第29話 防衛戦
すみません、遅れました。
次からはもっと早く投稿する様にします。
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「来たか……」
「そうね……」
「いよいよだね……」
ソラ達の前方、地平線いっぱいに広がる平原の先に魔獣の軍勢が現れる。今はまだ黒い影でしか無く、幅も狭いのだが、うごめく影から無数とも呼べる数が存在する事は分かる。確実に門の一点突破を狙った布陣であり、一般の知能の低い魔獣とは考えられない。
それは他の冒険者や兵士達も分かっているので、次第に緊張が高まり、張り詰めていく。
「戦い方はいつも通り、但し孤立しないように注意するぞ?」
「当然、分かってるわよ。私達は遊撃、最終防衛ラインは軍の人達なんだからね」
「わたしも頑張って動くよ」
「無理はしない、力も使い過ぎないが原則だ。持久戦になりそうだしな」
「私達が考えてない訳無いでしょ?」
「ソラ君だって分かってるくせに」
「はは、そりゃそうだよな。やっぱり、敵わないか」
ムードが徐々に緊迫していく中、点でしか無かった魔獣がゴマ粒程の大きさになった時、号令が出される。
『壁上の部隊は攻撃開始!総員、戦闘用意!』
「うぉっしゃー!」
「やったるぜー!」
「皆殺しだー!」
「……テンション高いな」
布陣している者達が叫ぶ中、号令に従って壁上の部隊がバリスタや先込め式の大砲、数は少ないものの魔法矢や魔道砲が放たれる。
その威力は絶大で、バリスタや魔法矢は直撃した魔獣を確実に絶命させ、大砲や魔道砲は着弾部周辺の魔獣ごと薙ぎ払った。魔獣は隙間なく進軍している為、無駄な弾など存在していない。
距離の関係でまだ放たれていないが、投石機も発射準備は終わっており、着弾地点てあるソラ達の100mほど前を狙っている。投石機では石だけでなく、爆弾や焼夷弾の様な効果を持つ魔法薬を込めた弾も放つため、かなりの効果が期待出来る。
「そろそろか……フリス、まず一発デカイのを撃つぞ」
「何で?」
「相手の出方をみる。正確には、率いている魔人の戦略傾向を読む」
「空いた穴をどうしてくるかで、こっちの対応も変わるものね」
「欠点は目立つことだが、負けちゃ意味がないからな。狙われても俺達なら大丈夫だろ?」
「そうね。じゃあ、やっちゃって」
「分かった〜」
投石機が攻撃を始めた頃、ソラ達も魔法による攻撃をすることにした。現状では放たれる弾の数が魔獣の数に比べて圧倒的に少なく、見た目ではそこまで多く減ったようには見えない。
「往け!」
「発射!」
ソラが放ったのは直径1.5m程の巨大な青白い火球、少し遅れてフリスが放ったのは同じ位巨大な渦巻く風球だ。2つの魔弾は防衛兵器の弾や吹き飛ばされた魔獣を抜けると、敵陣の前衛中央部へと順に飛び込む。先に落ちた火球が爆発して火の海を作ると、続いて着弾した風球が暴風となり、合わさる事で火の津波となって広大な範囲内の魔獣達を焼き尽くした。
ちなみに、この程度ならソラ1人でも出来なくはないのだが、2つの巨大な魔弾を順に制御するのは難しいので、成功しやすい方を選んだ形となる。
「な、何だ⁉︎」
「今の誰だ⁉︎」
「あいつら……」
「冷静沈着な奴らだと思ってたのにな……」
「……酷い言われようね……」
「仕方がない……かな。集団に穴が空いたんだし」
「良い感じで出来たね〜」
