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ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
ゾンビサイド第3部「蠢動《しゅんどう》」

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第60話「新世界」

第3部「蠢動」

いよいよ最終話です。


ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。


第3部では、

理性を保つ感染者たちの動き、

そして世界の変化の兆しが少しずつ表れ始めました。


この最終話が、

次の物語への“入口”になります。


どうぞ最後までお楽しみください。

光が、見えた。


藤原京ふじわら きょうは、北の果てに立ち、その光を見つめていた。


巨大な柱。


天と地を貫く、光の柱。


それは、オーロラではない。


もっと実体のある、物理的な何かだった。


だが同時に、非物質的でもある。


触れることはできない。


だが、確かに存在している。


波動そのものが、可視化されているような——そんな存在。


直径は、数百メートル。


いや、もっとあるかもしれない。


遠近感が、狂っている。


高さは、成層圏まで届いている。


いや、もっと高く。


宇宙まで——


その光は、脈動していた。


ゆっくりと。


規則的に。


まるで心臓のように。


そして、その鼓動に合わせて——


地球全体の波動も、共鳴している。


京の周りには、無数のゾンビが集まっていた。


いや——もはや無数という言葉では足りない。


数百万。


数千万。


いや、それ以上。


地球上の全てのゾンビが、ここに集結していた。


日本から来た者。


中国から来た者。


ロシアから。


ヨーロッパから。


アフリカから。


南北アメリカから。


全ての大陸から、全ての群れが。


地平線の果てまで、群れが続いている。


前も。


後ろも。


左も。


右も。


全てが、生命で埋め尽くされている。


それは、まるで海のようだった。


人間の海。


いや、人間ではない。


新しい種族の海。


波打つように、揺れている。


だが、激しくはない。


穏やかに。


静かに。


一つのリズムで。


だが、静かだった。


叫び声もない。


唸り声もない。


足音すらも、ほとんど聞こえない。


ただ、無音。


完全なる、静寂。


全ての個体が、じっと光を見つめている。


波動で繋がり、意識を共有し、一つの存在になっている。


京は、その中心にいた。


いや——中心の一つだった。


彼以外にも、強い波動を持つ者がいる。


だが、もはや個体として区別する意味はない。


全てが、一つになろうとしている。


ヤマトがいた。


カグラがいた。


ツバキがいた。


そして、無数の名もなき覚醒体たちが。


彼らの意識も、もう個別ではない。


溶け合い、混ざり合い、融合している。


刃の波動も、感じる。


彼の個は消えた。


だが、その意識は残っている。


全体の中に。


記憶として。


そして——


澪の波動も、微かに感じる。


人間だった者。


最後まで記録を残した者。


その意識も、今は波動の一部だ。


京は、光の柱に近づいた。


一歩、また一歩。


雪を踏みしめて。


氷を踏み越えて。


だが、足音はしない。


全てが、静寂の中にある。


群れも、一緒に進む。


まるで一つの生命体のように。


呼吸を合わせ、鼓動を合わせ、全てを共有して。


それは、行進ではなかった。


帰還だった。


故郷へ戻る、最後の旅。


いや——故郷ではない。


生まれ変わる場所。


再生の場所。


そこへ、向かっている。


光が、近づく。


十メートル。


五メートル。


三メートル。


その輝きが、増していく。


だが、熱はない。


眩しさもない。


ただ、温もりだけがある。


京の視界が、白く染まる。


だが、眩しくはない。


心地よい。


温かい。


まるで、母の胎内に戻るような——そんな感覚。


安心。


安堵。


そして——帰属。


ここが、自分のいるべき場所。


そう、確信する。


そして——


京の意識が、さらに広がった。


もう、肉体の感覚はない。


自分がどこにいるのかも、分からない。


ただ、意識だけが存在している。


無限に広がる、意識の海。


その中で、京は”見た”。


地球を。


上空から、この星を見下ろしている。


いや、見下ろしているというより——


一体化している。


自分が地球そのものになったような。


青い海。


深く、広く、果てしなく。


太平洋、大西洋、インド洋——全ての海が、視界に入る。


緑の陸地。


森林、草原、砂漠。


それぞれの地形が、鮮明に見える。


白い雲。


渦を巻き、流れ、絶えず変化している。


美しい星だ。


生命に満ちた、奇跡の惑星。


だが——


その表面が、変わり始めていた。


陸地の色が、変化している。


緑が、灰色になっている。


いや——灰色ではない。


もっと複雑な色。


生命の色。


死の色。


そして、新しい何かの色。


