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ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
ゾンビサイド第3部「蠢動《しゅんどう》」

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第45話「血の秩序」

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。

群馬。


前橋市郊外。


広大な平野。


かつては田畑が広がっていた場所。


今は、荒れ地。


雑草が生い茂り、木々が無秩序に育っている。


だが、その一角に――


秩序が生まれようとしていた。



数万のゾンビが、整列している。


完璧ではない。


だが、明らかに意図的な配置。


前列。


中列。


後列。


それぞれが、役割を持っている。


そして、その中央に。


三人の覚醒体が、立っていた。


藤原京。


神谷刃。


ヤマト。


三人の王が、群れを見下ろしている。



ヤマトが、口を開く。


「まず、選別する」


低く、明確な声。


「強い個体と、弱い個体を」


京が、頷く。


「基準は?」


「戦闘能力だ」


ヤマトが答える。


「速度、力、反応」


「それらを、見極める」


刃が、眉をひそめる。


「……どうやって」


「戦わせる」


ヤマトが、冷徹に言い切る。



ヤマトが、群れに向かって腕を振る。


無言の命令。


群れの中から、十体のゾンビが前に出る。


ランダムに選ばれた、個体たち。


男も、女も。


若い者も、老いた者も。


全て、灰色の肌。


全て、虚ろな目。


だが――


その中に、わずかな差がある。


動きの速さ。


体格の違い。


それが、運命を分ける。



ヤマトが、命じる。


「戦え」


十体が、互いを見る。


一瞬の躊躇。


だが、すぐに動き出す。


本能が、命令に従う。


ガブッ。


最初の一体が、隣の個体に噛みつく。


首筋に。


歯が、肉に食い込む。


ブチブチと、繊維が千切れる音。


血が、噴き出す。


黒い血。


もう、赤くない。


感染者の血は、変色している。


噛まれた個体が、よろめく。


だが、反撃する。


爪で、相手の顔を引っ掻く。


バリバリと、皮膚が剥がれる。


眼球が、飛び出す。


だが、止まらない。


痛みを、感じない。


他の個体も、動き出す。


老いた女性型の個体が、若い男性型に飛びかかる。


体格差など、関係ない。


本能が、全てを支配する。


殴る。


拳が、顔面に叩き込まれる。


ゴキッ。


鼻が、潰れる。


蹴る。


足が、腹部に沈む。


ドスッ。


肋骨が、折れる。


噛みつく。


腕に。


肩に。


足に。


どこでもいい。


引き裂く。


肉を。


筋肉を。


骨ごと。



京は、その光景を見ていた。


表情は、変わらない。


金色の瞳が、冷静に観察している。


だが、内心では――


(……残酷だ)