この攻撃により場は一時的にだが膠着した。一連撃で数百、もしかしたら千にも届きかねないほどの魔獣を消し去ったのだから、当然の反応であろう。冒険者達や軍の兵士は大半が呆然としており、さしもの魔獣達もあの炎壁には恐怖を抱いたらしく、動きは鈍くなっていた。
だが相手は圧倒的な数を誇る魔獣の軍勢、止まり続けるはずもなく、空けられた穴はすぐさま埋められ、再び壁となって進軍して来た。
それを見て、人類側も緊張感を取り戻す。
「……相手の指揮官は馬鹿じゃ無いな。自分達の長所を分かってる。遠距離や魔法が殆ど無い分、数で押す気だ」
「それを蹴散らすんでしょう?簡単な話じゃ無い」
「今日は上手にやるからね!」
「良いな?さあ、行くぞ!」
戦闘前の恒例である薄刃陽炎とミリアの双剣への水の付加をし、すぐ先まで迫っていた魔獣の軍勢へ向けてソラとミリアは駆け出す。フリスはその場に留まって魔法を放ち始めた。その背後にはソラが作った土の壁と岩の壁が幾つも聳え立っている。
「ふっ!はぁ!」
ソラは中衛だ。徒手空拳でゴブリンやコボルトを牽制もしくは倒し、刀で命を狩る。また、各種魔弾を適当な場所に放ち、周辺の魔獣達の進撃を止めたり、殺したりする。
「イヤァ!」
ミリアは前衛を務める。身体強化による持ち前の素早さを生かして双剣を振るい、血の雨を降らせる。
「いけー!」
そしてフリスは後衛となる。魔弾による牽制はソラが行っている為、フリスは大規模魔法を準備し、少し離れた所の魔獣の命を纏めて消し飛ばす。
だが流石に3人だけで防ぐ事はできない。魔獣の軍勢はソラ達の後ろの冒険者達、更に後ろの兵士達へとぶつかった。
「おら来いや!」
「オルァ!」
「行くよ!」
「撃てー!」
「ドリャァァァーー!!」
「放て!」
「突撃!」
「「「「「「ウォォォォォォオオオオオ!!!」」」」」」
事前に魔法や矢が放たれていたが、ぶつかる瞬間剣が、槍が、斧が、戦鎚が、斧槍が、盾が振られ、突かれる。
当然魔獣達も黙ってはいない。様々な大きさの棍棒が次々と振られ、牙と歯が肉を目指す。
互いの衝突によりそこは血が降り、肉が吹き出し、骨が飛び散る、壮絶な戦いの場となった。ソラ達以外の冒険者達は少しずつ後退、ないし側面へと回り込んで行き、兵士達は長槍を突き刺し、近づく者から確実に殺していった。
「2人共、気張れよ!」
「ソラ君こそ!」
「誰に言ってるか、分かってるでしょ!」
「俺の自慢の嫁さん2人だよ!」
朝、日が少し高くなってきた頃に始まった戦いは、簡単に終わりそうでは無かった。
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「オリァア!」
「おい、右だ!」
「ちぃ、一旦退くぞ!」
「放ちまくれ!」
「弾幕切らすな!」
「お、俺の腕がーー!!」
「あ、あなた……」
「ギャーー!」
「クソ共が!」
昼を過ぎた頃、今もまだ戦場は拮抗していた。損害数は魔獣の方が多いが、割合では人の側の方が多い。戦死者は戦いの規模に比べれば少ないのだが、死ぬまで戦い続ける魔獣と大怪我をすれば後退する人との差が出始めていた。
「くそが!数だけはっ、多いな!」
「魔獣はっ、そういうっ、もんでしょ!」
「そうだけどな!フリス、左前!」
「分かった!フレイムストーム!」
「使えたのか……」
「ソラ君のを見たし、練習したもんね」
ソラ達は再び先頭で戦っていた。少し前に休息で兵士の後ろに下がったが、戦線を上げるために急いで戻って来たのだ。
だが、効果は殆ど無かった。始めの頃は前からしか来なかった魔獣達は横からも襲って来るようになっている。後ろに下がった時に、味方の余裕が無くなってきていることも知っていた。