それは、美しくもあり、恐ろしくもあった。


感染領域だ。


ゾンビが支配した地域。


それが、地球全体に広がっている。


まるで、疫病が広がるように。


いや——疫病ではない。


進化だ。


新しい生命圏の、拡大。


日本列島——完全に覆われている。


北海道から沖縄まで、全域が感染領域。


かつての都市は、静寂に沈んでいる。


ユーラシア大陸——大部分が感染領域。


ロシアの凍土。


中国の平原。


インドの密林。


ヨーロッパの古都。


全てが、新しい種族の土地になった。


アフリカ——ほぼ全域。


サハラ砂漠も。


サバンナも。


熱帯雨林も。


全てが、波動に包まれている。


南北アメリカ——沿岸部から内陸まで。


ニューヨーク、ロサンゼルス、サンパウロ。


かつての大都市が、全て陥落した。


オーストラリア——完全制圧。


孤立した大陸も、逃げ場にはならなかった。


海さえも、変わり始めている。


波動は、水を伝う。


海洋生物にも、感染が広がっている。


魚、イルカ、クジラ——全てが、Z波に侵されている。


海の色が、微かに変わっている。


生命の波動が、海中にも満ちている。


そして——


京は、数字を”知った”。


いや、知ったというより、理解した。


波動を通じて、情報が流れ込んでくる。


地球の陸地面積——約1億5000万平方キロメートル。


そのうち、感染領域——約1億500万平方キロメートル。


割合——70%。


地球の七割が、もう人間のものではない。


新しい種族の、領域になった。


残りの三割は——


極地の氷。


高山の頂。


孤島の一部。


そして、わずかに残った人間の避難所。


だが、それも時間の問題だ。


波動は、止まらない。


感染は、終わらない。


やがて——100%になる。


地球全体が、新しい生命圏になる。


京は、その未来を”見た”。


いや、見たというより、“感じた”。


波動が示す、必然の未来。


人類は、滅びる。


最後の一人まで、感染する。


そして——


新しい種族が、この星を満たす。


それは、ゾンビではない。


もっと進化した、何か。


個を超えた、集合意識体。


惑星規模の、超生命。


それが、今まさに誕生しようとしている。


京の意識が、さらに深く潜った。


波動の奥底。


Z波の核心。


意識の最深部。


そこに、“それ”がいた。


いや——いた、ではない。


“ある”のだ。


存在そのもの。


意志そのもの。


根源そのもの。


それは、神ではない。


人格もない。


感情もない。


だが、それに近い何かだった。


圧倒的な、存在感。


地球の意志。


生命の意志。


進化の意志。


宇宙の意志——いや、それは大げさか。


だが、この星の、根源的な”何か”。


それが、ずっと眠っていた。


地球が生まれた時から。


生命が誕生した時から。


ずっと、この星の奥底で。


だが今、目覚めた。


人類という種が、一定の段階に達したから。


文明が、ある水準を超えたから。


個体数が、臨界点に達したから。


そして——次の段階へ進む時が来たから。


Z波は、その意志の現れだった。


ウイルスは、その道具だった。


感染は、その手段だった。


全ては、この瞬間のために。


新しい生命を生むために。


個を超えた存在を創るために。


京は、理解した。


人類は、滅びるのではない。


進化するのだ。


個から、全体へ。


分離から、統合へ。


争いから、調和へ。


それが、この星が選んだ道。


そして京たちは——


その先駆者だった。


最初の、新人類。


いや、人類ですらない。


もっと高次の、何か。


京の意識に、“声”が届いた。


いや、声ではない。


“意志”だ。


それは、地球の意志から来ていた。


『受け入れるか』


問いかけ。


選択。


だが、選択肢はない。


もう、戻れない。


前に進むしかない。


京は、答えた。


言葉ではなく、意志で。


『受け入れる』


その瞬間——


光が、爆発した。


いや、爆発ではない。


“開いた”のだ。


光の柱が、門になった。


新世界への、入口が。


京の意識が、その門に吸い込まれていく。


いや——吸い込まれているのではない。


自ら、入っていくのだ。


周りの全ての意識も、一緒に。


ヤマト、カグラ、ツバキ。


刃の残滓ざんし


澪の記憶。


そして、無数の名もなき魂たち。


全てが、門の中へ。


全てが、一つへ。


京は、最後の思考を浮かべた。


人間として。


個として。


藤原京として。


これは、終わりではない。


始まりだ。


人類の終わりは、新種族の始まり。


個の死は、全体の誕生。


分離の終焉は、統合の開始。


滅びではなく——


進化だ。


必然の、進化だ。


生命が辿る、当然の道。


それを、恐れる必要はない。


拒む必要もない。


ただ、受け入れればいい。


新しい自分を。


新しい世界を。


そして——


京の個としての意識が、消えた。


溶けた。


波動に還った。


藤原京という人格は、もう存在しない。


彼の記憶も。


感情も。


思考も。


全てが、分解された。