人間だった頃の感覚が、囁く。


これは、間違っている、と。


同胞を殺させている。


仲間を、選別している。


弱者を、排除している。


それは――


人間が、最も忌避したことだ。


だが――


京は、それを押し殺す。


もう、人間ではない。


新しい種族だ。


新しいルールが、必要だ。


人間のルールは、もう通用しない。


そして――


残酷さは、自然の摂理だ。


ライオンは、群れのリーダーを決めるために戦う。


狼は、弱い個体を見捨てる。


それと、同じだ。


感傷は、不要だ。


効率が、全てだ。



三分後。


一体が、完全に停止した。


頭が、潰されている。


勝者が、その上に立っている。


四分後。


二体目が、倒れる。


首が、ねじ切れている。


五分後。


十体のうち、三体が立っていた。


残りは、地面に倒れている。


動かない。


頭が、潰されている。


勝者たちは、血にまみれている。


だが、立っている。


それが、強さの証明。


ヤマトが、頷く。


「この三体を、狩猟種とする」


京が、聞く。


「狩猟種?」


「そうだ」


ヤマトが答える。


「戦闘に特化した個体」


「人間を狩る者」


「群れを守る者」



ヤマトが、続ける。


「倒れた七体は、奴隷種だった」


「弱い個体」


「戦えない個体」


「彼らの役割は、数だ」


「ただ、群れを膨らませる」


「盾になる」


「それだけだ」


刃が、口を挟む。


「……殺す必要があったのか」


ヤマトが、刃を見る。


「必要だ」


「弱い個体は、資源を消費する」


「肉を食う」


「だが、戦力にならない」


「ならば、排除する」


刃は、何も言わない。


ただ、睨んでいる。



ヤマトは、気にせず続ける。


「そして、我々は王種だ」


「最も強い個体」


「群れを統率する者」


「戦略を立てる者」


「全てを、支配する者」


ヤマトが、二人を見る。


「三つの階層」


「王種、狩猟種、奴隷種」


「これが、我々の社会だ」


京が、考え込む。


階層社会。


それは、人間も持っていた。


貴族と平民。


支配者と被支配者。


だが――


覚醒体の階層は、もっと単純だ。


もっと、残酷だ。


力だけが、全てを決める。



京が、口を開く。


「……奴隷種は、どう扱う」


「使い捨てだ」


ヤマトが即答する。


「戦闘では、最前線」


「囮にする」


「盾にする」


「死んでも、構わない」


京の目が、わずかに揺れる。


それは――


人間がやっていたことだ。


兵士を、駒のように使う。


だが、今度は自分たちが、それをする。


「狩猟種は?」


京が聞く。


「精鋭だ」


ヤマトが答える。


「大切に扱う」


「訓練する」


「強化する」


「彼らが、我々の牙だ」



刃が、突然笑った。


短く。


皮肉を込めて。


「訓練? ゾンビを?」


ヤマトが、真剣な顔で答える。


「覚醒体だ」


「そして、可能だ」


「彼らには、学習能力がある」


「わずかだが、理性がある」


「ならば、訓練できる」


刃は、信じられないという顔をしている。


だが、ヤマトは本気だ。



ヤマトが、群れに命じる。


狩猟種に選ばれた三体が、前に出る。


「お前たちは、今から訓練を受ける」


ヤマトの声が、響く。


三体は、じっと立っている。


理解しているのか。


していないのか。


わからない。


だが、従順だ。


ヤマトが、一体の前に立つ。


「攻撃しろ」


一体が、動く。


腕を振り上げる。


ヤマトに向かって。


だが――


ヤマトの方が速い。



バシッ。


ヤマトの手が、一体の腕を掴む。


鉄のような、握力。


逃げられない。


そして、捻る。


ゆっくりと。


力を込めて。


メキメキメキ……


骨が、軋む。


そして――


メキッ。


骨が折れる音。


鋭く、乾いた音。


一体が、よろめく。


バランスを、崩す。


だが、ヤマトは離さない。


逆の手で、肩を掴む。


そして、もう一度、捻る。


今度は、逆方向に。


ゴキッ。


関節が、外れる。


腕が、変な方向に曲がる。


九十度。


いや、百二十度。


人間なら、絶叫している角度。


だが、一体は声を出さない。


ただ、膝をつく。


力が、入らない。


ヤマトが、言う。


「お前は、遅い」


冷徹な声。


感情が、ない。


「攻撃の予備動作が、大きすぎる」


「腕を振り上げる前に、肩が動く」


「それが、隙だ」


「もっと速く動け」


「もっと、直接的に」


一体は、何も答えない。


理解しているのか。


していないのか。


わからない。


ただ、立ち上がろうとする。


折れた腕を、引きずりながら。



ヤマトが、手を離す。


一体は、立ち上がる。


腕は、ダラリと垂れている。


だが、気にしていない。


痛みは、感じない。


ヤマトが、命じる。


「もう一度」


一体が、動く。


今度は、少し速い。


予備動作が、小さくなっている。


学習した。


わずかだが、学習した。


だが、まだ足りない。


ヤマトの目には、遅い。


ヤマトが、また掴む。


今度は、足を。


そして、引っ張る。


グイッ。


一体が、バランスを崩す。


そして、投げる。


力を込めて。


空中に、放り出す。


ドサッ。


一体が、地面に叩きつけられる。


背中から。


全体重が、地面に叩きつけられる。


ズドン、と重い音。


土煙が、上がる。


小石が、飛び散る。


「まだ、遅い」


ヤマトの声は、冷たい。


感情が、ない。


教師ではない。


調教師だ。


獣を、仕込む者だ。


「立て。もう一度だ」


一体が、起き上がる。


ゆっくりと。


だが、確実に。


そして、また構える。


攻撃態勢。


何度でも、繰り返す。


それが、命令だから。


それが、学習だから。



京は、それを見ていた。


(……これが、訓練か)


暴力による、学習。


痛みではなく、失敗による。


何度も、何度も。


体に、叩き込む。


それは――


効率的だ。


残酷だが、効率的だ。


刃も、見ている。


その目には、興味がある。


(……面白い)


