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ゾンビサイド ― 俺は、まだ人間か ―  作者: MOON RAKER 503
ゾンビサイド第3部「蠢動《しゅんどう》」

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第44話「死の会談」

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。

埼玉。


さいたま新都心。


かつて政府の出先機関が集まっていた場所。


高層ビル群。


三十階建て以上のビルが、十棟以上。


省庁の出張所。


裁判所。


税務署。


年金事務所。


全てが、ここにあった。


広い道路。


片側三車線。


歩道も広く、街路樹が並んでいた。


整然とした、計画都市。


バブル崩壊後に開発された。


埼玉の新しい顔。


だが、今は廃墟。


ビルは崩れ、道路は亀裂だらけ。


街路樹は枯れ、倒れている。


信号機は、全て消えている。


電力が、ない。


車は、放置されたまま錆びている。


もう、誰もいない。


役人も。


市民も。


全て、消えた。


死んだか。


逃げたか。


感染したか。



その廃墟の中心。


旧県庁舎の前。


広場がある。


そこに、三つの群れが集まっていた。


東からの群れ。


藤原京が率いる、数千。


西からの群れ。


神谷刃が率いる、数千。


そして――


北からの群れ。


もう一人の、覚醒体が率いる群れ。



三つの群れは、距離を保っている。


互いに、警戒している。


まだ、敵か味方かわからない。


本能が、告げている。


危険だ、と。


同格の存在がいる、と。


群れが、唸り声を上げる。


低く。


威嚇するように。


だが――


三人の覚醒体は、動じない。


ただ、互いを見ている。



京と刃は、並んで立っていた。


同盟者として。


二人の前に、もう一人。


背の高い男。


百九十センチはある。


がっしりとした体格。


筋肉質。


腕は太く、胸板は厚い。


元は、格闘家だったのだろう。


それとも、軍人か。


軍服を着ている。


陸上自衛隊の、戦闘服。


迷彩柄。


だが、階級章はない。


引きちぎられている。


名札も、ない。


血で、汚れている。


自分のか。


他人のか。


わからない。


顔は、鋭い。


彫りが深い。


鼻筋が通っている。


鷹のような、目。


だが、その目の周りには傷がある。


爪で引っかかれたような。


感染した時の、傷だろう。


そして――


その瞳は、銀色に光っていた。


鈍い銀。


まるで、古い硬貨のような。


金色でも、紅色でもない。


第三の色。


第三の覚醒体の、証。



京が、口を開く。


「……お前が、Z-03か」


低く、静かな声。


男は、頷く。


「そう呼ばれている」


掠れた声。


だが、明確だ。


「俺の名は――」


男が、一瞬躊躇する。


名前。


もう、覚えていない。


いや――


思い出せない。


「……ヤマト」


やっと、絞り出す。


「それしか、覚えていない」


京が、頷く。


「俺は、藤原京」


刃も、名乗る。


「神谷刃」


ヤマトは、二人を見た。


銀色の瞳が、金色と紅色を映す。


「……お前たちも、覚醒体か」


「そうだ」


京が答える。


「Z-01とZ-02。人間は、そう呼んでいる」



沈黙。


三人は、互いを観察している。


力を、測っている。


ヤマトの周囲にも、力場がある。


京のような、空間支配ではない。


刃のような、斬撃でもない。


別の、何か。


空気が、重い。


圧力が、増している。


まるで、深海にいるかのように。


京は、それを感じ取る。


(……圧力操作か)


刃も、感じ取る。


(……厄介だ)


だが、三人とも攻撃はしない。


ただ、様子を見ている。



やがて、ヤマトが口を開いた。


「……なぜ、ここに」


「北へ向かう途中だ」


京が答える。


「お前の群れを、感じた」


「……そうか」


ヤマトが頷く。


「俺も、お前たちを感じた」


「同じ、存在を」


刃が、口を挟む。


「お前は、何をしている」


「……待っていた」


ヤマトが答える。


「何を」


「仲間を」



京の目が、わずかに見開かれる。


「仲間?」


「そうだ」


ヤマトが頷く。


「俺一人では、できない」


「俺たちのような存在が、必要だ」


京が、一歩前に出る。


「何をするつもりだ」


ヤマトは、しばらく沈黙した。


そして――


「……新しい秩序を作る」


京と刃が、顔を見合わせる。


新しい秩序?



