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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第4章 絶望と希望と新星と

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第12話 魔湖①



「島か……」

「聞いてた通りだけど……そのまま行けるのよね?」

「ああ。ここが浅瀬になってる。通って行けそうだが……」

「そのまま行ったりはしないんでしょ?」

「ああ、当然だ」


このダンジョンはほとんどが水で覆われており、所々に島があった。島の広さは畳2畳分のものから野球場クラスのものまで、規則性無く存在している。

1階層は合計10個の島が1繋ぎに続いていた。


「土と氷、どっちがいい?」

「それぞれがどんな風なの?」

「土の方は狭いけど安定する、氷は浮くから安定はしづらいけど広げやすいってとこだな」

「悩むわね……」

「それと、どっちも下から破られる可能性はあるけど、氷の方が脆いな。厚くするとかの方法はあるが」

「氷の方が魔力消費は少ないのよね?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ、氷でお願い」

「分かった」


ソラが手をかざすと、その範囲が凍りつく。それは浅瀬よりも広く広がり、安定性も確保した。そして、滑らない。


「凄いわ」

「それに滑らないよ」

「表面に溝を作ると同時に常に凍らせ続けてるからな。対策はしてあるさ」

「これなら十分戦えるわね」

「ああ、そういううもりで作ったし、フリス?」

「うん、来てるよ」

「何がよ?」

「人型だな……サハギンか」

「でも……」

「ああ」


魔力探知は己の感覚なので画一的に表せられるわけではないが、もしゲームのように表記すると外周付近が赤い点が染まった状態だ。しかもーーそれは増え続けている。


「多すぎるな」

「え?」

「ずっと増えてるもん。100を超えてるよ」

「……多すぎるわね」

「氷の下か上に来たら攻撃できるが、全部俺がやるか?」

「……うん、今200くらいだよね?」

「加速度的に増えてるな。先頭が来る頃には300を超えるんじゃ無いか?」

「……任せるわ」

「ああ。俺もまともに戦いたくない」


しばらく待つと、サハギンの一部が氷の下に潜り込み、残りが氷の上へ飛び上がってくる。ソラはそれを待っていた。


「さぁ……貫け!」


空中のサハギンが着地する瞬間に氷の槍が正中線を貫き、水中のサハギンへは3〜5本の氷槍が(もり)のように放たれ、仕留める。最終的に500ほど登場したサハギンだが、ソラ達の半径10m以内に侵入できた個体はいなかった。


