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空の教室  作者: 緑色
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第一話 浮気

「ねえ、お母さん。空の上には何があるの?」

幼い私は、純粋な好奇心で母に尋ねた。母はゆっくりと口を開き、穏やかな、それでいてどこか遠くを見つめるような声で答えた。

「空にはね、学校があるんだよ、紬」

「がっこう?」

「そう。とっても綺麗で、みんなが楽しく過ごせる場所」

母の言葉の意味を理解できず、私が首を傾げたときだった。

「紬、そろそろ行くぞ。パパ、仕事があるから」

父に促され、私は母の病室を後にする。

「ママ、またね!」

無邪気に手を振る私。重厚なドアが勢いよく閉まった直後、中から母の押し殺したようなすすり泣きが聞こえた。 私がいなくなるのが、そんなに寂しいのかな? 

当時の私は、そんな風に思っていた。病院に行けばいつでも会えると信じていた。それが母との最後の会話になるとは、微塵も疑わずに。

母が亡くなって、わずか三ヶ月。 父は「新しいお母さん」を連れてきた。子持ちで、優しそうで、ひどく綺麗な人だった。 一緒にやってきた男の子は、私と同じくらいの年齢だった。やんちゃで、会えばすぐに私をからかってくる。 最初は弟ができて嬉しいなんて浮かれたこともあったけれど、すぐに彼に対する苛立ちが勝るようになった。

けれど、小学生になる頃には、私たちはまるで双子のような関係になっていた。 母がいなくなってぽっかり空いた心の穴を、彼が埋めてくれた。両親が忙しい日は二人で遊び、喧嘩をし、笑い合った。 こんな毎日が、ずっと続いてほしい心からそう願っていた。学校でも、家でも、もう私は一人じゃない。そう信じていた。

だが、その幸福は、あまりにも残酷な形で崩れ去った。

大好きだった新しいお母さんの不倫。 そこから私の人生は、音を立てて壊れ始めた。

後から知った真実は、さらに私を追い詰めた。父は、実の母がまだ生きていた頃から、新しいお母さんと関係を持っていたのだ。 裏切り。憎しみ。混沌。 あんなに仲の良かった彼とは引き離され、父は母の死後よりも深く荒れ果て、酒に溺れた。

数年後、父はボロボロになった体で、心臓の病で死んだ。

父亡き後私は祖父母の家がある田舎町へ住むことになった。あの日を境に、私の世界からは色が消えた。

教室の隅で、ただ静かに息を潜めるだけの毎日。そんな私にも「好きだ」と言われ、付き合った人もいた。 けれど、彼もまた私を裏切った。「浮気」という、私の人生を壊したあの言葉。 浮気、浮気、浮気……。 どうして誰も彼も、一人の人を愛し抜くことができないのだろう。

私は、中学三年生になった。

「ねえ、綾ちゃん。どうすればいい人と出会える…?」

一番の話し相手である綾に、話しかけた。

「紬は、もっと人を見る目を養いなよ。チャラそうな人を選ばなきゃいいんだから」

綾の彼氏はかっこよくて、一途だと評判だ。 「いいなぁ、綾の彼氏。私も綾みたいな彼氏がよかったな」

私の自虐的な言葉に、綾は一瞬、言葉を詰まらせた。私が前の彼氏に浮気されたことを思い出したのだろう。彼女は少し気まずそうに、けれどゆっくりと口を開いた。

「……紬の元カレ、女遊びで有名だったらしいよ。でもさ、紬は可愛いのに、なんで浮気なんてされるんだろうね? 男子って、本当何考えてるか分かんないよね」

その言葉が、熱を持って頭の中でぐるぐると回り続ける。結論が出ないまま、私は気づいた時には家に着いていた。

「おばあちゃん、お母さん。ただいま」

仏壇の写真の中で、永遠に若く元気なままの母に頭を下げる。

「おかえり、紬ちゃん。今日は遅かったね」

「うん、部活の会議が長引いちゃって」

時計の針は、夜の七時を指していた。 今日はもう、何も考えたくない。鉛のように重い体をベッドに投げ出す。

ああ、お母さんに会いたい。

願うように瞳を閉じると、意識は深い闇の中へと吸い込まれていった。

一週間に一回は投稿する予定なので見てくれたら嬉しいです!文書の誤りつじつまがあってないとこがあったらすみません!

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