冒険者達の8分の1は既に死に、8分の3は戦闘不能。現在は残りを半数ずつに分けて交代で戦っている。兵も3割は失っており、損傷した武器も多い。壁上の兵士達はほぼ無傷だが、魔力がかなり減っているため魔法は少なくなっていた。残りのバリスタや大砲、投石機は正確性・近接攻撃能力に欠けているため、そこまで大きな意味は持っていない。そんな中で、ソラ達は孤立しかけながらも戦い続けている。
この3人の継続戦闘能力は一般人の比ではない。強力な身体強化により大幅に増える持久力と、並々でない集中力によって、他の冒険者の何倍もの時間を戦い続けている。
だが、無理をしていないという訳でも無い。ソラはまだマシだが、ミリアとフリスは消耗が大きくなってきた。夕方まで戦えるか、ギリギリのところだ。
だがそれでも、厳しさは次第に大きくなっていく。賭けに出る必要が発生するほどに。
「キリがないわね!」
「一旦っ、攻勢に出るぞ!周りを片付ける!」
「分かった。ミリちゃん、お願い!」
「任せて!」
「良いか、やるぞ!」
ソラは薄刃陽炎と両手両足に水、土、風の付加を掛ける。薄刃陽炎でゴブリンの首を切り裂くと、横に迫っていたコボルトの頭へ柄を叩き込み、その反動で目の前のゴブリンの首へ刀を突き刺す。そのまま左足を軸にした右足の回し蹴りでオーガの膝を引き裂くと、軸足を右に変えて後ろ回し蹴りを放ちシャドウウルフを蹴り飛ばす。更に手刀でコボルト2体の首を飛ばし、薄刃陽炎でゴブリン3体の首を飛ばす。その間に少し離れた場所やオーク、オーガを狙って魔法を山程放ち、死体の山を作り上げる。更にその死体を暴風で前に吹き飛ばし、戦場を確保すると同時に敵を倒した。
ミリアは魔法に集中しているフリスの援護をするため、左右に高速で移動しつつ、目の前の魔獣を次々と斬り倒していく。通り抜けた後には血の滝、血の雨、血の池が出来ており、流石のミリアも鎧は血に塗れ、金髪が赤くなっている。
そしてフリスは、直径1m程の小型の竜巻を大量に発生させ、様々な方向に放つ。竜巻が捉えた魔獣は切り刻まれ、吹き飛ばされていく。
一斉攻撃でソラ達の周囲の魔獣は一旦いなくなった。しかし、約50m先は軍勢でうまっており、ソラ達が無事だったとしても町が保つとは思えない。
「このままだと押し負けるわよ」
「……仕方ない。ミリア、フリス、突っ込むぞ!一気に突破して頭を叩く!」
「分かったわ!」
「頑張るよ!」
「その息だ!」
ソラは薄刃陽炎を中心に小さな火の竜巻を発生させ、上段に構える。その射線は魔獣の軍勢の後方中央部を通るルートだ。
「一直線にやる。続けて周りもやるが、フリスにも頼めるか?」
「当然だよ」
「周辺警戒は任せてよね」
「よし、分かった。さあ……割れろ!」
ソラの振り抜いたコースに沿って無数の炎風刃を含んだ巨大な火災旋風が飛び出し、大群を割る。更にソラはその周りへ大量の光線を放ち、邪魔者を排除した。フリスは前後に雷を次々と落としていき、道を更に広げ、後続が続けるようにする。
魔法の雨霰がやむと、魔獣の軍勢の中央に幅15m程の通路が出来上がった。
『行くぞ!』
「ええ!」
「勿論!」
魔法の雨を降らせ、素早く近づいてきた魔獣を斬り飛ばしつつ、群れの中を駆け抜けて行く3人。その後ろには、魔法によって拡声したソラの言葉によって、急な変化による混乱から立ち直った冒険者達や兵士達も生き残りの半数程が続いていた。
ここがフリージア攻防戦のターニングポイントとなった。それは必然か偶然か。