「流石、凄いわね」

「氷の上のやつは、(はりつけ)みたいな恰好(かっこう)になったけどな」

「魔水晶は何個あるの?」

「全部で……34個だな。ちゃんと回収してあるぞ」

「え?」

「氷で囲んであるからな。今ここに移動させてる最中だ」

「わたし達の移動は?」

「勿論できる」

「じゃあ歩きながらでいいわね」


歩きながら魔水晶を回収していく3人。ソラはわざわざ遊び、魔水晶を乗せた氷を塔やゴブレットの形で持ち上げた。ミリアに魔力の無駄使いだと怒られたが。


「そういえば、島を通る必要は無いよな」

「宝箱が島にありそうよ?」

「ああ、それがあったか。じゃあ辿っていった方が良いな」

「罠もあるかもしれないけどね」

「それは……ミリアに任せればいいだろ」

「任せきりなのね。まあ、私の役割だし」

「お願い」


方針を決め、進み始める三人。幾つかの島に上陸したが特に何も無かった。だが……


「じゃあこの島に「待って!」……どうした、ミリア?」

「この島、罠だらけよ」


8畳ほどの広さしかない島、ここに上陸しようとしたソラへミリアの警告が走る。あまりの本気ぶりに、ソラは一瞬冗談かと思ってしまった。


「は?まだ1階層だろ?」

「ありえないくらい罠があるわ。足の踏み場が無いわね」

「例えば?」

「今ソラが踏もうとした場所には落とし穴があるし、追い打ちをかけるものもあるわ」

「……マジか」

「ええ。ソラなら生き残れるかもしれないけどね」

「……迂回して、次の島を目指すか」

「そうしよう」


気を取り直し、次の島を目指していく。浅瀬は一切通らず、ダンジョンの基本攻略法をガン無視している。

すると、再び反応があった。1つだけだが。


「あれ?タコ?」

「デカいし……ヘルオクトパスか。懐かしいな」

「あの時とは違うってこと、見せてやりましょう」

「あの時もボコボコにしたけどな」

「氷は大丈夫?」

「多分割られるから、罠を張るぞ」


割られないような厚さの氷も作れないことは無いのだが、それを常に作るのは魔力の無駄使いだ。

だが現状でも、割るのに時間がかかることに代わりは無い。


「さあ来るぞ!」

「任せて!」

「やるわよ!」


1ヶ所だけ薄い所を作り、そこの近くにいれば誘導することなど簡単だ。そして目論見(もくろみ)通り、ヘルオクトパスが飛び出してくる。


「今さら1匹!」

「なんてことないわよ!」

「……2人に任せれば大丈夫たね」


あの時よりも強くなっている2人、無傷とはいえ1匹程度ならどうとでもできる。迫り来る足を避け、斬り裂いていき、ほとんど時間をかけずに丸裸にした。


「よーし、これで終わりか」

「トドメはソラで良いわよ」

「了解だ」


ソラが薄刃陽炎を振り、ヘルオクトパスを両断する。かつて苦戦した相手とは思えないほど呆気無い幕切れだった。


「あっけない、っと、魔水晶が出たか」

「それだけ強くなったってことよ」

「まあ、前はもっと厳しい条件だったしな」

「うん。わたしのやることが無かったけど」

「あー、それはすまんな」

「良いよ。楽しそうなソラ君とミリちゃんを見れたもん」

「あー、それは」

「人のこと言えないわね」


フリスの言ったことが当たりすぎていて、2人とも苦笑いしかできない。その後は特に問題無く、魔獣が出てもサハギンが数匹程度で、進んでいった。

そして階段を降りた先にいたのは……横幅5mほどのカニだ。


「デカッ⁉︎」

「来るわよ!」

「フリス!」

「うん!お願い!」


振り下ろされる(はさみ)をミリアは単独で、ソラはフリスを抱えて避ける。ついでにソラはカニがいる浅瀬以外に氷を張り、こちらは動きやすく、カニは動きづらくした。

その後も、カニは鋏から高圧水流を出しながら振り、口から細かな水の針を無数に放って攻撃する。それに対してソラ達はカニの気を引きながらも、背後を多めに通ることで逃げ続けた。


「なんだこいつ、硬そうだな」

「雷、やる?」

「いや……効かなさそうだな……」

「また?」

「ああ。今度は甲羅が弾くんじゃないか?」

「じゃあ、どうするの?」

「火と氷交互とかは定番だが……火単体でも良いか。フリスが火で全身を焼いて、俺とミリアが斬り裂く。それで良いか?」

「うん、大丈夫」

『ええ』

「じゃあミリア、フリスの準備が終わるまで気を引いておいてくれ」

『良いわよ。任せて』


ソラがカニから少しずつ離れていくと同時にミリアは少しずつ近づき、完全に注意がミリアに向いた段階でソラは離脱した。そして離れた場所に氷を作り、そこまでフリスを運ぶ。そうしたら返す刀で戻り、ソラはカニの背中に蹴りを叩き込んだ。


