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ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
第4部「傾国《けいこく》」

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第67話 「灰の進軍」

 大地が、動いている。


 アジア大陸。


 北緯三十度から五十度。


 東経七十度から百四十度。


 面積、四千万平方キロメートル。


 そのすべてが、動いていた。


 黒い波。


 それが、大地を覆っている。


 まるで、生き物のように。


 これは、群れ。


 数億体のゾンビが、北へ向かっている。


 統率された、行軍。


 整然とした、隊列。


 無言の、進撃。


 その先頭に、一つの存在。


 藤原京。


 金色の眼。


 黒い波動。


 理性の王。


 彼は、歩いていた。


 ゆっくりと。


 だが、確実に。


 一歩ごとに、波動が広がる。


 黒い波。


 それが、地面に染み込んでいく。


 半径百メートル。


 大地が、黒く染まる。


 彼の後ろには、無数のゾンビ。


 数千万体。


 いや、数億体。


 すべてが、京の意識と繋がっている。


 完璧な統制。


 完璧な秩序。


 完璧な静寂。


 足音すら、聞こえない。


 数千万の足音が、一つに同期している。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 まるで、一つの生き物のように。


 隊列は、整然としていた。


 縦百列、横一万列。


 間隔、正確に二メートル。


 完璧な幾何学模様。


 これは、軍隊ではない。


 もっと高度な、何か。


 一つの生命体。


 数億の細胞を持つ、巨大な生命体。


 京は、空を見上げた。


 青い空。


 白い雲。


 鳥が、飛んでいる。


 彼には、見えていた。


 地球全体の、波動。


 黒。


 紅。


 緑。


 青。


 白。


 それらが、絡み合っている。


 まるで、神経網のように。


 地球そのものが、巨大な脳になりつつある。


 そして、もう一つ。


 西の方角から、強烈な波動が伝わってくる。


 紅。


 神谷刃。


 京の口元が、わずかに歪んだ。


 それは、笑みだった。


 『順調だな』


 言葉ではない。


 意識。


 波動に乗せた、思念。


 それが、群れ全体に伝わる。


 光速で。


 一瞬で、数億体に到達する。


 数千万体のゾンビが、一斉に反応する。


 完璧な同期。


 誤差、ゼロ。


 これが、群体知性。


 個々の意識を保ちながら、統合された意識。


 京は、前を向いた。


 そして、歩き続ける。


 目的地は、モスクワ。


 北緯五十五度、東経三十七度。


 距離、四千キロメートル。


 移動速度、時速四十キロメートル。


 到達予定時刻、四日後、午前零時。


 アーク・ステーション。


 中央管制室。


 マリアが、モニターを凝視している。


 画面には、衛星からの映像。


 アジア大陸全体が、黒く染まっていた。


「信じられません……」


 マリアの声が震える。


「アジア全域が、完全に制圧されています」


 画面に、データが表示される。


 【黒層(京群)】

 規模:推定三億体

 範囲:東アジア~中央アジア

 移動速度:時速40km

 統制度:99.8%

 目的地:モスクワ


 クラウスが、椅子に深く座り込んでいる。


 彼の目には、疲労が浮かんでいた。


「三億……」


 彼の声が、かすれる。


「三億体が、一つの意志で動いている」


「群体知性です」


 澪が答える。


 彼女は、マリアの隣に立っている。


「個々の意識は残っていますが、統合されています」


「まるで、蟻のコロニーのように」


「蟻……」


 クラウスが呟く。


「我々は、蟻に負けたのか」


「いいえ」


 澪が首を横に振る。


「彼らは、蟻よりも高度です」


「個々が知性を持ち、かつ統合されている」


「これは、地球史上初めての現象です」


