港へ急ぐ警察
これまでのあらすじ
華は竜二が前世では誠という名前だったことを明かした。
そして華は女優であったこと。
誠が新聞記者であったことなども・・・・
住む世界が違う二人がどうやって知り合ったのか。
また誠と華が一緒に脱走したことなども話す華。
そして若くして死んだ誠の死の理由は・・・・・
生き残った華のその後の人生とは・・・・
黒田が座るデスクの電話が鳴ったのは午後7:30を回っていた。
黒田は頭から湯気を噴き出しながら受話器をとった。
そして第一声!
『捕まえたかぁぁぁぁ!!!!!』
と電話の相手も確認せずに受話器に向かって怒鳴った。
電話をかけた側の畠山は、いきなり耳をつんざくような怒鳴り声に倒れそうになった。
『ったく、なんて馬鹿でかい声なんだ・・・』
と心の中で罵りながら、受話器の向こうの黒田にこう言った。
『黒田さん、私ですよ。
新聞記者の畠山です。』
黒田は仁王立ちの体制から我に返り、また椅子にドカッっと腰掛けた。
『何だ、お前か。
なんか用か?
俺は今忙しいんだ。』
相変わらず無愛想な黒田に畠山が言葉を続ける。
『その黒田さんを忙しくしている本人が、今どこにいるか知ってるんですけどね。
聞きたくありませんか?』
黒田の目の色が変わった・・・・
そして一段と低く野太い声で黒田は言った。
『どこにいるんだ。』
・・・・・・・・
その頃、誠と華はコンテナの影に身を潜めながら、華のスーツケースの荷物をどうするか思案していた。
誠は荷物らしい荷物は持って来なかった。
いや、持って来れなかったというのが正しいだろう。
一方華の方は、さすがに女だから何も持ってこないというわけにはいかない。
匿ってくれた友人が自分の服や化粧品などを華に持たせてくれたのだ。
しかしこのスーツケースは大きすぎる。
まだ貨物船までは距離がある。
何事もなく貨物船まで辿り着ければいいが・・・
『わかった。このスーツケースは俺が持つから、華はできるだけ身軽にしておいてくれ。』
華は頷いた。
そしてありがとうと言う代わりに誠にキスをした。
時計はすでに午後8:00を回っていた。
誠と華はコンテナの影から飛び出すと、一目散に貨物船へと向かった。
巨大な貨物船はどれだけ遠くからでも船体が見える。
しかし、大きければ大きいほどなかなか距離が縮まらない。
誠は重いスーツケースを引きずりながら四苦八苦している。
華はと言うと身軽な分だけ誠よりも先を走っていた。
時々後ろを振り返っては、誠に『早く!早く!』と手招きをした。
その時に、何か眩い光が華の目を貫いた。
そしていきなり華は大声で叫んだ!
『警察だわ!!!』
誠が『え?』という顔をして後ろを振り返る。
するとそこには白と黒でペイントされたおびただしい数の警察車両が、一斉に誠に向かって走ってくる。
誠も華に向かって大声で叫ぶ。
『華!逃げろ!!
俺には構わず逃げるんだ!』
華のスーツケースを引きずっていた誠と華の距離はかなり開いていた。
誠はそれがよかったと思った。
そして華はそれが最悪だと思った。
華が誠の方へ戻ろうとする。
しかし誠がそれを許さない。
『戻るな!行け!
そのまま貨物船まで走るんだ!
二人とも捕まってしまっては意味がないだろう。
華だけは絶対にアメリカへ行ってくれ。
頼む!!!』
華は泣きじゃくっていた。
しかし誠の勢いに戻ろうとする足は止まっている。
そうしている間にも警察車両が続々と近づいてきていた。
華は誠に
『スーツケースを置いて逃げて!!!!』
と叫ぶ。
しかし警察車両との距離は、誠がもうどうあがいても逃げられる距離ではなくなっていた。
明日は『銃弾』へ続きます。




