第3話 山都マウシニア②
「うーん……どこかな?」
「さあな。目撃証言で出てくる場所がバラバラなんだ、自分の足で探すしか無いさ」
「オーガの群れ、ね。数が多いとランクの高い冒険者じゃないと対処できないし、仕方無いのかもしれないけど」
「まあ報酬は多いし、良いことにするぞ。問題は無いしな」
「それもそうね」
オーガ程度、どれだけいようとソラ達の敵では無い。だが物事は、一筋縄ではいかないものだ。それは、依頼とは関係無いところでも。
「……ねえ、ソラ……」
「どうした?」
「あれ……魔獣よね……?」
「ああ、あの飛んでる……ちょっと待て」
「ミリちゃん、あれって……」
かなり離れた空を飛んでいる鳥。よく見ると烏、それも魔獣のようだ。全長は50cm程度だが……黒い雲を作るほど数が多かった。
「……多すぎるよな」
「ええって……見つかったわよね?」
「うん。こっちに来てるよ」
「いや……町に向かってるな」
ソラ達の前方に魔獣、後方には町がある。しばらくすれば3人の上を通るだろう。
「このまま町を襲うつもりなのね……飛んでる魔獣から町を守るのは難しいわよ?」
「結局、言ってた通りになっちゃったね」
「本当だな……」
1番簡単だが、1番面倒な結果となった。だが見つけたのだから、見逃すなんてことはできない。
「それでどうするの?このままやる?」
「それであいつらがどう反応するかだな……全てが俺達に向かってくれるなら良いが……」
「半分に分かれたら最悪ね」
「そうだな……魔法を使って閉じ込めるか」
「大丈夫なの?」
「魔力はかなり使うな。万が一のために温存しておきたいし、援護はできなくなるぞ」
「分かった。わたしが全部やるね」
「頼んだ」
ソラは魔力を練り、魔法を放つ。すると岩の柱が急速に立ち、魔獣を取り囲んでいく。
「鳥かごだ。逃がしはしない」
完成した鳥かごは、まるで牢獄だった。直径1kmほどの範囲にて太い岩の柱がいくつも伸び、さらにそれから細めの岩の枝が無数に伸びている。閉じ込めるのも、足場にするのも問題無かった。
「これなら、大丈夫ね」
「ああ。俺とミリアは足場を登りつつ上に行く。フリスはここから攻撃してくれ」
「うん。任せて」
ソラとミリアは枝に跳び移りながら上へ上がっていく。そしてその間にも、フリスの攻撃は始まっていた。
「できるだけ、バラバラにした方が良いよね」
雷が次々と飛び、1本ごとに十数匹を倒していく。魔獣も、地上にいるフリスが放っていることには気づいていたが、近づく前に撃ち落とされており、何もできない。
「フリス……意気込み過ぎだな」
「そうね。まあ、私達の登るのが遅いのも関係してるんでしょうけど」
「仕方ないだろ。あんなに上にいるんだからな」
それでも数が数だ。ソラ達が巻き込まれることの心配をしている今のフリスでは、完全に抑え込むことは厳しい。ソラ達がいなければ殲滅できるだろうが。
「集団で下りてきたか」
「攻撃してるのがフリスだけだし、仕方無いわよね」
「だかそのおかげで……俺達もやれるな」
「そうね、行きましょう」
「ああ!」
ソラとミリア、2人は黒い雲となっている魔獣の群れへ飛び込む。
「しっ!」
「やぁぁ!」
2人は2つの弾丸となり、群れを貫く。魔獣達はいきなり現れた2人に混乱し、蹂躙されて瞬く間に数を減らしていく。
「これならいけるな。フリス!一気にやれ!」
「分かった!」
「ミリアも、準備しておいてくれ」
「分かったわ」
「行くよ!」
そしてフリスの雷が多数を薙ぎ払い、生き残りをソラとミリアが追い討ちをかける。時間はかかるが、確実に倒していった。
「終わったわね」
「ああ。魔獣の処理はどうするか……」
「全部指輪に入れましょう。ソラは集めてくれる?」
「そうだな。これを壊すのと同時に集めるか」
ソラとミリアは下へ下り、フリスと合流する。そして鳥かごの外に移動した後、崩しつつ魔獣を近くに集めた。
「凄い数だね」
「1000を超えてるかもな。本当に全部入れるのか?」
「……100匹くらいで良いわよね。特別な素材になるなんて聞いたこと無いし」
「うん、そうだね」
「じゃあ、そうするか」
ソラ達は一部を指輪にしまい、残りは土に埋める。数が多すぎるとこういうのも面倒だった。
その後もオーガを探しつつ、探索を続ける3人。かなりの時間が経った後、ようやく手がかりを見つける。
「ん?これは……」
「足跡よね?」
「オーガかな?向こうに続いてるね」
「オーガかどうかは分からないが、行くぞ。巣があるかもしれない」
それは二足歩行系の魔獣らしき足跡だ。それを辿っていくと、予想通り巣らしきものを見つけた。そしてそこは、守りやすく攻めにくい場所だった。
「この先……あの谷の奥か?」
「うん。見つけたよ」
「抜け道は……無さそうだな」
「正面から行くしか無いわね」
「厄介だが……あれを抜ければ楽にできそうだな。奇襲で一気に突破するか」
谷は長く、至る所に見張りのオーガが立っている。ソラ達は岩の陰に隠れつつ、オーガを少しずつ倒していった。血の臭いでバレないよう、倒したオーガは氷の中に閉じ込めている。