「ソラ!」

「タイミングはフリスに任せろ!」

『行くよ!』


フリスの魔法により、カニ全体が燃え上がる。熱だけでなくカニが暴れたことにより氷が割れるが、ソラは魔力を注ぎ込んで保った。そして2人が突き進む。


「ハァァァ!」

「しっ!」


火をエンチャントされたルーメリアスでミリアはカニの目を斬り裂き、ソラが後ろから火・土の付加がかけられた薄刃陽炎で両断した。


「ふう。ミリア、お疲れ様」

『ソラ君〜』

「ソラ?」

「ああ、行ってくる」


漂流しているかのような見た目のフリス、ちゃんとソラは回収しに行った。


「……何も問題無し、か」

「どうしたの?」

「ここで介入するのがあいつのやり方だと思うんだけどな……」

「同じことばっかだと飽きるからじゃないかな?」

「……そうかもな」


ソラが持った疑問はさておき、3人は前の階層と同じように進んでいく。しばらくはサハギンか、小型の魚系魔獣しか出なかったが、それで安心するようなパーティーではない。

そしてそれは数階層下、またもや氷の上にいる時だった。


「あ」

「フリス、見つけたか?」

「うん、これは……」

「あ、マズイなこれ」


フリスの魔力探知に引っかかったのは、魚とは違った特徴的な形、それが複数だ。ソラもそれに気付き、警戒する。


「ワニだよ」

「氷が通りづらいやつが来たか」

「……私、何もできなさそうね」

「そうだな……捕まえるか」

「どういうこと?」


ソラは魔力探知で確認した場所に氷魔法を行使し、直方体のブロックでワニを1体ずつ固めた。


「後は火で貫いて燃やすだけだ」

「あ〜、簡単に終わっちゃった」

「待ち構えるのも面倒だからな。割られないうちにさっさとやるぞ」

「うん」


ワニにトドメを刺し、ソラ達は進んでいく。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「さて、ここはどうだ?」


階段を幾つか降りつつ進んでいった先、ソラ達が辿り着いたのはサッカー場ほどの広さの島だ。


「木とか(しげ)みが多いね」

「魔力探知に反応は無いが、罠はありそうか?」

「木々の間とかには無さそうよ。茂みの中は分からないけど」

「じゃあ茂みの中は少し離れた所から覗くだけ、3方に分かれて探すぞ」

「うん、分かった」

「ええ、良いわよ」


島の中にばらけていく3人。広さは大したことが無いとはいえ、障害物により見逃しやすい場所も多い。罠に気をつけつつも、探していく。

すると、フリスが茂みの間から幅が1mを超える大きな箱を見つけた。


「あ、宝箱あったよ!」

「お、あったか」

「そっちだったのね」

「罠はどうだ?」

「茂みには無いわね。宝箱は……無さそうだけど、調べさせて」

「ああ良いぞ。魔力探知に異常は……無いな」

「確かに無いけど……怪しすぎないかな?」

「何か出てきたとしても、叩き潰せば良いだろ」


ミリアが探っていくが、罠は見当たらない。そのためソラが両手で開けようとする……が、宝箱から長い腕と足が生えてきた。さらに蓋が開き、目が出てくる。


「ちっ、魔獣か!」

「反応無かったよ⁉︎」

「ソラ!やっぱりあれなのよね!」

「ああ!あいつだよ!」


殴りつけてくる宝箱型魔獣、そしてその拳を避け続けるソラ。だがそれに、かなりフラストレーションが溜まったようだ。


「俺に素手で挑むか……しかもそんな雑な」

「ちょっと、ソラ?」

「遅い!」


宝箱のフック気味の右突きを右手で逸らし、左の掌底を撃ち当てる。宝箱は吹き飛ぶが、全身にヒビが入っただけだった。


「ちっ、さすがに硬いか」

「ヒビを入れておいて何言ってるのよ」

「身体強化もかなり少なかったよね?」

「まあ、なっ!」


身体強化最大、本気で振り抜いた右足が宝箱の両足をちぎり飛ばす。残る2人は呆然としていた。


「……意味が分からないわよ」

「……何やったの?」

「ただ蹴っただけだ」

「……まあ良いわ。それで、これはどうするのよ?」

「まあ、俺が刺せばいいか」


まだ生きている宝箱に対し、ソラは踏み潰して倒す……爆薬でも仕込まれていたのかと思うほど、爆散したのだが。


「また凄いね」

「思いっきりやったからな。クレーターもできたが」

「綺麗なすり鉢状になってるわね」

「わたしもできるかな?」

「火球を爆発させればできるんじゃないか?」

「やらなくて良いわよ?」

「…………やらないよ?」

「今の間は何よ」


しばらくミリアの目を見れなかったフリスであった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「また凄いところだな……」