ヤマトが、続ける。


「人間は、終わった」


その声には、確信がある。


迷いがない。


「だが、我々は続く」


「覚醒体。新しい種族」


ヤマトが、一歩前に出る。


「今、我々は何をしている?」


「ただ、群れで蠢くだけか?」


「本能のままに、肉を求めるだけか?」


「人間を殺すだけか?」


ヤマトの声が、強くなる。


「それでは、獣と同じだ」


「いや――獣以下だ」


「獣には、本能がある」


「だが、我々には理性がある」


「ならば――」


ヤマトが、二人を見る。


銀色の瞳が、金色と紅色を捉える。


「何か、新しいものを作るべきではないか?」


「ただ破壊するだけではなく」


「創造するべきではないか?」


京は、黙って聞いている。


ヤマトの言葉。


それは、京自身も考えていたことだった。


大陸を渡り、多くを見た。


人間の文明が、崩壊するのを。


だが、その後は?


ただ、廃墟が残るだけか?


それとも――


新しい何かが、生まれるのか?



京が、口を開く。


「……秩序、か」


「そうだ」


ヤマトが頷く。


「今は、混沌だ。群れは、本能のままに動く」


「だが、我々は違う」


「理性がある。意思がある」


「ならば――」


ヤマトが、拳を握る。


「我々が、導くべきだ」


刃が、眉をひそめる。


「……導く?」


「そうだ」


ヤマトが答える。


「群れを。覚醒していない個体を」


「秩序ある社会を、作る」



刃が、笑う。


短く。


皮肉を込めて。


「社会? ゾンビが?」


「覚醒体だ」


ヤマトが訂正する。


「もう、ゾンビではない」


「新しい種族だ」


刃は、何も言わない。


ただ、ヤマトを睨んでいる。


京が、間に入る。


「……具体的には?」


ヤマトが、京を見る。


「お前は、理解しているな」


「少しは」


京が頷く。


「だが、方法がわからない」


「俺もだ」


ヤマトが答える。


「だから、お前たちが必要だ」



ヤマトが、周囲を見回す。


三つの群れを。


数万のゾンビを。


「今は、バラバラだ」


「それぞれの覚醒体に従っている」


「だが――統合できる」


「一つの、大きな群れに」


「そして、その中で役割を作る」


京が、聞く。


「役割?」


「そうだ」


ヤマトが頷く。


「戦う者。守る者。狩る者」


「階層を作る。秩序を作る」


「それが、社会だ」



刃が、口を開く。


「……なぜ、そんなことを」


ヤマトが、刃を見る。


「お前は、納得していないな」


「当然だ」


刃が答える。


「俺は、ただ強くなりたいだけだ」


「秩序など、必要ない」


ヤマトは、微笑んだ。


わずかに。


「強さだけでは、生き残れない」


「人間を、見ろ」


「彼らは強かった。武器があった」


「だが、負けた」


「なぜだと思う?」



刃は、答えない。


わからない。


考えたこともない。


ヤマトが、続ける。


「秩序が、崩壊したからだ」


ヤマトの声は、教師のようだ。


説明している。


分析している。


「国家が、機能しなくなった」


「政府は、逃げた」


「指導者は、死んだ」


「軍が、バラバラになった」


「指揮系統が、寸断された」


「補給が、途絶えた」


「個人では、強い」


「訓練された兵士。優秀な武器」


「だが、組織が崩れれば、弱い」


「一人では、何もできない」


ヤマトが、拳を握る。


「我々も、同じだ」


「今は、勝っている」


「数が多いから」


「人間よりも、速く増える」


「死なないから」


「だが――いずれ、人間は反撃する」


ヤマトの目が、鋭くなる。


「核兵器を使うかもしれない」


「広島、長崎を思い出せ」


「一発で、数十万が死んだ」


「生物兵器を開発するかもしれない」


「我々だけを殺すウイルスを」


「化学兵器を使うかもしれない」


「その時――」


ヤマトが、二人を見る。


銀色の瞳が、光る。


「バラバラの群れでは、勝てない」


「統一された力が必要だ」


「秩序が、必要だ」



京は、考えている。


ヤマトの言葉は、正しい。


人間は、まだ終わっていない。


どこかで、生き延びている。


そして、反撃の機会を狙っている。


その時――


覚醒体も、組織が必要だ。


統一された、力が。


京が、口を開く。


「……わかった」


ヤマトが、目を見開く。


「協力するのか?」


