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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第1章 異世界放浪記

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第27話 沼土③

「おいおいおい……」

「何でよ……」

「道が……」


沼土の第36階層にいる3人の目の前に広がるのは毒々しい見た目の沼。これだけなら沼土でよく見かけるのだが……


「これも含めて今までのは全てオリアントスの仕業なのか?」

「どういうこと?」

「ダンジョンを作り出したのはオリアントスらしいんだよ。暇潰しみたいだけどな」

「そんな……」

「どうやって困難に打ち勝つのか、それを楽しむみたいだから無理ゲーじゃないし、魔水晶って報酬があるから上手く考えてるみたいだが……俺達だけ余計に細工されてるよな」

「そうね」

「そうだね」


ソラ達の通っていた一本道の前後が急に沼に覆われたのだ。最も近い陸地までは目測30mはあり、魔獣もいる毒の沼を泳ぐなんてもってのほかである。


「浮かんで移動……なんてしたら魔獣に狙い撃ちにされそうだな……飛行魔法は完成とは言い難いし」

「火の魔法で蒸発させる?」

「却下だ。一生かけても終わるか分からん」

「土を持ち上げたら良いと思うんだけど?」

「そうだな……魔獣対策は普段通りにできるし、それでいくか」


一応、沼の底を持ち上げてその上を移動する案を採用したのだが、これは仮にも神であるオリアントスが楽しむために行っている事だ。そんな簡単な解決法が残されている訳がなかった。


「あ〜ダメか」

「どうしたの?」

「魔法が発動しない……底の地面を動かす事は出来無いみたいだな」

「そんな……」

「面倒だが、やる事は1つか」

「どうするの?」

「沼の上を歩く」

「「え⁉︎」」


オリアントスによるものと思われる妨害を受けたソラは、すぐさま次の案を実行する。この切り替えの早さはソラの美点だ。


「必要なのは重力軽減と表面張力の強化だな……歩くというより滑るになるか?だがそれだと動きづらいし……毒への対策も必要だよな」

「え、できるの?」

「できると思うが、少し待ってろ。実験は必要だ」


そう言うと、ソラは魔法を使って試し始めた。何度も実験し、失敗結果から改良する。

魔法を創り出す手順としては正しい。しかし、1つ忘れている事があった。


「……無理か、ならこうやって……」

「ねえ、ソラ君」

「どうした、フリス」

「氷で橋を架けるってのは駄目なの?」

「…………あ」

「……ソラ?」

「すまん、素で忘れてた……できるな」

「出来たね」


氷の橋なら普通にできたのだ。渡る時にも魔獣への警戒は必要なため、阻害とならないように滑りにくくする程度のことはしたが、簡単な解決法であった。

勿論、これで終われば困難とは言えない。


「フリス」

「うん、居るよね」

「もしかして……沼の中に?」

「ああ、急に集まったり、現れたりし始めた。簡単にはいかないだろうな」

「魚だよね。結構大きいけど」

「サイズはまだマシな方だろ。対処はそこまで難しく無い」

「……飛び出してくるってこと?」

「可能性は高いな。いるのはポイズンフィッシュとジェルフィッシュらしいし……毒には気を付けろよ」

「ええ、勿論よ」

「よし、行くか」


ソラが一歩踏み出す。それと同時に沼の中から魚系の魔獣の群れが飛び出した。

ポイズンフィッシュは全長30cm程の毒針を持った魚であり、ジェルフィッシュはジェル状の肉体を魚の形にした魔獣だ。前者は毒針に気を付け、後者は核を狙って対処していく3人だが、不安定な足場の上で大量の魔獣を相手にするのはかなりの困難であった。


「ミリア、右だ!」

「あーもー多過ぎるわよ!」

「ミリちゃん、左!」

「っ⁉︎」

「キリがないな!殺しても魔水晶は沼に落ちるし……って、回収出来無いならこれで良いのか」


ソラは3人の周りの内、氷の橋以外の部分を炎の壁で囲った。かなりの出力を持っており、飛び込んできた魔獣は全て燃え尽きている。

外から見ると、火の塊が動いている状態なのだが、問題もあり……


「魔獣を気にしなくて良くなったのは良いんだけど……暑いわね」

「抑えれないの〜?」

「出力を下げると突破されるかもしれないし、氷の壁でも作るか」

「……流石、簡単にやっちゃうのね」

「出力調整は結構難儀してるんだがな……これは確実にフリスの方が上だ」

「わたしじゃこんな発想できないもん。ソラ君だからだよ」

「得手不得手ってことで良いだろ。人なんだからな」


困難を越えたとはいえど、地上への道のりはまだまだ長いのであった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「いくら前のが簡単だったからって……」

