第13話 共和国首都エリザベート③
「へえ、そんなこともあったのね」
「ああ、まあそうなんだが……」
ソラの斜め向かいにいるリーリア。ミリアとフリスはそれぞれソラの左と前にいる。
4人がそんな風に話している場所、そこは……
「何でまたこんな所にいるんだ?」
「案内を頼んだからじゃない」
「普通なら私達が案内される側よ?」
エリザベートのとあるレストラン、そこの屋外テーブルだ。普通ならいていい場所では無い。
「だいたい……大統領令嬢がこんなところにいて良いのか?」
「護衛もいるもの。お父様の許可ももらったし、大丈夫よ」
「まあ確かに。護衛は6人ってとこか」
「……当たりよ」
「流石だね」
「視線を感じるからな。ついでに言えば、他の貴族の監視らしきやつも3人いるぞ。こっちは俺達の動向が気になるみたいだが」
「それって大丈夫なの?」
「問題無いわよ」「問題無い」
なお、リーリアには秘密だがソラ達も護衛の依頼を受けている。だが他の護衛のことは知らないので、知覚したのは完全に素だ。
「どうしてよ?」
「今来てるのは……」「今来てる連中は……」
「……1人ずつ話して」
「じゃあソラ、どうぞ」
「分かった。今来てる連中は、俺達がアーノルド家に入ってると思ってるだろうからな。それに、ただの監視だけで視線に特に感情が無いってことは、アーノルド家に対して中立に近い連中の仕業だ」
「ほぼそうよ。相手はサルベリア家とハルマ家、ウチには積極的中立な立場の家ね」
「何でそんなことを知ってるんだ?」
「あら。お父様から、私が公務もしてるって聞いてないの?」
「……つまり、そういうことか」
「そうよ」
「どういうこと?」
公務どころか諜報も担っている、もしくは諜報の結果を受け取っているということとなる。遊び盛りであろう13歳がこんなことまでやっている、それが常識なのかそうで無いのか、ソラには分からなかった。
「さてと、食い終わったしどこか行くか?」
「そうね。じゃあ服屋に……」
「行かない!」
「冗談よ。でも、他に行く場所なんて思いつかないんだけど……」
「血なまぐさい所は行く気にならないしな……図書館かカジノって所になるが」
「それじゃあ、カジノかな?」
「まあ、そうなるか……本気で楽しみそうだけどな」
「良いわよ、そこでも。行ったことないし」
4人はカジノへ向けて歩いていく。他の護衛は向かっている場所に気付いた時点でかなり慌てたようだが、ソラは気にしていない。そんな配慮など依頼の中に入っていないのだかららしいが、護衛がオロオロする雰囲気を感じ取って楽しんでいたりする。
そうしてソラ達はカジノの中へ入っていく。
「うわぁ……」
「凄い……」
「ここも凄いな」
「ハウルの所も凄かったけど、ここも相当ね」
「ハウルってオルセクト王国の王都よね?そんなに?」
「ああ。細かくどうこう言うのは難しいけどな」
首都にあるだけあって立派な場所だ。スロットなどがあるわけが無いが、ディーラーがいるタイプのゲームが幾つもある。また特徴的な服装をした人も何人かいたのだが、ソラ達は努めて無視した。
1万Gをチップに変えた後、ソラは得意ゲームの近くに来て言った。
「さて、ルーレットかポーカーかブラックジャック、この3つが主だがどうする?」
「どんな風なのか知らないんだけど……」
「ソラ君が強いのはブラックジャックだよ」
「じゃあそれで」
「ならここだ」
すぐそばにあったブラックジャックのテーブル、厳ついドワーフのディーラーがいる場所へ歩いていく。そしてソラだけイスに座った。他の3人は見学だ。
「勝負だ。ルールは?」
「基本ルールと同じ、J・Q・Kは全て10、Aは場合によって1か11になる。21を目指して、数が高い方が勝ち、22以上なら問答無用で負けだ」
「ベットと払い出しは?」
「チップは3〜7枚、組み合わせは自由だ。そっちが勝ったら2倍、21が出て勝ったなら3倍だ。数字が同じ、もしくは共に22以上ならそのまま返却になる」
「分かった。じゃあやろう」
ソラは計1000G分のチップを置き、カードを受け取る。手札は5とJだ。また、ディーラーの手札のうち、片方は8だった。
「ヒット」
「ほらよ」
「よし、スタンド」
「ならこっちは……こうだ」
ソラの手札は5とJと6、ディーラーの手札は7と3とK。21対20でソラの勝ちだ。
「いきなり21か」
「まあな。次やるぞ」
続いてソラは2000G分賭ける。手札は7と2だ。
「強気だな。どうする?」
「ヒットだ」
「次は?」
「ヒット、スタンド」
「なら……勝負」
次は20対19で再びソラが勝ち、チップを受け取る。
「ちっ、またか」
「大敗するぞ。どうする?」
「ディーラーの誇り、こっちからは逃げられん」
が、その後山札を変えながら行った約30戦の9割をソラが勝ち、5万G以上のチップを得た。あまりにも一方的な勝負に周りの客やスタッフは騒然とする。だがソラが不正をしていないのは、ディーラーが最も良く分かっていた。
「さて、もう戻るか」
「……2度と来んな」
呆然とするディーラーを尻目にソラは3人の元へ戻る。ミリアとフリスは1度見たことがあるため普通にしているが、初めて見るリーリアは唖然としていた。
「……何よこれ」
「カジノ……というか、俺がブラックジャックをやった場合だな。他のゲームはこうはいかない」