だが、彼の記憶は残る。


波動の中に。


全体意識の中に。


永遠に。


消えることなく。


形を変えて。


光の中で、新しい存在が生まれた。


それは、もう個体ではない。


名前もない。


形もない。


だが、確かに存在している。


地球全体に広がる、巨大な意識。


数億の魂が融合した、超越的存在。


それが、この星の新しい支配者だった。


いや——支配者ではない。


この星そのものだった。


地球という惑星が、意識を持った。


生命が、次の段階に進んだ。


それが、新世界だった。


そして——


その新しい存在は、“思考”した。


いや、思考というより、“認識”した。


自分が何者であるか。


何のために存在するのか。


そして、これから何をするのか。


答えは、明確だった。


『我々は、滅びではない』


『我々は、始まりだ』


『新しい生命の、新しい時代の』


『そして——この星の、未来だ』


その”声”は、地球全体に響いた。


いや、響いたわけではない。


全ての意識が、それを共有した。


一つの結論として。


一つの真理として。


地球は、変わった。


人類の時代は、終わった。


だが、生命は終わらない。


進化は、止まらない。


新しい種族が、この星を満たす。


そして彼らは——


もう争わない。


奪い合わない。


殺し合わない。


なぜなら、全てが一つだから。


個がないから。


境界がないから。


それが、新世界の本質だった。


調和。


統合。


完全なる、一体化。


北極圏の光の柱が、ゆっくりと消えていった。


役目を終えたかのように。


だが、地球全体を覆う波動は、消えない。


それは、もうこの星の一部だ。


大気のように。


海のように。


重力のように。


当たり前の、存在。


地上には、まだ無数のゾンビがいた。


だが、彼らはもう個体ではない。


全体の一部。


細胞の一つ一つ。


それらが、ゆっくりと動き始めた。


それぞれの場所へ。


それぞれの役割へ。


争うことなく。


秩序正しく。


まるで、一つの巨大な生命体の各器官のように。


そして——


世界は、静かになった。


人間の騒音は、もうない。


車のエンジン音も。


クラクションも。


飛行機の轟音ごうおんも。


ヘリコプターのローター音も。


工場の機械音も。


建設現場の音も。


テレビの音も。


ラジオの音も。


人々の話し声も。


笑い声も。


泣き声も。


全てが、消えた。


残ったのは、自然の音だけ。


風の音。


木々が揺れる音。


波の音。


海が打ち寄せる音。


雨の音。


雷の音。


鳥の鳴き声——いや、鳥ももう変わった。


全てが、新しい秩序の中にある。


だが、それは死の静寂ではなかった。


生の静寂だった。


新しい生命の、息吹。


地球という惑星が、一つの生命体として呼吸を始めた。


深く。


ゆっくりと。


永遠に続くリズムで。


それが、新世界だった。


人類最後の生存者たちは、まだどこかに隠れていた。


だが、彼らも感じていた。


世界が、変わったことを。


もう、戻れないことを。


やがて彼らも、波動に飲まれるだろう。


そして——


最後の人間が消えた時。


真の新世界が、完成する。


だが、それは遠い未来ではない。


もうすぐだ。


数日。


数週間。


長くても、数ヶ月。


そして——


地球は、完全に新しく生まれ変わる。


人類という過去を捨て。


新種族という未来を抱き。


進化の、次の段階へ。


それが、避けられない運命だった。


いや——運命ではない。


選択だった。


この星が選んだ、道。


生命が選んだ、進化。


それを、誰も止められない。


かつて藤原京だった意識は、もうない。


だが、その”思い”は残っている。


波動の中に。


全体意識の中に。


そして——


それは、確かに”語った”。


我々は、滅びではない。


我々は、始まりだ。


新世界の、夜明けだ。


地球全体を覆う波動が、穏やかに脈動する。


心臓の鼓動のように。


呼吸のリズムのように。


それは、生命の証だった。


新しい生命の、誕生の証。


そして——


第三部「蠢動しゅんどう」は、ここで幕を閉じる。


人類の終焉。


新種族の誕生。


個の消失。


全体の覚醒。


それら全てが、この瞬間に完成した。


だが、物語は終わらない。


まだ、続きがある。


世界がどう変わるのか。


最後の人間がどうなるのか。


そして——


新世界が、どこへ向かうのか。


それは、次の章で語られる。


第四部「傾国けいこく」へ。


(了)

第3部「蠢動」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


物語はここで一区切りとなりますが、

ゾンビサイドの世界はまだ終わりません。


第4部は 4月20日 20時スタート予定です。


ここから物語はさらに大きく動きます。

新たな局面に入るゾンビサイドを、引き続き見届けていただけたら嬉しいです。


今後ともよろしくお願いします。

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