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復活の艦隊 太平洋戦記  作者: 柊遊馬


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第1話、あの侵略がなかった世界で


 異世界からの侵略者はこなかった。


 巡洋艦『畝傍』の消失と帰還。そこから得られた異世界技術を研究し、密かに研究していた日本海軍魔法研究所、通称『魔技研』は、異世界の侵略者に対して備えた。


 が、異世界帝国は現れなかったのだ。

 世界は、異世界人を知らず、欧州で始まった戦争がきっかけで、人類同士の争いへと突き進んでいく。


 大陸進出と泥沼の戦いを続ける大日本帝国は、アメリカ合衆国との対立を深め、石油の禁輸を始めとした国の生命線を断つ敵対的経済攻撃を受けたことで開戦を決意。


 1941年12月7日、英国領コタバルへ上陸を開始。その二時間後、ハワイ真珠湾を第一航空艦隊――『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』『翔鶴』『瑞鶴』の六空母を主力とする南雲機動部隊が奇襲。米太平洋艦隊の戦艦部隊に大損害を与えた。


 ついに太平洋を舞台に戦端が開かれたのである。

 日本軍は、断ち切られた石油を始めとした物資を求めて、東南アジアへ進軍を開始。中部太平洋において、グアム、ウェークといったアメリカ領への攻撃、占領を行った。


 アメリカ太平洋艦隊の戦艦群を叩いた南雲 忠一中将率いる第一航空艦隊は内地へ帰投する一方、潜水艦隊によるハワイ封鎖、近海の通商破壊が行われていたことは意外に知られていない。


 そしてアメリカ本土、西海岸にも潜水艦が送られたのが史実の流れであるが、この世界では、それらと異なる部隊が進出していた。

 特通商破壊戦隊――特破隊と呼ばれる軍令部直轄部隊である。魔技研が作り出したその部隊は、後世、復活の艦隊と呼ばれることとなる……。



  ・  ・  ・



 真珠湾攻撃から約二週間が経った太平洋。アメリカ西海岸に迫る日本艦隊が存在した。


 戦艦『土佐』――ワシントン海軍軍縮条約によって廃棄が決まり、標的艦として沈められたが、魔技研によって引き揚げられ改造、再生されたそれが、波を切り裂き進んでいる。

 幻となった加賀型戦艦を近代化、魔技研式改装を加えて作られたその艦は、基準排水量4万1000トン。全長240メートル、艦幅31.2メートル。機関出力13万6000馬力で速力28ノット。主砲に45口径41センチ連装砲五基一〇門を搭載する。


 特破第一戦闘機群の旗艦である『土佐』、その艦橋には、同戦闘群を預かる指揮官、神明 龍造大佐がいた。

 表情に乏しく、冷たい印象を与える。どこか事務などを黙々とこなすような顔付きに、中肉中背。しかしこの見た目で、軍令部直轄部隊ならびに魔技研の中心人物である。


 そんな彼に、先任参謀の諏訪 将治少佐が近づく。痩身かつ優男な雰囲気を纏う彼は、兵学校では同期一の美男子として知られているという。


「司令。第32潜水戦隊から特に通信はありませんでした。アメリカ西海岸での通商破壊は順調のようです」


 先行して活動する潜水艦10隻からなる特破隊所属の潜水艦戦隊。報告がないのはよい便り、というわけではないが、隠密をもってなる潜水艦が頻繁に連絡を取ることは、自らの首を絞めることになる。

 特破潜水戦隊の間では、通信はマ式という専用通信で行うことになっているが、それでも戦闘時以外では極力使用しないようになっていた。


「大いに結構」


 神明は鷹揚に答えると、諏訪はわずかに片方の眉を吊り上げた。


「しかし、我が特破潜水戦隊でも充分だと考えますが、何故、小規模といえど戦艦を含む機動部隊で米本土に近づくのですか?」

「敵さんに、自分たちの庭先まで日本の戦艦、空母が迫っていることを教えてやるためだ」


 つまりは、ドイツ海軍の通商破壊部隊と同じだ。あちらは潜水艦のみならず、装甲艦であるポケット戦艦やシャルンホルスト級戦艦といった大型艦ですら、水上部隊を投入し、英国海軍の戦力を細切れ同然に分散させている。


「姿を見せることもまた戦術だと……?」

「真珠湾攻撃が、山本長官の思惑を外れて、米国民の士気を高めてしまったからな」


 開戦劈頭、米太平洋艦隊を叩くことでアメリカ人の士気を砕き、有利な状況を作り出す。短期決戦を狙う上で、相手国民の士気が下がるのは有効ではあるが、実際のところ、アメリカ人は報復を叫んでいるという。


「嶋田海軍大臣は、真珠湾は米国人の士気を上げてしまった時点で失敗だったのではないかと言ったとか」


「いや、真珠湾どうこうではなく、ルーズベルトの政治力が一枚上手だったというだけのことだ」


 神明はきっぱりと言った。


「あの状況から見事に国民の士気を上げた。個人的には好きではないが、あの大統領の演説は実によくできていた」


 真珠湾攻撃の成否などどうでもいいくらいに、ルーズベルトがピンチをチャンスに変えただけである。


「ルーズベルト大統領は優秀な政治家だよ。……私は嫌いだが」


 前世での記憶――異世界人にこの世界が攻められた時、日本と米国の協力がいまいち遅かったのも、日本の上層部の警戒と共にルーズベルトの日本人への偏見が強かったのを知っている。まあ、それは父親セオドア・ルーズベルトに対する当時の日本の態度も多分に影響しているだろうが。


 神明は、海軍上層部が考える対米戦における短期戦はあり得ないことも知っている。前世のアメリカは異世界人に本土を侵略されても、最後まで白旗を上げなかったからだ。


 前世、前世か――神明はふと考えてしまう。異世界からの侵略者。世界が一致団結し立ち向かったあの大戦。結局あの戦争の結末を、神明は知らない。

 ふとそれを呟いたら、諏訪が「また前世の話ですか」と呆れ混じりに言われてしまった。


 だが平穏だったのはそこまでだった。敵発見の報告が『土佐』艦橋に舞い込んだからである。

 九八式艦偵から『戦艦3、駆逐艦4』を見つけたと報せが入った。


「聞いたか、中佐」

「真珠湾のくたばりぞこないですか」


 諏訪は苦笑する。


「南雲機動部隊がハワイを叩いて、まだ二週間しか経っていないというのに」

「本国で本格的な修理をしようというのだろう」


 神明は軍帽を被り直した。


「誰だ? 通商破壊部隊は小物しか相手しないだろうなどと言っていた奴は」

「いきなり大物ですからね。……やりますか?」

「空母『瑞鷹』に、攻撃隊の発艦を命じろ。そしてこちらも戦闘配置だ」

『戦闘配置』


 戦艦『土佐』艦内に警報が鳴った。特破第一戦闘機群に随伴する改装空母『瑞鷹』の飛行甲板にて待機していた攻撃隊が出撃にかかった。

 時に西暦1941年12月24日。クリスマスの悲劇と呼ばれることになる戦いが始まろうとしている。

新作です。前作『復活の艦隊 異世界大戦1942』を未読でも問題ないようにできています。

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