「条件付きだ」


京が答える。


「お前が、支配者になるわけではない」


「我々三人で、対等に」


ヤマトが、頷く。


「もちろんだ」



刃が、舌打ちする。


「……俺は、反対だ」


京が、刃を見る。


「なぜだ」


「面倒だからだ」


刃が答える。


「秩序とか、社会とか」


「そんなもの、人間のやることだ」


京が、刃に近づく。


「刃。聞いてくれ」


刃は、黙っている。


京が、続ける。


「お前は、強い」


「だが、それだけでは足りない」


「我々には、仲間が必要だ」


「組織が、必要だ」


刃は、京を見た。


金色の瞳が、紅色を映す。



しばらくの沈黙。


刃は、考えている。


京の言葉。


ヤマトの言葉。


それらが、頭の中で渦巻く。


仲間。


組織。


秩序。


面倒だ。


本当に、面倒だ。


刃は、一人で戦いたい。


自由に、動きたい。


縛られたく、ない。


だが――


京の顔を見る。


金色の瞳。


そこには、信頼がある。


期待がある。


刃を、必要としている。


(……くそ)


刃は、内心で毒づく。


だが、拒否できない。


京とは、同盟を結んだ。


契約を、交わした。


裏切れない。


いや――


裏切りたくない。


やがて、刃が口を開く。


「……わかった」


声は、小さい。


だが、はっきりしている。


京が、安堵する。


「ありがとう」


刃が、付け加える。


「だが、秩序だの何だの、お前たちに任せる」


「俺は、戦うだけだ」


ヤマトが、笑う。


「それでいい」


「お前の役割は、戦闘だ」


「俺たちが、組織を作る」



三人は、向かい合う。


金色の瞳。


紅色の瞳。


銀色の瞳。


三つの色が、互いを映す。


これが、新しい社会の始まり。


覚醒体社会の、萌芽。


ヤマトが、手を差し出す。


「契約だ」


京が、手を重ねる。


「同盟だ」


刃も、渋々と手を重ねる。


「……面倒だ」


だが、手は重ねた。


三人の手が、重なる。



その瞬間。


三つの群れが、動いた。


一斉に。


まるで、見えない命令を受けたかのように。


互いに近づく。


東の群れが、西へ。


西の群れが、北へ。


北の群れが、南へ。


境界線が、消える。


もう、どれがどの群れか、わからない。


混ざり合う。


だが、混乱はない。


秩序がある。


まるで、最初から一つだったかのように。


スムーズに。


自然に。


統合されていく。


もう、境界はない。


もう、別々ではない。


一つの、巨大な群れ。


数万の、覚醒体軍団。


その頂点に、三人の王。


金色と紅色と銀色。


理性と破壊と秩序。


三つの力が、一つになった。


三位一体。


新しい種族の、支配層。


これが、覚醒体社会の始まり。


人間の後に来る、何かの。



ヤマトが、言う。


「まず、群れを整理する」


「強い個体を選別する」


「役割を、与える」


京が、頷く。


「北への進軍は?」


「続ける」


ヤマトが答える。


「だが、今度は組織的に」


「計画的に」


刃が、呟く。


「……人間みたいだな」


ヤマトが、笑う。


「そうだ」


「人間から、学ぶ」


「彼らの知恵を、我々のものにする」



三人は、歩き始める。


北へ。


群れが、それに従う。


数万のゾンビが、秩序を持って進む。


列を作って。


隊列を組んで。


もう、ただの群れではない。


軍隊だ。


覚醒体の、軍団。


そして――


その先には、人類最後の砦。


北海道。


そこで、最後の戦いが始まる。


組織対組織の。


秩序対秩序の。


人間対覚醒体の。


最終決戦が。



空は、曇っている。


灰色の雲が、空を覆う。


だが、雲の切れ目から、光が差す。


わずかな、光。


それは、希望か。


それとも、絶望の前兆か。


誰にも、わからない。


ただ、時代は動いている。


新しい種族の時代へ。


そして――


その時代がどうなるのか。


まだ、誰も知らない。



(了)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

あなたの時間を少しでも楽しませることができたなら、それが何よりの喜びです。

また次の物語で、お会いできる日を願っています。


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