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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第4章 絶望と希望と新星と

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第14話 共和国首都エリザベート④



「数が多すぎるだろ……」

「見渡す限りね……」

「ソラ君……大丈夫かな?」

「やるしかないさ。俺達は共同体だ」

「ええ、3人で生き残りましょう」

「うん……頑張る」


ソラ達の前方にある広大な範囲に黒い点、いや黒い塊が突き進んでくる。ソラの予想通りなら全体の1割も見えていないが、すでにハウルの時より多いだろう。3倍の戦力とかいうレベルでは無い、圧倒的な戦力差だ。

兵士と冒険者達の配置はハウルの時とは違う。魔獣の数が多いこともあり、大盾及び長槍を構えた兵士達が前に広がり、その横と後ろに遠距離部隊と騎士と冒険者が控えている状況だ。兵士達が受け止め、側面から回り込もうとするものも排除する。側面攻撃などできないために取られた隊列だ。そして城壁の上から防衛兵器を浴びせかける。


「こちらの数も多いが……規模が違いすぎるな」

「どうするのよ?今の陣形無視してやることも可能よね?」

「ああ、だが……それをやるのは時間稼ぎの時だ」

「そうなの?」

「ああ。初めからやると心象が悪くなるし、俺達の消費も多くなりすぎる。やらなくてするならその方が良い」

「それじゃあ、まずは普通にやれば良いのね?」

「ああ、必要なのは中盤以降だ。それまでは指示通りに動く」


これだけの規模が相手だと、連携無しでは相手にならない。事前に役割が決められていた。


「ついでに、動きの確認もするか」

「前の兵士達は大盾と長槍で魔獣を受け止め、後ろから弓や魔法を撃つのよね?」

「冒険者は遠距離部隊に入るか、騎兵や騎士と一緒に迂回する相手を排除だよね?他には物資運搬とか」

「ああ。俺とフリスが魔法での遠距離攻撃、ミリアは矢や薬、魔水晶の運搬係だな。多分ヒマだが」

「ヒマなんて最初だけよ。絶対崩壊するわ」

「まあ、普通ならそうだろうな。崩壊させないのが俺達の役割だ」

「誰からも頼まれてないけどね」

「リーリアや閣下から頼まれたことにしておけ。俺達自身この町を潰したく無いだろ?」

「ええ」

「勿論」

『全隊、戦闘準備!』

「ちょうど良いな。やるぞ」


総指揮官、エクロシア共和国騎士団総団長からの指揮が響く。周囲の人々が緊張する中、ソラ達は自然体だ。本番はここで無いのだから当然である。


『遠距離部隊、攻撃開始!』

「よしフリス、雷を満遍(まんべん)なく落とせ」

「分かった」

「ミリアも頼む」

「ええ、本業じゃないけどね」


指揮官の合図とともに、無数の矢や魔法をが魔獣の軍勢へ突き刺さる。その中でももっとも効果が高かったのは、空から落ちる幾つもの雷だ。

また遠距離部隊では、いつの間にか物資が運ばれているというのが多発していた。


「ソラ君」

「どうした?」

「これって様子見だよね?」

「そうだな。前に出てきているのはDやCだけ、B以上は後ろに待機してる。基本戦術を見てるのか、こっちを疲労させようって魂胆だろ」

「そういう意味なら、思惑通りになっちゃってるわね」

「ミリア、良いのか?」

「5人分は働いてるわ。他が遅いもの」

「そうか。ならペースを落としておいてくれ。もうすぐ動くことになるな」

「そうなの?」

「後ろのB以上……本隊が動けばこっちは瓦解する。それは絶対に止めないとな」

「分かったわ。タイミングは任せるわよ」


魔力と体力を十分残し、3人は自分達が出るべきタイミングを待つ。そして、その時がやってきた。

後方にいたB以上の魔獣が一気に押し出される。こいつらが突入してしまえば防衛線崩壊は時間の問題だった。


「動いたな……ミリア、フリス、やるぞ」

「うん、頑張る」

「ええ、良いわ」

「さあ……行くぞ!」


ソラはAランク魔水晶を4つ握り潰し、前衛の前方20〜50m幅2kmの範囲に高さ10mの石柱を合計1000本作り出す。それ単体でも攻撃になるが、真価はそれでは無い。