「まだ……気づかれてないわよね?」
「いや、分からない。できるだけ音を立てないようにしているが、数が多いからな」
「そっか。じゃあ、待ち受けられてるとも考えないといけないんだね。それにしても……また多いって……」
「いつものこと……って言っても、多すぎるわよね」
「そういう運命か?」
「じゃあそれって、ソラ君のだね」
そうして20体ほど倒した後、ようやく巣に辿り着いた。谷を抜けた先、そこには……
「砦、よね……?」
「何でここに?」
「見た感じ、古そうだな。だがまずは、オーガを片付けるぞ」
古くボロボロだが、石でできた砦が現れる。そしてその壁の上には、何十体ものオーガがいた。ソラ達はすぐさま近くの岩陰に退避、運良くバレなかったようだ。
「冒険者が動いて正解だったな。こんなところに騎士団が来たら、被害が大きすぎる」
「でも、マトモに防衛戦なんてできるの?」
「やってくるだろうな。壁の上には魔法使いや射手もいるし、普通のオーガも岩を投げてくるくらいはするだろ」
「なら、私達も普通にやるのは危険よね」
「キングオーガもいるかな?」
「可能性は高いぞ。砦を巣にすること自体、キングじゃないと選ばなさそうだからな」
「じゃあ、いると考えましょう。それで、どうするのよ?」
「そうだな……俺が壁を登って上を倒そう。2人は俺が暴れ始めた後、門から行ってくれ」
「分かったわ」
「ソラ君も頑張ってね」
ソラは壁のすぐそばまで走ると足下の土を操作、上まで一気に登る。そして驚くオーガ達を尻目に、一方的な蹂躙を開始した。
「ソラ君、やっぱり凄いね」
「私達も行くわよ。フリス、門を吹き飛ばして」
「うん」
フリスは鉄砲水、というより津波で門を吹き飛ばし、砦内部を水浸しにする。そして圧死体が転がる通路をミリアとフリスは駆けた。
「狭いのに、よく来るよね!」
「馬鹿なのよ。上位やキングに指揮されていなければ、殺すことしか考えてない魔獣なんだからね」
「じゃあ、広い所にはそういった相手がいるってこと?」
「きっとそうよ。あの先は大部屋よね」
「うん。でも……」
ミリアは静止しようとするが、フリスは無視して扉を開ける。その先にいるのは……
「ソラ君が終わらせちゃってるもん」
血塗れのオーガの死体と、その中心に立つソラ。倒れているのは普通のオーガだけでは無く、10体ほどの上位オーガもいた。
「2人とも、結構早かったな」
「通路は狭いもの。大きなオーガじゃ、満足に動けてなかったわよ」
「それもそうか。それでフリス、気づいてるな?」
「うん。この奥だよね」
「それって……キングオーガが?」
「ああ、他にも上位が15体だな。将軍が9体、魔法使いと射手が3体ずつか」
「そんなに……面倒ね」
「なら、俺に良い手があるぞ」
「できるの?」
「問題無い」
扉を開けた先にいたのは、大太刀を持ったキングオーガ。周りにはソラの言った通り、上位オーガの取り巻きもいる。恐ろしい集団だが、ソラ達に緊張は無い。
「騒ぐな」
むしろオーガ達が緊張していた。ソラの放出する濃密な殺気に当てられ、上位は動けていない。キングオーガも、動きがかなり鈍くなっている。
「酷いわね。マトモに動かせてあげないなんて」
「かなりの被害を出してるんだ。遠慮する必要なんて無いからな」
そして風刃により、15個の首が落ちた。唯一それを避けられたキングオーガだが、右腕からは血が流れており、動きはさらに鈍い。
「一方的すぎるか?」
「それはいつものことよ。早くトドメを刺してあげなさい」
「そうだな。責任持って、介錯するか」
介錯と言っても相手の抵抗の意思は消えていないため、ただの殺し合いだ。だがいくら抵抗しても、ソラが首を落とすのには何の問題も無い。
そして後片付けを終えた後、3人は砦の散策を開始する。
「この砦、本当に古いんだな。どれくらい前だ?」
「この辺りにはこの谷しか、安全に山を越えれる場所が無いみたいだもの。町が作られて以降、重要になった時期は何度かあるはずよ」
「それにしても、オーガが砦を巣にしちゃうなんてね。キングオーガがいるっていっても、ビックリだよ」
「この前に遭遇したのも大群だったし……またか?」
「まただとして……目的地がどこかっていう話になるわよね」
「もしかして、次の町?」
「あの町ね……攻め落としたとしても意味が無い気がするわよ?重要地点って訳ではないし、魔王の領域からも遠いもの」
「その通りだが……知能の無い魔獣を使い捨てにするなら、十分な意味があると思うぞ」
「そうなの?」
「ああ。町を攻め落とされたってことが、人々を不安にさせる。そのせいで兵士や騎士を前線に送れなくなるかもしれない」
「そうすれば支配領域を増やせる、か……ソラって、よくこんなこと考えられるわね」
「偶然思いついただけだ。合ってるかどうかは定かじゃない」
「そうだね。それに、来たら倒すだけだもん」
「そうね。私もやるわ」
「頼もしいな、2人とも」
そしてソラ達は町へ戻り報告した。その時ギルド全体が混乱したのは、言うまでもないだろう。




