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13/30

祝福祭(男女の戦場にて)


途中に修正箇所を発見し、修正させていただきました。

修正前にご覧になられた方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。

(8/22 12:35)


 以前王都に向かった時は、テーマパークに行く前の子供状態だったわけだが、今回は違う。

 ドレスアップされた姿に心は弾んでも、行き先を考えると相殺される。

 

 既に窓の外は薄暗く、空を見れば、薄い紫から濃い紫、段々と黒に近くなる空の様子が見て取れる。

 たまに、並走するシュヴァルトが乗る黒馬の鼻先も見える。


 こんなことを思うのは駄目だろうけど、馬車の車輪が外れるとか、何かトラブルが起きてほしいと思うのは、想像以上に会場へ着いたのが早かったから。

 同じく王宮に向かう馬車の行列を横目に、私の乗ったフリーパスの馬車は、スムーズに王宮前の馬車停めに停車した。


 中から「開けて」の合図を出せば、シュヴァルトが扉を開けてくれる。

 馬車に乗った時と同じように、手を借りて降りればいい……のだが、騎士服に身を包んだ恰幅のいい男性の代わりに、知らない人が手を差し出しながら立っていた。


「お手をどうぞ」

 

 見るからに上等な黒の正装に身を包んだ、黒髪の(恐らく)イケメン。間違いなく、声はイケボです。

 顔はわからない。流行ってるの? と聞きたくなる、情報屋クロウと同じペストマスク風のハーフマスクをつけているせいで。

 強いていうなら、色が違う。クロウは黒いマスクで、目の前の人は白いマスク。

 ついでに、声も違うから別人だと思う。


 この人がシーラの言ってた人だ、と思い至るまで、そんなことを考えていた。


「本日はエスコートを引き受けていただき、ありがとうございます」

「こちらこそ、連絡をいただけて助かりました」


 手を借りてステップを降りれば、流れるように誘導されて、自然と腕を組んだエスコートの形になる。


「シーラはよくやってますか?」

「えぇ、十分すぎるほどに。今日のことも含めて、私には勿体ないくらいの侍女です」

「それはよかった。以前から女性に仕えたいと言っていたので、話を聞くなり、自ら志願したんですよ」


 紳士的イケメンと和やかな会話をしながら、内心は(誰?! 自己紹介のタイミングは!?)荒れている。


 高貴な方とは聞いている。契約の都合上、詳しいことは話せないというのを理解した上で、シーラとシュヴァルトを採用した。私自身、口が固い人材を希望してたので、そこに不満はない。

 なので、今の私には営業スマイルを浮かべ、そのうちタイミングがあるだろうと、無難な会話を続けることしかできない。

 

 会場に着くまでの道すがら。王宮の内装はさすがといった風情で、海外旅行パンフレットの写真を見ているようだった。凝った装飾の柱があったり、高いんだろう絵画や彫刻、調度品が並ぶ廊下。

 私たちと同じで、着飾った男女の姿を見ながら歩いていると、自己紹介のタイミングもなく、会場となる大ホールに着いてしまう。


 会場の巨大な扉は出入りを自由にするためか、開け放たれているおかげで中の様子がよく見える。

 キラキラした会場内は、赤や青、黄、緑……色の洪水かと思うほど、鮮やかなドレス姿の女性が目につく。傍らには、控えめな色でまとめた男性の姿も。


「会場内もご一緒しても構いませんか?」

「そうしていただけると助かります」


 スルッ、と本心が出た。正直、気後れしてしまったのだ。

 企業の社長やらが集まるパーティーに参加したことならある。

 有名ホテルの一室を会場に、食事有り、イベント、その他有りの。内輪ではなく、仕事の一環で招待されるもので、男女共にドレスコードもあって……私の想像するパーティーイメージはそれだ。

