第68話、迎撃する十三試局地戦闘機
軽量化改造のB-25爆撃機は、それぞれ特別製の500ポンド爆弾を4発が積み込まれていた。
高性能爆薬のものが3発。焼夷弾の束のものが1発だ。この焼夷弾は筒状のものを巻きつけたもので、投下の際にそれが広がり、散布できるように作られていた。
なお16機の爆撃機の中で、5発のみ、戦前に日本政府から米軍兵士に授与された友好メダルが取りつけられていた。友好を真珠湾奇襲で潰した日本に利子つけてお返しするのである。
予定より10時間早く、さらに200マイルも離れた地点からの発進である。燃料を増加させる改造がされているとはいえ、あまり余裕はない。
ジェームズ・H・ドゥーリトル中佐の1番機は、後続機が発艦作業をしている間にも、日本本土へと接近しつつあった。
そこへ2番機、トラヴィス・フーバー中尉の機が、ドゥーリトル機を追い越した。日本本土攻撃は一緒でも、攻撃目標に関してはそれぞれ異なる。途中までは一緒でも、最後は違うのである。
ドゥーリトルは操縦桿を握りながら、血気盛んな部下の操る機を見やり、小さく首を振った。相棒の副操縦士のリチャード・E・コール少尉も肩をすくめる。
まだまだ日本本土までは遠い。先の哨戒艇の通信を傍受しても、日本の迎撃機は当分接触しないだろう。
彼らが双発爆撃機ではなく、空母航空機による襲撃を警戒するなら、明日以降が戦闘になると考える。
あるいは米空母に対して攻撃隊を放ってくるかもしれないが、それにしたって、まだしばらく先だろう。
ドゥーリトルが思わず欠伸が出かかった時、前を行くフーバー中尉機が突然爆発した。
「!?」
「中佐! 2番機が――」
コールが動揺して叫ぶ。ドゥーリトルも完全に目が覚めた。
「見えてる! 見えてる!」
機首から火を噴いて落ちていくフーバー機。隙間から噴き出る炎と煙を見れば、機内はおそらく全滅だろう。
しかし、いったい何だ? 爆弾倉の爆弾が爆発した? いや機首から吹き飛んだように見えたのだが。
『中佐! 上方から――!』
上部砲塔、12.7ミリ機関銃座のポール・レナード軍曹が叫んだ。
まさかの敵機!
・ ・ ・
マ式噴進エンジン搭載の十三試局地戦闘機、そのコクピットで須賀 義二郎少尉は、墜落していく米爆撃機を見下ろしていた。
今日は、フル装備での長距離飛行テストの日だった。基地飛行場の転移板を踏んで『龍飛』の飛行甲板へ転移、そこから発艦したのだが……。
米空母が日本本土近海を航行中。
特設監視艇の通報を受けて、哨戒空母『飛鶴』を発艦した零式哨戒機が、敵空母群らしきものとそこから移動する爆撃機を探知した。
マ式レーダーによる高精度の探知で敵が双発爆撃機らしいとなった時、マ式通信は、基地の管制官から、特破隊の神明 龍造大佐に切り替わり、須賀に問うた。
『その爆撃機を落とせるか?』
ここ連日、十三試局戦を飛ばして、それに慣らしていたが、戦闘装備の上で飛べるだけ飛べという任務をしていたら、敵である。
幸か不幸か、フル装備の飛行だったので十三試局戦は、空対空誘導弾四発、光弾砲の魔力タンクも装填済。胴体下に増槽1個装備。結論、燃料はまだ半分残っている。
「こちらJ02、戦闘可能」
帰りは転移離脱装置で、九頭島飛行場上空へ瞬間移動である。つまりガス欠寸前になるまで飛行なり戦闘なりが可能ということである。……元々そのつもりの飛行だった。
『では、可能な限り、敵爆撃機を撃墜せよ』
こっちは量産されていない試作機だろう――須賀は内心呟く。そこで損傷させたり、最悪墜落するようなことがあれば、この機の試験どころか実用化も遅れるのではないか。
よくも戦闘許可が出るものだと、呆れも半分、だが同時に戦闘機乗りとしては望むところだという思いもあった。
何故なら、その爆撃機は本土を目指している。放っておけば、敵に爆撃される。それが軍事目標であればともかく、もし民間人のいる町などに落とされてでもしたら目も当てられない。
そして今、対爆撃機用に作られた戦闘機に乗っていて、幸い武装も揃っている。そして足を延ばせば届く範囲に敵がいる。であれば、戦わない理由がなかった。
仮に引き返せと言われても、すんなり引き下がっただろうかとも思う。何とも現金な、いや天の邪鬼なことだ。行けと言われれば反発し、戻れと言われても反発する。パイロットというのは我が強い生き物だ。特に戦闘機乗りは。
「命令が出たが、いいのか、妙ちゃん?」
須賀は後座に座る測定員の正木 妙子少尉に尋ねた。幼馴染みということもあり、互いに気安い。
須賀は真珠湾攻撃以前より、戦闘機乗りであり、九六式艦戦でも零式艦戦でも実戦を潜り抜けている。だから今さら敵機と言われたところで、どうということはない。ただ、ここ最近組むようになった妙子はどうなんだろうと思うのだ。
「命令だからね」
妙子は答えた。
「神明の伯父さん――大佐は、タイミングがいいとついでで無茶ぶりしてくるからね。義二郎さんがやれるっていうなら、大丈夫じゃないかな?」
「こいつで戦闘をやったらGとかヤバいけど、大丈夫なのか?」
「G耐性は能力で補えるから、心配しないで。遠慮なくぶん回していいよ」
「……了解」
その言葉、信じるぞ――須賀はスロットルを開き、十三試局戦の速度を上げた。零式哨戒機から敵情が逐次もたらされ、測定員席の妙子がそれを操縦担当の須賀に伝える。
戦闘機は一人で乗るものという認識が強い須賀だが、ここ最近の飛行訓練で慣れてきていた。
「目標捕捉――」
「見えた」
須賀は目視する。戦闘機乗りの視力は高い。双発機が二機。
「先頭の機に、誘導弾を使う」
ゴーレムという自動兵器に搭載されているコアパーツを流用した誘導弾――能力者が操作しなくても、誘導弾の方が勝手に敵を識別して攻撃する新型を選択。先頭の機が指揮官機か?――須賀は、誘導弾への切り替えののち、発射ボタンを押し込んだ。
十三試局戦に4発搭載されているうちの1発が投下され、次の瞬間、煙を引いて飛んでいった。……それがB-25爆撃機、フーバー中尉機を撃墜したのであった。




