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12/30

祝福祭(支度の戦場にて)


 王都に行った翌日、情報屋からは侍女と護衛を派遣する旨の手紙が届き、更にその翌日、新しい侍女と護衛がやって来た。


「シーラと申します。本日からブラウエル公爵令嬢、リースベット様にお仕えさせていただきます」

「私はシュヴァルト・エスクドと申します。本日より、リースベット様の護衛を務めさせていただきます」


 どちらも1人ずつというのは、足りてない。

 けど、必要に応じて公爵家の人に助けてもらうので、私には1人ずつで十分。

 当初の予定通り、期間限定で侍女を務めてくれた──ティナには、通常業務に戻るように伝えた。……が、断られた。


「お願いします! このままお嬢様付きとして、お側に仕えさせて下さい! 雑用でも構いません!」


 断られただと語弊があるので、正しくはお願いされた。

 その熱意とヲタクの親近感。仕事もキチンとしてくれたことを加味した上で、継続してもらうことになった。


 そして……問題の3日後。祝福祭当日。

 朝からラニアが血走った目の下にクマをぶら下げて、渾身の出来だというドレスを持って来てくれた。お礼は言ったけど、同時に気を失うように眠ってしまったので、聞こえてたかどうかは定かではない。

 ラニアには後日改めてお礼を言うとして、ドレス到着から私たちは戦争状態。


「そっちの靴じゃなくて! このドレスが見えないの!? 靴は絶対、白のコンチネンタルよ!」


 ティナ指揮官の下、臨時の侍女や使用人たちが、衣装室とクローゼットを行ったり来たり。

 私はというと、シーラを筆頭に全身を磨かれている。


 社会人の身だしなみとして、自分でメイクやらをしてた頃も朝は戦争だった。

 だから気持ちは分からないでもない。ただ、規模と迫力が違う。

 全部お任せでしてもらってるだけの立場は、恐縮という意味で気疲れするけど、段々と自分が綺麗になっていくのは楽しい。

 まぁ、私は楽でも……彼女たちは支度の戦場に立ってるわけなので、お礼は勿論のこと、ご褒美的なモノを贈ることにする。


 トータル時間は3時間を超え、仕上がりは「感激ですぅ……」と、ティナが涙ながらに絶賛する出来栄えだった。


 モデルありきでデザインをしてくれるラニアは、リースベットのことをよく理解してると思う。

 リースベットの容姿、イメージ、そういった魅力を最大限引き出してくれるドレス。

 オフショルダーのマーメイドライン。

 可愛いより、美人なリースベットにはスッキリしたシルエットがよく似合う。色は全体的に白を基調としたもので、白1色の中にも、細い白のレースを取り入れていたり、アクセントに黒のレースでメリハリをつけている。


 こんな素敵なドレスに、リースベットの美貌が合わされば……ティナでなくとも、うっとりと見惚れてしまう。


「リースベット様、先程ベルン様より「小公爵様は先に会場へ向かった」とご報告を受けております」

「えぇ……」


 シーラの報告にまぁ、そうでしょうね。と続く言葉は飲み込んだ。

 あんなヤツと馬車に揺られて会場までなんて、考えただけで息が詰まる。


「公爵様ご夫妻と一緒に会場へ向かわれますか?」

「いいえ、私も別で向かうわ」


 コルネリウスと一緒になど論外だが、公爵夫妻と一緒にもまた論外だ。

 現代から今に至るまで、1人の気楽さをよく理解している私が、わざわざ嫌な思いをして、家族ごっこの輪に入りたいなんて思うはずがない。


 私の考えとは裏腹に、ティナはオロオロし始め、シーラは何やら思案顔。


「どうかした?」

「えっと……エスコートは、どうされるのかな……と思いまして」


 今の空気感を表すのに、これ以上適切なものもないだろう。

「・・・」だ。


 よくある。知ってる。色んな小説とかで読んだ。

 ヒロインに付き添う、イケメン。


 シーラがコルネリウスのことを報告してくれたのも、遠回しに「エスコート役は先に行きました」ということ。

 私は構わないけど、コルネリウスは私をエスコートしたくないから先に行ったんだろう。公爵は当然、夫人のエスコートがある。

 もう1人、本来ならエスコートしてくれるはずの人が頭に浮かびはする。……残念ながら()()だけで、そんな可能性は限りなくではなく、ゼロ。


 つまり、私にエスコート役はいない。


「……エスコートなしで構わないわ」


 強がりではなく、それしか選択肢がないだけ。

 それにこのイベントは、チュートリアルで攻略キャラに偶然出会ったヒロインが、攻略キャラ全員と再会するためのシナリオ冒頭。

 リースベットは背景で描かれて、一瞬だけ登場する。


 今の私は、お金を貯めて、家と仕事が見つかるまで、公爵令嬢としての役割をしなきゃならないというだけ。

 エスコートがないことを噂されようが、既に地の底まで落ちてるであろう評判がどうなろうと知ったこっちゃない。

 まぁ、開き直りと言ってもいい。


「リースベット様、少しお時間いただけますか?」

「えぇ、どうぞ」


 シーラが思いついたように部屋を出て行ったのを見ながら、いっそのこと祝福祭の終わりに、ちょっと顔を出して帰るとかじゃダメかな……なんて考える。

 もっと時間をかけてくれてもいいのに、シーラはすぐに戻って来た。


「会場の方へ連絡を入れて参りました。ちょうど私が以前仕えておりました主君が、急遽祝福祭に参加する運びとなり、パートナーがいないことを思い出したので」

「じゃあ、シーラの前の主人がエスコートをしてくれるの?」

「会場前でお待ちになっているはずです」


 立場的には「よくやった!」と褒めるところなんだろうけど、それよりも感心した。

 不測の事態に臨機応変な対応をする。これは仕事において一番難しいと思ってる。

 今だって、リースベットが「余計なことを!」と言う可能性の方が高かった。そうなれば、シーラが良かれと思ってしてくれたことは無駄になる。

 それをやれる度胸はなかなか凄いと思う。


 現代では大抵が後者じゃないかな?

 叱らないにしても、やんわり「今度からは聞いて動いて」なんて言われるのがオチ。

 私個人としては自発的に動いてくれる人材を評価したい。けど、それで余計に事態を悪化させることもある。どっちも正しいと思うからこそ……難しい問題だ。


「……ありがとう、シーラ」


 それでも、今の私にとっては文句なしの対応をしてくれた。

 優秀な侍女たちに見送られて、私は次なる戦場へ向かうことになった。

 


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