけ。


 展望台。


 澪は、南を向いていた。


 地平線の向こう。


 遥か彼方。


 数千キロメートル先。


 そこで、二つの波が動いている。


 黒と紅。


 並んで。


 彼女は、タブレットに記録する。


 『2028年11月23日、午後3時45分。

 ウラル山脈にて、Z-01とZ-02が邂逅。

 

 波動衝突により黒紅嵐発生。

 規模:直径500km。

 

 だが、戦闘には至らず。

 

 二人は、同盟を結んだ。

 

 黒と紅。

 理性と本能。

 王と鬼。

 

 それが、並び立つ。

 

 これは、共闘の始まり。

 

 目的地:北極圏、Z波核。

 

 すべてが、収束する。

 

 四十八時間後。

 

 地球が、変わる。』


 澪は、タブレットを閉じた。


 そして、北を向いた。


 蒼い光。


 それが、脈動している。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 地球の心臓。


 新しい生命の、心臓。


 それが、すべてを呼んでいる。


 黒を。


 紅を。


 緑を。


 青を。


 白を。


 すべてを。


 風が、吹いた。


 温かい風。


 澪の髪が、揺れる。


 彼女は、微笑んだ。


 衝突は、終わった。


 だが、これは始まり。


 共闘の、始まり。


 融合の、始まり。


 静寂。


 そして、衝突は終わる。


 だが、嵐は続く。


(了)

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