「流石ね」

「この程度じゃ終わらないさ。さあ、自由にやれ」

「任せなさい!」


石柱を足場に、ミリアが飛び交う。高速で地上と石柱を行き来し、石柱の間にいる魔獣を順次殲滅していった。1つ目の策がこれだ。


「フリス、上に上げるぞ」

「お願い」


そしてソラはフリスを抱え、1番町に近い石柱の頂上に飛び上がる。そして、フリスに告げた。


「じゃあ、壊滅させろ」

「うん、任せて」


フリスは広大な戦場の各所に大規模魔法を次々と放ち、自身の正面には無数の魔弾を放つ。2つ目の策も上手くいっている。

なおこの結果、ミリアは戦場の右側に行けなくなったが、問題は無い。


「さて、俺もやるか」


ソラが戦場の右側で殲滅を開始したからだ。ソラはミリアとは違い、石柱の間を駆け抜け、魔法を放ちつつ斬り裂いていく。


『止めれていない方が多いけど、大丈夫なのよね?』

「いくらなんでも、これだけ広い戦場を3人でカバーするなんて無理だ。俺達の役割は数を減らすこと、注意を引くこと、そう考えろ」

『分かった。それじゃあ、威力より効果範囲が広いのを使うね』

「ああ、頼む」


正確無比な殲滅兵器なら完璧にできるかもしれない。だが3人は人、どうにもできないことだってある。

それ故、人を信じるしかない。後ろにいる兵士達もしばらく呆気に取られていたりはしたが、すぐに魔獣の迎撃を再開した。


「だいぶ安定してきたな」

『私達がいないと壊れるような脆い体制よ?』

「それでも、だ。後方が余力を残しておいてくれないと困る」

『先を見てるんだね?』

「当前だな。これだけの数を殲滅なんてできない。いつかはアレをやるしかないさ」


ソラ達が数を減らし、疎らにしたことで防衛線もまだ保たれている。このままでもしばらくは大丈夫だろう。

するといきなり、フリスの声が響く。


『ソラ君!』

「どうした?」

『上から来たよ!鳥とか、ワイバーンみたいなのとか。数は……いっぱい』

「航空戦力か……フリス、上の対処に専念しろ」

『それだとほとんどが後ろに抜けるわよ?』

「仕方ない。ミリア、無理はせず減らせる分だけ減らすようにしろ」

『分かったわ。ミリアもお願い』

『うん、任せて』


遠くからだと黒い雲のように見える飛行系魔獣の群れ、こいつらが防衛線に、もしくは城壁の上に達してしまえばかなりの被害が出るだろう。特に防衛兵器は今もかなりの戦果を出しているため、使えなくなると厳しい。

そのため、フリスが迎撃にまわった。


「この町には、リーリアちゃん達がいるんだから」


無数の落雷、無数の稲妻が飛んできた魔獣を迎える。そしてそれを切り抜けた相手には、さらなる歓迎が待っていた。


「壊させたりは……しないよ!」


いつぞやの荷電粒子砲、それがワイバーンや僅かながら生き残ったブロウ(下位)ワイバーンを撃ち抜いていく。頭部や心臓など、急所を次々と穿(うが)たれ、落下していく。


「流石フリス、かなり早いな」

『代わりに下は忙しくなったわね』

「仕方ないだろ。それに流れ弾が落ちてきてるから、まだマシだ」

『マシ、ね……でも、こっちの一部はもう崩れてるわ』

「早いな……立て直せそうか?」

『無理よ。そんな余裕は無さそうね』


ミリアの方は盾持ちが完全に抜かれて騎士や冒険者と対峙している場所もあった。ソラの側は完全に突破されたりはしてはいないが、盾持ちが8割やられた場所も存在する。


「味方が不利すぎるか……」

『このままじゃ負けるわ。どうするのよ?』

『上はもういなくなったよ。一気にやる?』

「いや……退くぞ」

『大丈夫なの?後ろが押し切られちゃうよ?』

「数を減らしつつ、できる限りの障害物を作る。2人はサポートしてくれ」

『根本的な解決にはならないわ。魔人を倒しに行った方が良いわよ』

「いや、それだと味方を崩されて終わるだけだ。それに、魔人には取り巻きもいるはずだしな」

『取り巻きなら纏めて倒せば良いんじゃない?』

「今回のは規模が大きすぎる。魔人はSランク、取り巻きはAランクが10以上と考えた方が良いだろうな。俺達だけだと厳しい」

『そうね……分かったわ。合図はお願い』

『わたしはソラ君に任せるよ』

「ああ。すぐにやる」


ソラは拡声の魔法を使い、全隊へ声をかける。


『門の中へ戻れ!』


当然ながら人々は困惑するが、ソラは畳み掛けた。


『俺達が時間稼ぎをする!外にいる連中は町へ戻れ!城壁の上の連中は何が何でも近寄らせるな!』


普通なら一介の冒険者であるソラの言うことなど誰も聞かないだろう。だがこの場で獅子奮迅の活躍をしていた相手、どうしても信じてしまった。


『それでソラ?どうするのよ?』

『このままだと逃がしきれないよ?』

「ミリアとフリスはその石柱から離れろ。まずは、これだ!」


ソラが薄刃陽炎を振り風の刃を飛ばすと同時に、石柱が石の刃や槍となって魔獣の軍勢に降り注ぐ。そこへソラ達は追撃を加え、かなりの数を行動不能、かつ障害物とした。

さらにソラは強力なウォーターカッターを、フリスは白雷を何発も撃つ。それによって魔獣の前線部隊を半壊させ、こちらの陣営に来ていた魔獣を殲滅したのとほぼ同時、ソラ達以外の全員が門の中に入りきった。


『門を閉めろ!』

「流石ね。でも、まだあるんでしょ?」

「手伝おうか?」

「いや、もうやれる!」


ソラが冷気を纏わせた薄刃陽炎を振り抜くと、地面から氷の柱が次々と生えてくる。サイズは全長1m〜5mで数も多く、巻き込まれた魔獣達を貫き、圧殺していった。柱が生える範囲もドンドン広がり、半径1km近い半円形を覆ったと同時に、そこから発生した1直線に巨大な氷柱が左右60度を数km先まで貫く。


「はぁ、はぁ……よし、下がるぞ」

「どうやって?」

「飛ぶ」

「……もう良いわ。好きにやって」


ソラが風と重力を操り、3人は扉を飛び越えた。





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