刃は、戦闘が好きだ。


強くなることが、好きだ。


ならば、この訓練も。


悪くない。



三時間後。


狩猟種の三体は、ボロボロになっていた。


一体目。


両腕が折れている。


だらりと、垂れ下がっている。


だが、足は動く。


キックの精度が、上がっている。


二体目。


左足が砕けている。


骨が、飛び出している。


だが、片足で立っている。


バランス感覚が、向上している。


三体目。


顔面が、潰れている。


鼻がなく、頬が陥没している。


だが、動きは鋭い。


反応速度が、格段に上がっている。


腕が折れ、足が砕け、体中が傷だらけ。


普通なら、動けない。


だが、彼らは動く。


痛みがないから。


疲労がないから。


死なないから。


そして――


動きが、変わっていた。


速くなっている。


予備動作が、消えている。


反応が、良くなっている。


攻撃が、的確になっている。


学習した。


体が、覚えた。


何度も倒され、何度も砕かれ、何度も叩きつけられ。


その繰り返しで。


戦闘プログラムが、書き換わった。


本能が、進化した。


ヤマトが、満足そうに頷く。


「良い」


「お前たちは、合格だ」


三体は、立ち尽くしている。


理解しているのか。


だが、従順だ。


それが、重要だ。



ヤマトが、京と刃を見る。


「これを、繰り返す」


「全ての狩猟種に」


「そして、階層を固定する」


京が、聞く。


「階層の移動は?」


「ある」


ヤマトが答える。


「奴隷種が強くなれば、狩猟種になれる」


「狩猟種が弱くなれば、奴隷種に落ちる」


「力こそが、全てだ」


刃が、呟く。


「……シンプルだな」


「シンプルが、一番だ」


ヤマトが答える。


「複雑なルールは、いらない」


「強ければ、上」


「弱ければ、下」


「それだけだ」



京は、考えている。


この秩序は、残酷だ。


弱い者は、使い捨てられる。


価値がないと判断されれば、殺される。


強い者だけが、生き残る。


それは――


人間社会が、否定してきたものだ。


人権。


平等。


博愛。


弱者保護。


それらは、人間の誇りだった。


文明の、証だった。


だが――


それは、自然の摂理でもある。


弱肉強食。


適者生存。


ダーウィンが、唱えた法則。


自然界では、当たり前のこと。


ライオンは、弱い子を見捨てる。


鮭は、弱い個体から死んでいく。


それが、進化の原理。


人間は、それを「文明」で覆い隠した。


倫理で、道徳で、法律で。


だが、本質は変わらない。


弱者は、淘汰される。


それが、生命の真理。


そして――


覚醒体には、そんな偽善はいらない。


隠す必要が、ない。


ありのままの、秩序。


血で染まった、秩序。


力だけが、全てを決める秩序。


それが――


新しい種族の、やり方。


残酷だが、正直だ。


非人間的だが、自然だ。


京は、それを受け入れる。


もう、人間ではないのだから。



ヤマトが、宣言する。


「これより、この群れは軍団となる」


「覚醒体軍団」


「我々三人が、頂点に立つ」


「狩猟種が、将校となる」


「奴隷種が、兵士となる」


ヤマトの声が、響く。


「目的は、人類の殲滅」


「そして、新世界の建設」


「我々の、世界だ」


群れが、唸り声を上げる。


ウォオオオオ……


それは、賛同の声。


理解しているかは、わからない。


だが、従っている。


それが、全てだ。



京が、ヤマトに聞く。


「次は?」


「北だ」


ヤマトが答える。


「人類最後の砦」


「北海道」


「そこを、落とす」


刃が、にやりと笑う。


「ようやく、戦えるな」


ヤマトが、頷く。


「ああ。だが、今度は組織的に」


「計画的に」


「人間の軍隊のように」


京が、付け加える。


「いや――それ以上に」


三人の目が、光る。


金色。


紅色。


銀色。


三つの光が、北を向く。



覚醒体軍団が、動き出す。


整然と。


秩序を持って。


もう、ただの群れではない。


軍隊だ。


新しい種族の、軍隊。


階層があり、指揮系統があり、目的がある。


それは――


人類が作り上げた、組織の模倣。


だが、より純粋で。


より残酷で。


より効率的な。


血の秩序。


力による、絶対的な秩序。


それが、覚醒体社会の基盤となった。



空は、まだ曇っている。


だが、雲の間から、わずかに光が差す。


それは、希望か。


絶望か。


誰にも、わからない。


ただ、時代は変わった。


人間の時代から、覚醒体の時代へ。


そして――


その時代は、血で始まった。


仲間の血で。


弱者の血で。


それが、新しい秩序の礎。


残酷だが。


効率的だが。


それが、進化の代償。



(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


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