 但し、目の前の会場で行われているパーティーは全く違う。無性にそう感じた。


 1歩、また1歩と会場に近付き、会場に足を踏み入れた途端……何百、何千の視線が肌に突き刺さる。

 何もしてないのに、だ。

 例えるなら、人通りがピークのスクランブル交差点で、見知らぬ人たちが一斉に自分を見る。そんな居心地の悪さ。

 これのまた怖いところは、私を見る人たちの顔が表面上の笑顔を浮かべていること。


 俯きそうになる私に、エスコート役の男性が少し身を寄せ、耳元で「どうやら、男は僕に嫉妬してるようですね」と言うから、自然と私の目は男性の顔を見るために上を向く。


「それなら、女性は私に嫉妬してるんですね?」

「美男美女は視線を集めて困りますね」


 私は客観的な視点でリースベットも、この男性も美男美女と言えるけど、自画自賛しても嫌味っぽくないのは、やはりイケメンのなせる業だろうか。


 人目を避けるように、会場の隅にあるソファーとテーブルが置いてあるだけの、簡易的な休憩スペースに私を座らせると「飲み物を取ってきます」と、イケメンは離れて行った。

 いつまでもイケメンで通すわけにもいかないので、戻って来たら名前を聞こう。

 そう意気込んでいたところに、周囲の人の声が耳に入って来る。


「殿下は朝からお忙しかったのでしょう?」

「それなら仕方ないわよ」

「だからって、ねぇ……お兄様がいらっしゃるのに、わざわざ他の殿方となんて……」


 まさかの私──リースベットについての話だった。

 チラッと横目で見れば、気合十分な女性が3人。リースベットには及ばないにしても、勝ち気な美人といった女性たち。それぞれのドレスが赤、青、緑なので、勝ち気三原色というイメージがついてしまった。


「仮に忙しくなかったとしても、殿下がエスコートをするとは思えませんわ」

「そんなこと言っては可哀想よ。いくら、加護の家に生まれた"たまたま"年齢の釣り合う女性だっただけとはいえ……」

「水の家門も大変ねぇ」


 私が勝ち気三原色に気付いているように、向こうも私に気付いてる。

 その上で、彼女たちは喧嘩を売っているわけだ。

 残念ながら、買いませんよ?

 理由は、単純。あまりにバカらしいから。


 彼女たちが言いたいのは、家族にも婚約者にも相手にされない、可哀想な加護なし(リースベット)

 実は、リースベットには婚約者が居る。それが攻略キャラでも一番人気の王太子。

 エスコートの話が出たとき、頭に浮かんだ人でもある。

 まぁ、しかし……この婚約者との関係は言うまでもなく最悪だ。

 お決まりの展開で、リースベットが王太子に一方的な執着を見せるわけだが、ゲームの中盤で婚約破棄される。とはいえ、婚約破棄は「真実の愛〜」ではなく、リースベットがやらかす悪行三昧のせい。


 転生してから、さっさと婚約破棄しておきたい気持ちはあったが、"たまたま"とはいえ王族の婚約者は加護の家門から……と決まっている設定を無視して、「婚約破棄したいです」など無理な話。