 画面が切り替わる。


 今度は、欧州大陸。


 そこも、紅く染まっていた。


「紅層……」


 マリアが呟く。


 画面に、データが表示される。


 【紅層(刃群)】

 規模:推定二億体

 範囲:欧州全域

 移動速度:時速60km

 統制度:87.3%

 目的地:モスクワ


 澪が、データを確認する。


「統制度が低い……」


 彼女の声が、低くなる。


「刃の群れは、京ほど統制されていません」


「それは、弱点か?」


 クラウスが問う。


「いいえ」


 澪が答える。


「逆です」


「統制が低いということは、個々の自律性が高い」


「予測不可能で、対処困難です」


 画面の中で、紅い波が動いている。


 荒々しい。


 統制されていない。


 だが、強烈。


 欧州。


 かつてパリだった場所。


 神谷刃が、走っていた。


 速い。


 時速百キロメートル。


 人間の限界を、遥かに超えている。


 いや、人間ではない。


 もう、何か別のもの。


 彼の周囲、半径一キロメートル。


 すべてが、紅い波動に包まれている。


 温度が、上昇している。


 現在、摂氏五十度。


 空気が、揺らめいている。


 陽炎のように。


 刃の後ろには、無数のゾンビ。


 数千万体。


 いや、数億体。


 すべてが、刃の本能と繋がっている。


 だが、京の群れとは違う。


 整然としていない。


 荒々しい。


 暴力的。


 隊列は、乱れている。


 ある者は走り、ある者は跳躍する。


 間隔も、バラバラ。


 だが、全体として、前進している。


 まるで、奔流のように。


 制御されない、暴力の奔流。


 足音が、轟く。


 ドドドドドド。


 大地が、震える。


 マグニチュード換算で、三・五。


 刃は、咆哮した。


 ガアアアアアアアアア。


 その意味は、明確だった。


 『来るぞ』


 周囲のゾンビたちが、一斉に咆哮する。


 数千万の声。


 それが、欧州全体を震わせる。


 音圧、百二十デシベル。


 ジェット機の離陸音に匹敵する。


 だが、これは混沌ではない。


 統制されていないが、統合されている。


 個々が自律しながら、全体が一つ。


 これが、紅層の特徴。


 理性ではなく、本能で統合された群れ。


 刃は、前を向いた。


 紅い眼が、光る。


 彼には、見えていた。


 東の方角から、強烈な波動が伝わってくる。


 黒。


 藤原京。


 刃の口が、開いた。


 牙が、見える。


 鋭利な、牙。


 『待っていろ』


 彼は、さらに速度を上げた。


 時速百二十キロメートル。


 いや、百五十キロメートル。


 新幹線並みの速度。


 目的地は、モスクワ。


 北緯五十五度、東経三十七度。


 距離、二千五百キロメートル。


 移動速度、時速六十キロメートル(平均)。


 到達予定時刻、二日後、午前零時。


 京より、二日早い。


 アーク・ステーション。


 中央管制室。


 マリアが、計算していた。


「黒層の到達は、四日後」


 彼女の声が震える。


「紅層の到達は、二日後」


「モスクワで、衝突します」


 クラウスが、顔を上げた。


「衝突……」


 彼の声が、低くなる。


「何が起きる」


「分かりません」


 澪が答える。


「二つの頂点が出会う」


「理性と本能が」


「黒と紅が」


 マリアが、別のデータを表示する。


「それだけではありません」


 彼女の声が震える。


「見てください」


 画面に、地球全体の波動マップが表示される。


 黒。


 紅。


 緑。


 青。


 白。


 五つの色が、地球を覆っている。


「緑層……南米」


 マリアが指でなぞる。


「青層……アフリカ」


「白層……オセアニア」


「すべてが、動いています」


 澪が続ける。


「地球全域で、群体知性が再構築されています」


 画面の中で、五つの色が脈動している。


 それは、まるで心臓のように。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 地球そのものが、生きている。