「ソラ君、次は右!」

「……良いなぁ、フリス」

「これは無いだろ!」


1つ上がって第35階層、道は角の丸い碁盤の目状へと変化しており、その中をソラ達は走り、数多くの巨大な石球がかなりのスピードで転がっていた。石球は罠としても時折出てくる直径2.5m程のサイズで、必ず1つ以上が3人を追いかけている上に、魔獣も時折襲ってくる。移動に必要な速度はフリスの身体強化の上限を超えているため、フリスはソラが抱えていた。所謂、お姫様だっこだ。

なお、ソラはちゃんとミリアの呟きを聞いていた。


「階段まで着けないじゃないか!」

「何故か直通の道は石球で塞がれてるのよね。しかも複数個に」

「壊さないの?」

「どうせ修復されるか、新しく出来るだろうさ。数が減っていくなんてミスをあいつがするとは思えない」


オリアントスの性根は腐っていると言っても過言ではないのだが、馬鹿では無い。石球を破壊するだけで脱出できるような仕組みがソラ達の困難では無いことくらい分かっているだろう。

ソラも必死に脱出法を考えていたのだが、なかなか思いつかなかった。このレベルの仕組みなら、思いついた結果は大抵オリアントスが期待するものなのだが……


「あ」

「ソラ?」

「そうだな、まともに相手しなくて良いんだよな」

「ソラ君?」

「ミリア、カウントダウンするから、0になったらジャンプしてくれ。3、2、1……」

「え、ちょっと」

「0!」

「えい!……って何これ⁉︎」


同時にジャンプしたソラとミリアが着地したのは空中だ。正確には、空中に出来た透明な足場の上なのだが。

縦横2mの正方形の周りに、高さ1mの柵の様なものが付いており、さらに先程には大きく劣るがちゃんと移動している。ソラはこの物体を操って沼の上へと移動し、石球を避けた。


「ソラ君、これ何なの?」

「氷だ。それを風と重力の魔法を併用して飛ばしてる。」

「飛行魔法……?本当にできちゃうなんて……」

「残念ながら、ある程度決まった物体にしか使えないな。大体水くらい軽い物じゃないと、動かせないんだよ」

「それでも凄いよ……」

「本当はもっと早く動かしたいんだけどな……これが限界か」


ソラは氷を基準として長方形の空間を認識し、その中の物体にかかる重力を軽減、更に空気圧を操作する事で飛んでいた。空気圧を利用する為、密度が一程度以上を超えては操れ無い。現在のソラには海水より少し重い程度の物しか不可能だ。

なお、この魔法の分類は一応飛行魔法となるのだが、氷が3人を運んでいる速度は歩くのより少しだけ速い程度でしか無い。それでも、石球が通らない高度を移動する事で難を免れていたソラ達は、無事階段へと辿り着いた。


「よし、さっさと行くぞ」

「そうね、ここにいたら直ぐに石球が来るし」

「中で休憩する?」

「そうだな、そうするか。ああそうだ、ミリア」

「何よ?」

「お姫様だっこはダンジョンから出た後でな」

「えっ、あっ、なっ!」

「ミリちゃん、やって欲しかったんだ〜」


……ダンジョンの中とは思えない会話だが、実力がある場合はその限りでは無い。その後もソラ達3人は順調に帰路を進んで行った。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「でよー、そこで俺が……」

「だからあいつはそんなんじゃねえって」

「あの魔獣はな、この時にこうすれば……」

「ねえ、あの人どう思う?」

「うーん、ちょっとガサツじゃ無い?」

「オイコラ!もっぺん言ってろ!」

「てめえは要らねぇつってんだよ!」

「ふ、2人共落ち着いて……」

「お、喧嘩か?」

「なあ、賭けでもしねえか?俺は……」


夕方、無事ダンジョンから出てきてフリージアへと戻ったソラ達は、魔水晶の一部を売った後も冒険者ギルドに残っていた。だが、踏破したということは話していない。面倒ごとに巻き込まれるのを嫌ったためだ。

カウンター近くの円形テーブルを囲んで座り、簡単な物を食べ、酒を呑む。周りの喧騒とは離れているが、完全に無視している訳では無い。自由な冒険者らしいスタイルと言えよう。とはいえ……


「……騒々しいな」

「まあ、そういう場所だしね」

「夕方だし、帰ってきた人が多いんだよね〜」

「荒くれ者の集まりだしな。こんなのはどこも同じか」

「イーリアはここまでじゃ無かったわよ。仕切っていたベテランの人がいたしね」

「親切な人が多かったんだよ〜他の町から来た人は絶対じゃないけど」

「ここがこうなのは人が多くて、入れ替わりも多いからか。ま、そういう町、っ‼︎これは⁉︎」

「この鳴らし方って⁈」

「緊急警報?」


ギルドでは当たり前の日々の終わり。それが崩れると知っていても、体験するとは思っていないだろう。

夕刻の落ち着いた時間に、突如として鐘が鳴り出す。打つテンポが速く、明らかに緊急事態だ。

そしてその答えは駆け込んで来た兵士によって明らかとなる。


「……魔獣の大群だ!明日には来るぞ!」


息を切らした兵士が告げたのは、大規模な襲撃の始まりだった。






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