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プロローグ

 轟音が響いた。


 次の瞬間、冒険者パーティー『セプテー』のアジトを守る巨大な門が、爆炎とともに崩れ落ちた。


「な、何だ!?」


「敵襲だ! 全員、武器を取れ!」


 怒号が飛び交う。


 セプテーは二十人近い構成員を抱える、街でも有力な冒険者パーティーだった。


 その拠点が、今まさに襲撃を受けていた。


 崩れた門の向こうには、一人の魔法使いが立っていた。


「入口の破壊、完了」


 その報告を合図に、屋根の上や建物の陰から矢が放たれた。


「ぐあっ!」


「どこから撃ってやがる!」


 武器を取ろうとした男が倒れ、応戦しようとした別の男も肩を射抜かれる。


 混乱する構成員たちに、さらに魔法が降り注いだ。


 誰が、どこから、何人で攻めているのか。


 それすら分からないまま、セプテーの戦力は次々と削られていった。


「ふざけるな! 何の騒ぎだ!」


 奥の建物から、怒声とともに一人の男が現れた。


 セプテーのリーダー、シリウス。


 数々の依頼を成功させてきた実力者であり、このアジトの支配者でもある。


「誰だ! 俺たちに喧嘩を売った馬鹿は!」


 シリウスが剣を抜く。


 その前に、一人の女剣士が歩み出た。


「あなたがシリウスね」


「何だ、女。俺の相手をするつもりか?」


「ええ。そのつもりよ」


 女剣士が踏み込んだ。


 鋭い斬撃がシリウスを襲う。


「ぐっ……!」


 辛うじて受け止めたものの、次の一撃で体勢を崩された。


 反撃の剣を振るう。


 しかし、届かない。


 女剣士は最小限の動きでそれをかわし、逆にシリウスの腕を浅く斬りつけた。


「この……!」


 力任せに剣を振り下ろす。


 女剣士はその一撃を受け流すと、踏み込んでシリウスの剣を弾き飛ばした。


「なっ……!」


 シリウスは後ずさった。


「お前ら! 援護しろ! 何をして――」


 そこで、ようやく気づいた。


 誰もいない。


 いや、正確には、誰も戦える状態ではなかった。


 つい先ほどまで二十人近くいた仲間たちは、地面に倒れるか、武器を捨てて拘束されていた。


 屋根の上には弓兵。


 崩れた門には魔法使い。


 裏口には武装した男たちが立ち、退路を塞いでいる。


「……馬鹿な」


 シリウスの額に汗が浮かんだ。


 このアジトには、腕利きの冒険者を集めていたはずだ。


 それが、まともに戦うことさえできずに壊滅した。


「一体、誰がこんなことを……!」


「リリィ、もういい。ありがとう」


 崩れた門の向こうから、声がした。


「分かったわ、レロス」


 女剣士――リリィは剣を収め、一歩横へ退いた。


 その先から、一人の青年が歩いてくる。


 剣も抜かず、鎧もまとっていない。


 戦場には似つかわしくない、どこにでもいそうな青年だった。


 シリウスはその顔を見て、目を見開いた。


「お、お前……!」


「久しぶりだな、シリウス」


「お前、あの時の小僧か!?」


 レロスは静かにうなずいた。


「レベル1の役立たずが! まさか、これを全部お前が仕組んだっていうのか!」


「俺一人じゃ無理だったよ。みんなに協力してもらったんだ」


「ふざけるな! こんなことをして、ただで済むと思っているのか!」


「それはこっちの台詞だよ」


「何だと!?」


「お前が何をしてきたか、調べさせてもらった」


 レロスは淡々と続けた。


「取引の記録、金の流れ、関係者の証言。隠したつもりだったんだろうけど、結構残っていたよ」


「で、でたらめだ!」


「そう言うと思った」


 レロスは小さく息を吐いた。


「だから、俺が裁くつもりはない」


「……は?」


「では、あとはよろしくお願いします」


 レロスが丁寧に頭を下げる。


 その背後から、鎧をまとった騎士たちが姿を現した。


「シリウス。冒険者パーティー『セプテー』の代表者だな」


「き、騎士団……!?」


「違法な奴隷取引、王国禁輸品の密売、ならびにヴァルディス公爵暗殺未遂への関与。以上の容疑により、貴様の身柄を拘束する!」


「ば、馬鹿な! なぜそのことを……!」


「証拠はすでに提出されている。申し開きは正式な取り調べで行え」


 騎士たちがシリウスを取り囲んだ。


「待て! 俺には後ろ盾が――!」


「その件についても調査中だ」


 騎士の一言に、シリウスは絶句した。


 剣は失い、仲間は全滅。


 逃げ道も、頼れる相手も残されていない。


「レロス! てめえ、覚えてろよ!」


 連行されながら、シリウスが叫んだ。


 レロスは振り返らなかった。


 やがて、その声も遠ざかっていく。


「……終わったわね」


 リリィが隣に並んだ。


「ああ」


「殺さなくてよかったの?」


 レロスは少しだけ考えた。


 かつて、この男に追放された日のことを思い出す。


 あの時は、悔しくて仕方がなかった。


 いつか必ず見返してやる。


 そう思い続けてきた。


 だが、今は違う。


「ああ。殺す価値もない」


 レロスは静かに答えた。


 そして、崩れた門の向こうへ歩き出す。


「さて……次に行こうか」


『次の目的地についてでしょうか?』


「ああ。次の目的地を案内してくれ、エーアイ」


『承知しました。事前に共有された情報をもとに、移動経路をご案内します』


 レロスは小さく笑った。


 彼の旅は、まだ終わらない。


---


 これは、レベルの上限が1に固定され、どれほど努力してもレベルアップできない青年の物語。


 彼に与えられた固有スキルは、剣を振るうことも、魔法を使うこともできない『エーアイ』。


 何度も追放され、役立たずと蔑まれてきた少年が、不思議なスキルと出会い、知恵と経験、そして仲間の力で自分の人生を切り開いていく。


 これは、そんな少年の、少し変わった人生のやり直しの物語である。

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