 クラウスが、立ち上がった。


「我々は……何を見ているんだ」


「進化です」


 澪が答える。


 彼女の声は、静かだった。


「新しい種族の、誕生です」


 画面に、新しいデータが表示される。


 【群体知性統合度】

 黒層(京):99.8%

 紅層(刃):87.3%

 緑層:76.5%

 青層:68.2%

 白層:59.7%


 【予測】

 統合完了予定:72時間以内

 地球全体が、一つの意識体に


 マリアが、椅子に座り込んだ。


「一つの意識……」


 彼女の声が震える。


「地球そのものが、生命体になるんですか」


「その通りです」


 澪が頷く。


「Z波は、統合を目指しています」


「個から全体へ」


「分離から融合へ」


 クラウスは、何も言えなかった。


 画面の中で、黒と紅の波が動き続ける。


 それは、まるで血液のように。


 地球の血管を、流れている。


 アジア。


 京の群れが、カザフスタンに到達していた。


 荒野。


 かつて草原だった場所。


 ステップ気候。


 年間降水量、三百ミリメートル。


 今は、灰色の大地。


 京は、立ち止まった。


 周囲のゾンビたちも、一斉に停止する。


 完璧な同期。


 誤差、〇・〇一秒。


 京は、地面に手を置いた。


 ゆっくりと。


 まるで、祈るように。


 その瞬間、黒い波動が地面に染み込む。


 広がっていく。


 半径十キロメートル。


 面積、三百十四平方キロメートル。


 大地が、変わる。


 灰色だった土が、黒く染まる。


 まるで、墨を流したように。


 そして、草が生える。


 黒い草。


 高さ、一メートル。


 成長速度、毎秒一センチメートル。


 一分後。


 草原が、広がっていた。


 黒い草原。


 これは、再生。


 Z波による、生態系の再構築。


 だが、人類が知る生態系ではない。


 新しい生態系。


 黒の世界。


 京は、立ち上がった。


 そして、再び歩き始める。


 彼の後ろでは、黒い草原が広がり続けていた。


 風が吹く。


 黒い草が、揺れる。


 サワサワサワ。


 美しい、光景。


 だが、人間のものではない。


 欧州。


 刃の群れが、ポーランドに到達していた。


 森。


 かつて緑だった場所。


 温帯混交林。


 樫、楓、松。


 今は、焼け跡。


 炭化した樹木が、立ち並んでいる。


 刃は、立ち止まった。


 周囲のゾンビたちも、停止する。


 だが、京の群れほど整然としていない。


 ざわざわと、動いている。


 刃は、咆哮した。


 ガアアアアアアアアア。


 その瞬間、紅い波動が爆発する。


 半径十キロメートル。


 面積、三百十四平方キロメートル。


 温度が、急上昇する。


 摂氏百度。


 空気が、歪む。


 だが、焼け跡から、新しい芽が出た。


 紅い芽。


 小さな、芽。


 それが、急速に成長する。


 一秒、一センチメートル。


 十秒、十センチメートル。


 一分、六十センチメートル。


 紅い樹木。


 紅い草。


 紅い蔦。


 すべてが、紅く染まる。


 紅の世界。


 これも、再生。


 刃による、生態系の再構築。


 だが、黒の世界とは違う。


 より荒々しく。


 より生命力に溢れている。


 樹木の高さ、十メートル。


 幹の太さ、直径一メートル。


 成長速度、毎分一メートル。


 十分後。


 森が、広がっていた。


 紅い森。


 刃は、再び走り始めた。


 彼の後ろでは、紅い森が広がり続けていた。


 風が吹く。


 紅い葉が、揺れる。


 ザワザワザワ。


 熱い、風。


 摂氏四十度の風。


 これが、紅の世界。


 アーク・ステーション。


 中央管制室。


 マリアが、映像を見つめている。


「信じられません……」


 彼女の声が震える。


「彼らは、地球を作り変えています」


「その通りです」


 澪が頷く。


「黒の世界」


「紅の世界」


「緑の世界」


「青の世界」


「白の世界」


「五つの世界が、地球に生まれています」


 クラウスが、窓の外を見た。


 北極の空。


 星が、瞬いている。


「我々の地球は……もう存在しないのか」


「はい」


 澪が答える。


 彼女の声は、静かだった。


「人類の地球は、終わりました」


「新しい地球が、始まっています」


 画面の中で、黒と紅の波が進み続ける。


 灰色の大地を。


 焼け跡を。


 廃墟を。


 すべてを覆いながら。


 すべてを変えながら。


 黒は、静かに大地を染める。


 紅は、激しく世界を焼く。


 だが、どちらも同じ。


 破壊ではなく、再生。


 終わりではなく、始まり。


 進軍は、止まらない。


 モスクワまで、あと二日。


 正確には、四十八時間。


 二千八百八十分。


 十七万二千八百秒。


 そこで、二つの頂点が出会う。


 黒と紅が。


 理性と本能が。


 王と鬼が。


 そして、世界が変わる。


 地球は、もう人類のものではない。


 新しい種族の、惑星。


 五つの色が、地球を覆う。


 黒、紅、緑、青、白。


 それぞれが、独自の生態系を築く。


 それぞれが、独自の文明を作る。


 だが、すべては一つ。


 Z波で繋がった、一つの生命体。


 地球という名の、巨大な意識体。


 静寂。


 大地は、動き続ける。


 そして、カウントダウンが始まる。


 四十八時間。


 四十七時間五十九分。


 四十七時間五十八分。


 モスクワで、何が起きるのか。


 誰も、知らない。


 ただ、確実なのは。


 世界が、変わるということ。


(了)

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