 そもそもヒロインとの進捗度もわかってなかったし、どうすることもできないから深く考えてなかった。


 因みに転生してきてから手紙もなければ、来訪もない。

 ついでに、ドレスが贈られることもない。

 王太子にとっては形だけの婚約者なのだ、リースベットは。

 そんなヤツに相手にされないからといって、私がムキになる理由などない。


「えっ、ちょっと!」

「ヤダ! こっちにいらっしゃるわ!」

「い、行きましょ!」


 ドタバタというわけではないが、勝ち気三原色は退散して行った。

 喧嘩は買わないが、できればリースベットの話はもっとしてほしかった。


「ここに居たのか」


 何度も聞いた、聞き覚えのある声に思わず振り向いてしまう。

 色素の薄い金髪。エメラルド色の瞳。いわゆる金髪碧眼の王子様がそこに居た。


「わざわざお忙しいところ、こちらまで足を運んでいただき光栄です」


 残念ながら、王国式の貴族らしい挨拶の仕方なんてものは知らない。

 どうせ悪女だし。……を言い訳に、その場で立ち上がって見様見真似のなんちゃってカーテシーを一瞬だけ披露する。


「あ、あぁ……それで、そなたのエスコート役はどこに?」

「彼でしたら、飲み物を取りに行っております」

「そうか。私の代わりにそなたのエスコートを務めてくれたこと、礼を言いたい」


 ん……? と、思わず心の中で復唱する。

王太子(じふん)の代わりにエスコートを務めてくれたお礼」

 捉えようによっては、王太子が()()()ように聞こえる。


「恐れながら殿下、礼は不要かと。殿下が彼に頼んだのであればいざ知らず、私が頼んでエスコートを引き受けてくださった方です。礼なら、私からさせていただきます」

「婚約者のエスコートを務めてくれた者に、私が礼を言う必要はない……と?」


 これにはカチンときた。

 いくら形だけの婚約者で、リースベットのことが嫌いだとしても、婚約者らしいことをしてないヤツが、こういう人の多い場所で婚約者面をするのはどうかと思う。

 客観的に見ると、悪女に対しても親切な王太子に見える。

 そして、ここに集まった第三者の殆どはそれを鵜呑みにするだろう。


「形だけの婚約者……でしょう?」

「仮にそうだとして、それでも婚約者に代わりはない」

「婚約者らしいことをしてから言っていただけますか?」

「ならば、婚約者らしく共に陛下の下へ挨拶をしに行こうか」


 腹が立つ。自分に不利な話だからと、こっちの言葉を逆手に取って話をすり替えられた。

 逃げ道はない。断れない。

 表情を取り繕うこともなく、不満を全面に押し出しながら、差し出された手に自分の手を乗せた。


「いっ……!」


 痛みに思わず声が出た。

 王太子が手ではなく私の腕を力いっぱい掴んだせいで。

 咄嗟に腕を引こうとしても、ビクともしない。


「指輪はどうした」

「指輪……?」


 そう言われ、思い出した。

 情報屋に査定してほしいと預けた指輪のことを。

 その日の内にティナからも「指輪は?」と聞かれたが、適当に「なくした」と誤魔化した。思い返してみれば、あの時のティナは驚いた様子だった。高価なモノを「なくした」で済ませたことに驚いたのかと思っていたが、王太子の様子から察するに婚約指輪だった可能性がある。


「なくしました。ですが、構いません」

「なんだと?」

「必要ありませんから」


 婚約者らしいこともしてないのに、指輪は大事にしろ。なんて、自分勝手もいいところだ。

 コルネリウスの時も思ったけど、リースベットが悪いにしても、相手が悪いなら、何をしても許されるわけじゃない。


 腕を掴む力が更に強くなっていくのを感じる。

 ここで可愛く泣けば、庇護欲をそそるヒロインになれるんだろうけど、私は悪女だ。

 意地でもこの場では泣かない。


「僕のパートナーに随分ですね、殿下」

「お前は……」

「リースベット嬢から手を離してください」


 イケメンの登場ですんなり手を離してくれたのはいいが、白い腕は痛々しいほど赤くなって、くっきり手形が残っている。


「遅くなって申し訳ありません。貴女の好みを聞き忘れてしまって、アルコールの入っていないものを探していたら遅くなりました」

「わざわざありがとうございます」

「僕の言い訳より、手当てが先でしたね」


 痛々しい腕を隠すためにジャケットを脱いで、肩にかけてくれる。

 どっかの誰かさんたちとは大違いだ。


 掴まれた腕とは反対の右手を取り、軽く腰に手を添え、会場の外へ促してくれる私たちの背に「おい!」と呼び止める声がする。


「待て! テネーブル大公!」


 彼が足を止めるので、私の足も止まる。

 周囲は一気にザワつき、会場に入った時のように視線が集中する。


「大公閣下……?」

「そう言えば、名乗っていませんでしたね。オリフィエル・テネーブルと申します」

「あ……リースベット・ブラウエルです」


 こんな形で自己紹介するとは思ってなかった。


 

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