「そう……」
「何かゲームをやってみるか?」
「え?でも賭け事って……」
「勝てば長く続けられる遊び、そう考えれば良いさ。最初に使う金額を決めて、もし増えたら儲けもの、俺はそう考えてる。劇を見るのと同じ感覚だ」
「その割にはよく稼ぐわよね?」
「いやミリア……まあ、勝った方が楽しいからな」
「そうね……楽しんだ者勝ちよね。フリス、行こ」
「うん良いよ、リーリアちゃん」
「ああ、楽しんでこい。俺は後ろで見てるからな」
リーリアはソラから1万G分のチップを貰い、フリスとともに走っていく。それを見ているソラとミリア、2人はまるで知り合いの子どもを見守る若夫婦のようだった。
「やっと子どもらしく笑ったな」
「その場所がカジノっていうのは考えものだけどね」
「やっぱり正体を隠したままだと、純粋に楽しめなかったか。立場的に友人もできづらいだろうし」
「仲の良い子が自分の町に戻っちゃったらしいしね。つらくもなるわ」
「……いつの間に」
フリスとリーリアは笑いながら、2人で幾つものゲームで遊んでいく。……リーリアがようやく年相応となったと言えるのか、フリスが幼いと言えるのかは分からないが。
リーリアは勝ったり負けたりを繰り返し、満足そうな顔で戻ってきた。
「楽しかったわ」
「こういったゲームは賭け無しでも楽しいからな。家でもやったらどうだ?」
「でも……」
「カードなら、母親とも楽しめるだろ?カジノには無いゲームでも良いしな」
「ええ、そうするわ」
一気に笑顔になるリーリア。やはり母親のことが好きなようだ。綺麗な笑顔を見て、ソラ達も嬉しくなった。
だが、楽しい時はすぐに終わる。そしてそれが平常だとは限らない。
「っ!これは⁉︎」
「非常警報⁉︎」
「ソラ君!」
「ああ!リーリア、まずは家に行くぞ!」
「ソラ達はどうするの⁉︎」
「送り届けたらギルドに行く。取り敢えず行くぞ!」
ソラ達は混乱の広まる町を駆け抜けて行く。
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「魔獣の襲撃だと⁉︎」
「は、はひっ!」
ギルドへと駆け込んだソラ達。そこで聞いた話が想定外すぎて、ソラは受付嬢に怒鳴ってしまった。
「ソラ、怒鳴りすぎよ。それで、状況は?」
「は、はい。報告より、北から魔獣の群れが確認されました……」
「数はどうなの?」
「正確な人数は分かりませんが……10万を越えているかと」
「10万……逃げるのは無理か?」
「む、無理ですよ!明日なんですよ!」
「分かりました。落ち着いてください」
ソラが来なかったとしても萎縮するか、混乱で酷いことになりそうだ。プロ根性もここまで想定外な状況相手ではかたなしである。
「……やっぱりパニックだな」
「うん、でも仕方ないと思うよ」
「経験がある人の方が少ないわよ」
「……ギルドマスターの所に行くぞ」
「会わせてもらえるかな?」
「経験者っていう強権を使ってでも会うぞ」
階段で上に上がる時に邪魔は入らなかったが、ギルドマスターの執務室の前にはギルド職員が何人も歩き回っていた。いや、執務室の近くをウロウロしているだけで、特に何もやっていない。
「こ、この部屋はギルドマスターの許可を得た人でないと」
「今はそんな場合じゃない!」
「ごめんなさい。でも、急いでるから」
職員を強引に退け、執務室に押し入る。その中にいたのは白髪緑眼の老人だった。
「なんじゃ、騒々しい」
「やっぱり落ち着かれていましたか。詳しい状況を聞きに来ました」
「わざわざワシに来るかの?」
「パニック状態の人達から聞けと?」
「……ふん、まあいい。座れ」
ギルドマスターの執務机の前にあるソファに座る3人。ギルドマスターも対面に座り、対話を始める。
「詳しい状況からお願いします」
「最初の発見者は巡回中の騎兵じゃ。昨日の昼ごろ、町に向かっとる魔獣の軍勢を見つけた。予想到達時刻は明日、数は10万以上と見積もられておる」
「……この町の戦力は?」
「兵士と騎士が合計約6万6000人、今町にいるD〜Aランクの冒険者は約2万人じゃ。義勇兵を集めたとしても……多くて3万人程度じゃろうな」
「合計約11万6000。魔獣が10万以上だからかなり厳しいか……Sランク以上の冒険者は?」
「ゼロじゃ」
「は?」
「この町にいるSランク以上のパーティーは全て出払っとる。どんなに急いでも明日には間に合わん」
「何で全部!」
「フリス、落ち着け。それで、どうしてですか?」
「Sランク魔獣やそう思われる魔人が複数ヶ所で確認されたからじゃ。急いでも片道3日、出発したのは2日前、無理じゃな」
「……作戦か?」
「ワシもそう読んでおる。相当頭が回るやつじゃ」
「……厳しいことになりそうですね」
「ああ、じゃが勝つしかあるまい」
「もちろんです。できうる限りの準備を進めます」
「いくら強かろうと個人ができることは限られとるじゃろ?」
「個人だろうと打てる手はあります」
「ふむ、楽しみにしておこうか」
執務室を出ていくソラ達。すでにその頭は戦場へ向いていた。
冒険者ギルドに関する補足
冒険者ギルドは、存在する町の規模によって建物の数が変化します。
ソラ達が所属しているのはその町の中で中心となる建物です。基本的にここは他より大きく立派になっています。




