第十二話
「小学生のときに――」
千佳に話したことを菜月にも話す。
私が話し終わるまでただ相槌を打つだけで、遮ることもなく聞いてくれる。
「……辛かったね。二人の間にそんなことがあったなんて知らなかった。話してくれてありがとう。てか悠理と葉山を仲違いさせた奴誰だよ、もう」
菜月がプンプン怒っているから、なんだか少し私の目尻が下がる。
「それは、言いたくないかな。結局葉山くんにひどいことを言ったのは私だから。私が強かったらきっと上手く切り抜けられて、葉山くんにあんな顔させなかったと思うんだ」
「悠理優しすぎない?」
「そんなことないよ。だって言ったところで葉山くんとの過去が消えるわけじゃないし。できればもうその子と関わりたくもないから」
軽くニコッと笑うと、だよねと菜月も同意してくれる。
「今は葉山と全く関わりがないの?」
私は一度目線を逸したあと
「少し前はあったよ。助けてもらったの」
「助けてもらった? えっ何? 大丈夫?!」
「あっうん。今は大丈夫。実は――」
ショッピングモールでの話、その後の話。
葉山くんと高野くんと菜月の話はしなかった。
「怖かったよね。葉山がいて本当によかった。それに犯人も捕まって。助けてくれる人がいるのは心強いよね」
「うん、本当にそう。助けてくれる人がいるって心強い」
葉山くんがいたから私こうやって笑ってられるけど、いなかったらずっとビクビクしていたのかもしれない。
「ねぇ、もしかしたらなんだけどさ、私の勘だよ? 葉山小学生のときも悠理を助けようとしてわざと距離を置いたとかは、ないかな?」
「えっ……」
目をこれでもかと丸々見開いてしまう。
「だっておかしくない? すぐパタッといじめが止まるとか。たぶん葉山が何かしたんじゃないかな。それに悠理の言葉で本当に傷ついて嫌になってたら、いくら幼馴染でも今回そこまでしないはず。葉山はいい人だけど、ちゃんと一線は引くよ」
「そう、なのかな」
「少なからずそこまで深入りするような人だとは思わない。部活で関わることも多かったけど、葉山が積極的に人と関わるってイメージはなかったよ」
「でもっ、葉山くんは優しいからっ」
「優しいからこそ悠理を守りたかったんじゃないかな。小学生のときのはいいやり方だとは思わないけど」
守りたかった――その言葉を聞いてあの時の光景がブワッと流れ込んでくる。
守ると約束してくれたときのこと、暴言を吐いて傷ついた顔を見たときのこと、次の日から素っ気なくされたときのこと。
(私がもういじめられないように、守るために、葉山くんは私と距離を置いたの? 嫌いになったわけじゃなくて約束を覚えてくれてて……)
「葉山くんが陰で私を守ろうとしてくれてた……?」
「確証はないんだけどね。うーん、これ言っていいかわかんないんだけど、絵美から聞いた話ね。葉山さ、――」
絵美は葉山と同じ部活で、同じ副キャプテン同士だから話すことも他の男子部員より多かった。
でも明らか一、二年のときより三年になってからのが増え、それも部活引退した後も教室が遠いのにわざわざ話しかけに来るから不思議に思っていたらしい。
一瞬葉山は自分のことが好きなのか?と思ったけど、絶対あり得ないってわかってるから、何か理由があるのか探ってみたところ、絵美が唯一三年間同じクラスの女子は悠理だけ。
悠理と葉山は同じ小学校だと知ると、きっと悠理目当てで来ているのではないかと推測。
それに一、二年のときは他に部員がいたけど、三年では絵美だけだったから増えるのは必然。
悠理から葉山と幼馴染という情報をゲットし、確信に変わる。
葉山は悠理が好きで、悠理を見るために絵美を利用して来ているのだと。
「――こんな感じの話を聞いたんだ。だけどなんで悠理たちが話さないのかはわからなかったんだって。なんとなく葉山に揺さぶりをかけたけど、簡単に聞いていい話ではないと悟ったのと、人の恋路は邪魔したくないからほっとくって言ってた」
まさかそんなことがあったなんて衝撃的な事実。
確かに運良く葉山くんが見ることができたと思ってたときもあるけど、あれは葉山くんが意図的にしたことなのだろうか。
「えっじゃあもしかして、一年生のときからずっとってこと?!」
「うん、たぶんそういうことじゃないかな。あの葉山が執着するなんてちょっとびっくりだけど、ずっと見守ってたのかもしれないね」
言葉が出てこない。
そんなことある? ずっと見守っていたとか。
でも、葉山くんなら――ありえるかもしれない。
ふと戸川くんが話してくれた言葉を思い出す。
「旭は真面目で不器用だから間違いもいっぱいしてきたらしいけど、心の中心にある思いや考えはずっと変わってないはず。だから話せば真剣に向き合ってくれるよ」
目頭から一雫落ちる。
「私、旭くんのこと、ずっとっ……」
誤解してたのかもしれない。
逃げて、逃げて。
向き合わなかったから、謝らなかったから。
勝手に思い込んで決めつけて、自分を守るのに必死で旭くんのことわかろうともしなくて。
旭くんが変わらず守ってくれてたこと、全く気づかなかった。
「ごめん、ごめんなさいっ」
こんなところで泣いていいわけないのに、半個室で声は我慢していてもよくないことなのに。
ハンカチで顔を押さえていても、簡単に止まることなかった。
泣き止むまで菜月は待っていてくれた。
「泣いちゃってごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。悠理も葉山もお互いが自分自身より大切だから、空回りしてるんだと思うんだ。素直になれたらいいね」
本当にそう思う。
大切すぎるから本音を隠し、相手を優先しようとするから空回りして、お互い傷つけてるだけな気がする。
何やってるんだろうな、私たち。
「ありがとう、菜月」
「どういたしまして。それに葉山には貸しがあるからさ」
そう呟く菜月は懐かしむように遠くを見つめる。
「貸し?」
「うん、まぁね」
「どんなこと? 聞いても大丈夫?」
少し苦笑いする菜月に、私は顔色を伺う。
うーん、うーん、と悩む菜月。
「悠理だけに話しをさせて、私が話さないのは不公平だよね。……もしかしたら悠理はあまりいい気はしないかもしれない」
「えっ?」
「それでもいい?」
今度は菜月が私の顔を伺っているよう。
私があまりいい気はしない……もしかしたらあの時のことなのかなとふと思う。
聞きたかったことが聞けるかもしれない。
ハンカチをギュッと掴みながら覚悟を決め、静かに頷いた。