「相手が分からないわね……」

「魚かな?」

「どうだろうな……クラゲか?」


ボス部屋の扉を開けた先。そこは幅2mほどの1本道で、そこを100mほど行った先に直径約10mの島がある。

策略に乗るしかないのが(しゃく)だが、それ以外にやれることが無いため、道を歩いて行った。


「警戒するのが馬鹿になるくらい静かだな」

「魔力探知にも反応が無いね」

「周りにも……何も見えないわ」


魔力探知にも、五感にも、何の存在も感知できない。ボス部屋としては珍しくパターンだが……


「何もいないってこと無いわよね?」

「伏せろ!」

「え?きゃ⁉︎」

「何⁉︎」


急にソラが何かに気付き、ミリアとフリスの頭を押さえてしゃがむ。すると、頭上を何かの影が飛び越えた。


「速すぎるわね……」

「フリス、気付いたか?」

「うん。魔力探知にかからなかったよね」

「え⁉︎」

「だが……あいつの名前はランスマーリン、魔力探知にかからないなんて話は無かったはずだ」

「それってつまり……そういうことよね」

「ああ」


ランスマーリンのサイズは全長3.5m、角は80cm以上ある。カジキとしては大きな方というだけであるが、スピードが異常だ。しかも飛ぶ。

幅が狭いここでは不利、そう考えたソラはある意味酷な、だが現実的な提案をした。


「取り敢えずあの島まで走るぞ!」

「じゃあ来たら教「まただ!」ちょ⁉︎」


またソラが2人を押さえる。そしてその通り、ランスマーリンが頭上を飛んでいった。


「どうして分かるの?」

「殺気だ」

「……非常し「ミリア!」きゃ⁉︎」


ソラがミリアを突き飛ばすと、2人の間をランスマーリンが飛び抜けていった。


「危なかったな」

「……何で私が話してるタイミングなのよ……」

「それはさすがに分からん。偶然ってことも十分考えられるからな」

「……そう願うわ」


何度か襲撃を受けつつも全てを避け、ソラ達はようやく奥の島へ辿り着いた。その島に木は8本しか無く、中央には扉がある……足元に、だが。


「扉が下についてるのね」

「逃げ込んでも良いのかもしれないが、俺は嫌だな」

「わたしもだよ」

「同じね。馬鹿にされたままは嫌よ」

「じゃあ、やるか」


ソラ達が島に着いてから、ランスマーリンは飛び上がっていない。策を練る時間は十分あった。


「じゃあ、それで良いな?」

「でも……」

「ソラしかできないわ。任せましょう」

「ああ、任せろ」

「……うん、頑張って」


ソラは島の端に立ち、薄刃陽炎の(つか)に手をかける。居合の構えを取ったソラへ、ランスマーリンは正面から突っ込んできた。


「走れ!」


が、それをソラは前転して避け、足の裏でランスマーリンの尾びれを蹴り上げる。縦回転となったランスマーリンへ突っ込むのはミリアとフリスの雷だ。


「ミリちゃん!」

「やるわよ!」


2本の雷刃が胸ビレだけでなく表皮も削ぎ取り、双剣が右目と腹を斬り裂く。だが、ランスマーリンは先にあった木で跳ね、ミリアを狙い……


「ミリア、仕留めろ」


飛んできた薄刃陽炎に縫い止められた。すかさずミリアが頭を貫いて倒す。


「よし当たった」

「……無茶苦茶よ」

「刀っえ投げるものじゃないのに……」

「短刀なら投げたりもするからな。一応打刀でも不可能じゃない」

「それでも無茶苦茶よ……」

「俺だからってことにしとけ。他に同じことやる奴なんていないだろうからな」


緊張が続いたため、3人は普段より長く休憩をとる。その間の話題にはやはり、このダンジョンの不自然さが出てきた。


「それにしても……」

「どうしたの?」

「介入が多すぎると思ってな」

「確かにそうね……」

「どうするの?」

「……考えても仕方が無いな。今の俺にどうこうできる相手じゃない」

「そうね。じゃあ、この扉から下りていく?」

「ああ。引き開ける」


ソラとミリアがそれぞれの取っ手を持ち、引っ張る。その先は底の見えない穴ではなく、普通に階段があった。


「この先ね」

「ああ、行くぞ」


ミリアが先頭で階段を下りていく。罠があったり、水漏れしているようなことは無く、最奥の部屋に着いた。ちゃんとそこには宝箱がある。


「よし、あったか」

「ミリちゃん?」

「罠は……無いわね。開けていいわよ」


罠のチェックをし、宝箱を開ける。が、その中には何も無かった。


「……空っぽ?」

「やっぱり、こういうのもあったか」

「私達もずっとやってるものね」

「えっと、前に踏破した人達が報告しなかったってことだよね?」

「ああ。俺達も同じことをしてるし、仕方ないよな」

「これも報告しないのよね?」

「そうだな……聞かれるのは変わらないだろし、報告無しで良いだろ」

「うん、じゃあ……どうする?」

「何も無いのか……まあ、休憩して戻れば良いだろ」

「ええ、私もそれで良いわ」

「じゃあ、そうしよ」

「元気だな、フリス」


想定外があっても、この3人はいつも通りだった。






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